関西独立リーグが向かうのは「挑戦と諦め」の両方がある場所
『さわかみ関西独立リーグ』(以下関西独立)が今年も始まる。
コロナ禍はスポーツ界に多大な影響を及ぼしている。観客動員が激減することでNPB各球団でさえも経営に苦しんでいる。規模の小さい関西独立も痛手を負っている状況だが光が見えないわけではない。同リーグ代表を務める仲木威雄氏が関西独立の現在地と可能性を率直に語ってくれた。
「NPBへ選手をコンスタントに輩出できるようになるはずです」
主に関東・甲信越で活動しているルートインBCや四国アイランドリーグplusからはNPBへの選手輩出が目立つ。今年は堀江貴文氏が設立、西岡剛監督を迎えた福岡北九州フェニックスの話題が世間を賑わしている。関西独立は他の独立リーグに比べ話題を目にする機会は少ない。しかし着実に前進しており未来は明るそうだ。
~球団数が増えることは今後に向けてプラスになる
「最悪の時期を脱して損はさせない状況に入りました。『一般財団法人さわかみ財団(以下さわかみ財団)』へネーミングライツ(命名権契約)と資金増額のお願いをしました」
関西独立は新たなフェイズに突入している。現在の関西独立は運営母体が変わった2代目にあたる。2009年から13年まで活動した(初代)関西独立リーグ(KANDOK)所属の一部球団が脱退。13年12月に『BFL(ベースボール・ファースト・リーグ)』が立ち上がった。17年に仲木氏が代表に就任、20年に締結された『さわかみ財団』との命名権契約に尽力した。
「当時は命名権契約ではない形、資金援助などで『さわかみ財団』に支援してもらっていました。今の金額の3分の1ぐらいの支援をいただいており、経費を見直しつつ資金のやり繰りをしていました。19年に堺の新加入が決まり球団数が4つに増えました。試合数を増やせますし他にもプランを立てやすくなりました」
『さわかみ財団』はスポーツ、文化、芸術等の支援を通じての社会貢献事業を行うため09年に立ち上げられた。スポーツにおいては関西独立と水泳の五輪を目指す選手等を支援している。
「我々のビジョンに賛同して資金援助してくれることになりました。NPBほど整っていない環境下でも夢を目指す選手がいます。命名権契約をしてリーグ全体をサポートすることで選手たちを間接的に支援してくれます。和歌山ファイティングバーズの本拠地に程近い世界遺産・熊野古道の修繕活動をしていたことも1つの縁でした」
~野球どころの関西には5-6球団あっても不思議ではない
仲木氏は銀行、保険会社、運用会社、証券会社などで豊富なキャリアを積んだ金融系スペシャリスト。リーグ立て直しの切り札として代表就任依頼の声がかかった。「トップダウンの管理型ではなく緩やかな自立型マネージメントを好む」と語る手腕も期待された。
「以前、兵庫ブルーサンダーズ(現兵庫ブレイバーズ)の理事を務めている時期がありました。会議に出席するとリーグの状況を知り心配になりました。リーグ自体消滅してもおかしくなかった。代表就任を打診されましたが何度かお断りしました。しかし本当になくなるかも、という危機感があって引き受けることにしました」
「リーグ、球団の両方にお金も人もない状況でしたが『野球=商品』だけはありました。選手もいます。我々に求められているのはリーグを円滑に運営することです。最初は無給、ボランティアで経営と運営をやりました。人員整理なども含め少しずつ体制を整え『さわかみ財団』に命名権をお願いできるような状況になりました」
「1球団消滅して球団数が3つになった時期でした。各節、必ず1球団の試合がない状態になりました。選手は実戦の場が減ってレベルアップの妨げになります。試合がなければリーグ、球団とも収入、露出が減ります。堺が加入して4球団になったのは大きかったです。今後も球団拡張大事です。関西は野球が盛んですので5-6球団あっても良いと考えています」
独立リーグに最初に求められるには選手を育成して上のカテゴリー(NPB)へ送り出すこと。その部分で関西独立は他リーグに遅れを取っている。選手の受け皿として存在しても次のカテゴリーに進める可能性が低ければ周囲の評価は下がる。選手側からすると進路の選択肢から外すことにもなる。
「ここ2年間はNPBに選手を輩出していません。毎年、数人はNPBに選手を輩出できないとリーグの価値は上がりません。そのためにはリーグ、球団の存在、知名度を高めることが重要です。リーグのレベルや取り組み方などを学生、クラブチームなどの選手、関係者に広く知ってもらう。選手が関西独立に来る、預けてもらえるようになることが第一歩です」
~独立リーグは挑戦する場所でありながら諦める場所
関西独立の場合、多くの選手が無給でプレーしている。普段は別の仕事をしたり自らの蓄えを切り崩したりしてプレー環境を作り出している。「それでプロ選手と言えるのか?」という声があるのも事実だ。
「選手全員とプロ契約をして報酬を与えることが正解だとは思いません。中にはプロ契約を結び報酬をもらっている選手もいます。今後、リーグが選手と契約して支援するような可能性もあります。ただし前提として独立リーグは挑戦する場所でありながら諦める場所でもあります。在籍できる短い期間での勝負に賭けて這い上がることを目指す場所です」
