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「試合に飢えた」ベナンの子どもに活躍の場を 大会新設へ奔走するJICA海外協力隊員・伏見有史さん

野球に飢える子どもたちに笑顔と真剣勝負の場を――。JICA海外協力隊員として西アフリカ・ベナンで野球指導に取り組む伏見有史さん(30)が、新たな野球大会「ベナンベースボールクラシック supported by 世界の野球を愛する皆様」を開催しようと奔走している。大会新設を計画したきっかけやそれに紐づくベナンの野球事情について話を聞いた。

所属チームの無期限休部を機に下した海を渡る決断

伏見さんは青森県出身。青森の木造高校、岩手の富士大学、山形のきらやか銀行と進み、東北で「野球一筋」の人生を歩んできた。

そんな中、入行5年目の2022年9月、きらやか銀行硬式野球部が業績悪化を理由に無期限休部を発表した。当時副主将を務めていた伏見さんは突然の出来事に驚きながらも、支え続けてくれた銀行に恩返ししようと社業への専念を決意。きらやか銀行のメンバーが中心となって設立されたクラブチーム「B-net/yamagata」に所属こそしたものの、以前のように毎日練習に励むことはできなくなり、「野球のある日常」は失われた。

きらやか銀行では内野手として5年間プレーした

「どうしても野球を切り離せない自分がいた」。もどかしい日々を送っていた伏見さんはJICA海外協力隊・野球隊員の募集があることを知り、東北どころか日本を離れて新たな挑戦に乗り出す決断を下した。見事試験に合格し、野球を広めようと2024年11月に海を渡った。

異国の地で課題と向き合いながら送る充実の日々

ベナンはアフリカ西部に位置する人口約1300万人の国。野球はベナン野球連盟の会長がアメリカから持ち帰ったのを機に普及し始めたといい、現在の競技人口はBaseball5も含めると約250人を数える。国内では10チーム程が活動しており、年齢制限はなく、7歳から20代中盤まで幅広く在籍する。

伏見さんは平日の夕方と土日に各チームを訪問し、選手への技術指導や指導者へのコーチングを行っている。公用語であるフランス語を用いて、身振り手振りも交えながら野球を教える日々。「野球のある日常」が戻ってきた。

ベナンの子どもたちは限られた野球道具で練習に励んでいる

野球道具は流通しておらず、昨年発足した代表チームでさえ不足している状況。アメリカなどの支援を受けて確保しているとはいえ、使い古された状態の悪いグローブやボールがほとんどだ。指導力や情報量の地方格差も激しく、課題は山積みだが、だからこそやりがいを感じながら野球に携わっている。

選手のモチベーション創出に向け動き出した計画

そんな伏見さんが大会の新設を思い立ったのは昨年末。ベナン唯一の野球大会で主審を務めた際、「練習の時とは違う選手の顔が見られた」のがきっかけだった。試合中、選手たちは笑顔をのぞかせる一方、闘争心をむき出しにして白球を追っていた。

「ベナンでは練習試合を含めて試合をする機会がほとんどありません。目指すものがないので、選手たちはモチベーションがない状態で練習しています。その選手たちが試合に飢えていることが野球を楽しみながら、本気でプレーする姿から伝わってきて、もっと試合ができる機会を作りたいと思ったんです」

選手たちに試合の機会を与えるのが最大の目的だ

最大の壁は予算面。各チームに資金はなく、指導者はボランティアで活動している。ベナン野球連盟も限られた予算の中でやり繰りしているため、「世界の野球を愛する皆様」の支援を募って開催しようと計画した。寄付金の用途はグラウンド使用料、選手の移動費、審判への手当、石灰や試合球といった備品の購入など。3月中を目処に集め、大会を運営する見積もりだ。

「ベナンベースボールクラシック」は5チーム総当たりのリーグ戦で、4月または5月から9月まで毎月、計20試合を実施する予定。10月または11月には上位3チームによる優勝決定戦を行って優勝チームを決める(チーム数や開催時期は変更の可能性あり)。約半年間、大会が続くことで、選手たちのモチベーションは格段に高まると予想される。ひいてはそれが競技普及につながる。

任期まで「野球を通じた人間形成」にも取り組む

伏見さんは「来年以降も、日本で言う甲子園のように、何年も続く大会になってほしい」と力を込める。継続に向け、スポンサー探しなども並行して進めているという。

JICA海外協力隊の任期は今年11月まで。残された時間はそう多くない。大会の成功はもちろん、地方チームへの訪問頻度を増やしたり、バット作りを促進したりして、あらゆる角度からベナンの野球を盛り上げようと知恵を絞る。

任期まで与えられた役割を全うする

また技術向上にとどまらない、「野球を通じた人間形成」も野球隊員に課せられたミッションの一つ。伏見さん自身、野球に育てられた。それゆえに「現状、ベナンでは野球でご飯を食べていくことはできませんが、何かしらのかたちで国のために活躍できるような人材を、野球を通じて一人でも育めれば嬉しい」との思いは強い。試合をする機会が増えれば、チームメイトや相手へのリスペクトを持ってプレーする意識も醸成されるはずだ。

帰国後はベナンへの支援を続けつつ、「不安定な日本の野球界に経験を還元したい」とも目論む。そしてもちろん、自身を成長させてくれたきらやか銀行硬式野球部の復活も心から願っている。ベナンの、そして日本の野球界の未来を明るくするための挑戦が始まろうとしている。

(取材・文 川浪康太郎/写真 伏見有史さん提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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