「基本的に選手は無報酬ですが野球に取り組める環境があります。レベルも間違いなく上がっています。その中で個人スポンサーが見つかり生活に余裕が出てきた選手も出始めています。BCや四国からきた選手から『野球環境は変わらない』という声も聞こえます。そういう意味でも少しずつ安定してきました」
「報酬の支払い方法は多岐にわたって良いし模索していきたい。選手にとってもギフティングサービスのエンゲ―トの活用など報酬を得る機会が広がってきています。プレーはもちろんセルフプロデュース、ファンサービスを含めて自立した独立リーガーたちは、野球を辞めても次のステージであるセカンドキャリアに活かせるでしょう。あらかじめ一定の金額がもらえる安定性も大事ですが、選手のやり方次第で報酬が増える手法をどんどん取り入れていければ良い思います」
~エンタメ性、独自性があるリーグは地元を巻き込める
選手からすると自らの技術が上がり、結果を出すことで上のカテゴリーに進むことが最も大事だ。しかしリーグ、球団関係者からすると独立もプロ野球という1つの興行でビジネスだ。最も重要なのは観客動員であることはスポーツ、カテゴリーを問わず不変の事実である。
「柔軟性があるリーグで良いと思います。実際に特別な選手も出てきています。例えば、35歳の生島大輔(和歌山)は気持ちが折れず選手をずっとやっていて昨年は打率.393で首位打者を獲った。じゅんせー(野崎純世・堺)は漫才師でチーム内では1番気合が入っており人気も抜けている。そういう選手がいれば球団にとって良いことしかありません」
「エンタメ性の高いリーグであることも重要です。例えばNPBを引退しても野球をやりたいのなら独立で50歳くらいまでやれば良い。野球への愛がファンや地域、パートナーの会社に伝わり熱を生み出します。そう言った環境が出て来ればリーグとしての独自性も強まるはずです」
今年から兵庫に復帰した山川和大はNPBから関西独立への復帰選手。かつて同チームでプレーした後、16年に育成3位で巨人入団。1軍出場がないまま昨年限りで戦力外になり帰ってきた。BFLからドラフト経由での初となるNPB選手であり当時の『背番号17』はチームの永久欠番となっているレジェンドだ。ちなみに復帰後は『背番号30』を着用する。
~本気でプレーしている選手を応援して欲しい
上のカテゴリーに選手を輩出する。社会人として生きていけるだけの人材を作る。地域に愛され周囲を取り込める球団、選手になる。リーグとしての方向性が明確になりつつある中だからこそ大事にしたいことがあるという。
「本気でプレーしている選手を応援して欲しい。『本気でプレーしない選手は多少、うまくても試合に出さない』と監督、コーチも言っています。お金を払ってまで試合を見に行くわけですから、ファンの方々にはシビアに接して欲しい。本気度が伝わらなければ見ないで欲しい。甘やかして欲しくない。選手側も自覚できれば手を抜いたプレーはしないはずです」
「このリーグに関わってくれている監督、コーチには非常に感謝しています。これまでと同様に情熱を持って指導してもらいたい。NPBでの経験、実績がある人が監督、コーチとして来てもらっています。野球の技術、向き合い方などをしっかり伝えて欲しい。その積み重ねが独立リーグの文化になり存在価値が高まる。時間はかかるかもしれないが誰もが本気でやることで蓄積していくはずです。歴史を作らないといけません」
「かつて兵庫でプレーした井川慶さん(阪神、ヤンキースなど)の存在は素晴らしかった。選手、関係者の誰もが勉強になりました。準備、試合への心構えなど超一流選手の野球への取り組み方を目の当たりにし鳥肌が立ちました。井川さんは天国から地獄を味わって信じられないような経験をしている。短期間でしたが井川さんがいたことは関西独立にとって大きな財産です」
今年から06ブルズGM補佐兼投手コーチに就任したのはヤクルトのエースだった藤井秀悟。同チームGMは天理高時代に甲子園優勝して巨人へ入団した谷口功一。監督は阪神で活躍した桜井広大が務める。またかつて在籍した井川の影響はいまだに残っているという。経験、実績ある素晴らしい人材が集まる関西独立は、今後の大きな伸び代、可能性を感じさせる。
~キツイけど精神的、人間的に成長できるリーグ
「大学野球を目指している選手にも関西独立という選択肢もある、と言えるリーグになりたいです。野球で大学へ行ってもそこで選手生活が終わる人は多い。在学中は授業に出てない選手もいます。卒業後に働きながら奨学金を返すケースもあります。独立で数年間やるのはキツイけど精神的、人間的にも成長できるはずです。野球、ファンとの交流、社会経験…。人生の選択肢として独立リーグが良いと思えるようにしていきたいです」
野球での成功はもちろん、誰もが人生を豊かにするためのリーグを目指す。『さわかみ財団』がネーミングライツについているのも納得するだけのビジョンを感じさせる。芽が出始めているのは間違いない。まだまだ時間はかかるだろうがその光は少しずつ強くなっている。『さわかみ関西独立リーグ』の今後が楽しみである。
(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・関西独立リーグ)