インカレ4連覇・中央大が挑む“欧州派遣” 日本ハンドボール界を変える大きな一歩に

将来を嘱望される7人の大学生が、最高峰の欧州ビッグクラブへ――。
2021年から24年まで全日本学生選手権(インカレ)で4連覇し、多くの日本代表選手を輩出してきた中央大学ハンドボール部。そんな名門校が、今冬、新たな取り組みとしてドイツ、スペイン、フランスの“ビッグクラブ”に選手を派遣する。
他の団体競技を探しても類を見ないプロジェクト。日本ハンドボール協会も全面協力し、選手個々の成長はもちろん、日本代表『彗星JAPAN』の強化にもつなげていく。

日本代表の底上げのため選手の海外派遣にシフトし、共感を獲得

1946年に創部した中央大学ハンドボール部は、長年大学のハンドボール界に君臨する名門で、4連覇を含みインカレで7回の優勝を誇る。2025年夏に活動した日本代表20名のうち、4選手が中央大学に在学・卒業している。
現在チームを率いる実方智監督も同部の出身。自身は数多のOBの一人で大学卒業後は部へのかかわりは少なく、指導経験はなかったが前任の監督が急遽辞任したことで2010年に就任の打診を受けた。「仕事バリバリのタイミングで、『勘弁してくれ』というのが正直な気持ちでした(笑)」と当初は前向きではなかったものの、指導にのめり込み、ここまで結果を残している。
さらなる飛躍を前に直面したのが資金の問題。チームの強化と選手育成をさらに加速していくためにはどうしても活動費が必要になる。

大学ハンドボール界の名門中央大学。多くの日本代表を輩出している


そこで実方監督は、部の支援を目的とした一般社団法人CHUO HANDBALL SUPPORT CLUBを2024年11月に設立。協賛企業の募集やファンクラブ・OB会の運営、さらには来年度からは競技普及のための小中学生のアカデミーも立ち上げる予定だ。
法人設立以降、OBやハンドボール経験者を中心に協賛を募っていたところ、ある企業の経営者との会話の中で「選手の海外派遣」が話題に上がった。「若い選手が早いタイミングで海外を経験しなければいけない」と実方監督が話したところ、その思いに賛同。
それまでは“チームの強化”が協賛を募る一番の目的だったが、“選手の海外派遣”にシフトすることで他企業からも支持を得ていった。
実方監督の海外への思いは、ハンドボール男子日本代表が置かれている状況に起因している。21年の東京、24年のパリと2大会連続で五輪に出場したが、いずれも予選敗退。体格、技術、身体接触の強さと全ての面で世界との差は歴然だった。
「ここ数年の日本代表は海外で活動している選手はほとんどいない。企業チームが多いリーグHで活動し始めると、途中で辞めて海外に行くケースもあまりありません」と実方監督。
企業からの賛同もあり、海外で経験を積むことへの思いはさらに強くなっていった。

早期の海外経験のため“四位一体”で金の卵を育成する

資金面の目処はある程度立ったものの、実方監督には海外チームとのパイプが全くなかった。
そこで協会に協力を仰いだところ快諾。さらに男子日本代表のトニー・ジェローナ監督が派遣先の選定を行い、各選手の特徴に合うであろうチームへの加入が決まった。

藤川淳(ふじかわ じゅん)   ジュニア(U21)日本代表  ドイツLeipzig
中島大智(なかじま だいち)  ジュニア(U21)日本代表  ドイツLeipzig
長谷川惣唯(はせがわ そうい) ジュニア(U21)日本代表  フランスMontpellier
小幡駿陽(おばた としや)  ユース(U19)日本代表   フランスMontpellier
古澤宙大(ふるさわ そら)  ユース(U19)日本代表   スペインBarcelona
南城魁星(なんじょう かいせい)  ユース(U19)日本代表   スペインBarcelona
永森悠透(ながもり はると)  ジュニア(U21)日本代表  フランスParis Saint-Germain
※ドイツLeipzig  ドイツブンデスリーガ所属、リーグ優勝こそないが伝統のあるビッグクラブ
※スペインBarcelona  スペインリーガASOBA所属、2009年~2024年 15年連続優勝
※フランスMontpellier フランススターリーグ所属、2002年~2011年に9回優勝、2014年以降は常に上位
※フランスParis Saint-Germain フランススターリーグ所属、2014年からリーグ11連覇中のスターチーム

上記の通り、7選手全員がユース・ジュニアの代表選手。MontpellierとParis Saint-Germainにそれぞれ派遣される長谷川、永森は今夏ジェローナ監督の元、フル代表としても戦っている。
特に永森はフランスの超名門といえるクラブに26年2月から6月まで所属。持ち味の攻撃力にさらに磨きをかける。「世界トップレベルの環境に身を置き、まずは『世界のフィジカル』を直に感じたいと思っています。日本では味わえないスピードや当たりの強さ、試合の強度を体で理解することで、自分に足りない部分を明確にしたいです」と意気込む。

このように若手育成に定評のあり、母国スペインをはじめヨーロッパに太いパイプを持つジェローナ監督の関わりは大きい。力強いプレーが特徴のドイツ、高い技術力を誇るスペイン、二国の柔と剛をあわせ持つフランスと、各国の戦い方と選手たちのスタイルを把握しているからこそ成し得た派遣である。
先述の通り、日本のハンドボール界では海外で経験を積む選手が少ない一方、ヨーロッパでは高校卒業後すぐにプロチームに進むことが多い。そこでは体格やスキルはもとより、年齢や国が異なる選手たちとの激しい競争に揉まれることになる。
日本では高校卒業後は大学進学が基本路線で、こうした競争はほぼない。U19までは世界で戦えるものの、U21で差が出てしまうのは、僅か2年の経験が大きいのである。
そのため「若い選手の早期の海外経験」は日本ハンドボール界にとっても至上命題。実方監督と協会が考える課題が合致した形となった。
また中央大学の協力も大きい。大学ディプロマ・ポリシーの一部に、「国際社会に貢献できる人材としてふさわしい知識・能力・素養を身に付けた者に対して学位を授与する」という文言がある。藤川、永森の派遣は授業がすでに始まっている5、6月までの派遣となっているが彼らの活動に理解を示している。
実方監督の思いに応えた協賛企業、協会、そして大学が“四位一体”となった結果として、大きなプロジェクトが始まる。

欧州での経験を経て、成長が期待される長谷川

明るいハンドボールの未来のためプロジェクトの継続を目指す

7選手は練習生としてセカンドチームに所属する予定だが、結果次第ではトップチームへの昇格もあれば、逆にベンチを温める可能性もあり、日本の有望株といえど立場が保証されているわけではない。
常にトップを走ってきた選手たちにとっては厳しい状況だが、そんな環境下でこそ真価が問われる。実方監督は「不安はなく、楽しみしかありません。がむしゃらにやって、さまざまなことを愚直に学んできてほしい」と笑顔で話す。
彼らの成長は中央大学、日本代表にとって大きな財産となるが、実方監督自身も彼らからの学びを期待している。
「私は自己流で指導をしてきましたが、セカンドチームとはいえあれだけのビッグクラブがどんな練習をしているのか気になります。私は私で、彼らから吸収できることがあると思います」

このプロジェクトの成果はすぐに出るわけではなく、またその形もわからない。海外に挑戦する選手が増える、2028年のロサンゼルス五輪をはじめ世界大会で躍進する、国内リーグが盛り上がる――。
そんな未来予想図は挑戦しなければ描くことはできない。これから始まる彼らの渡欧には無限大の可能性が広がっている。

当然ながら、このプロジェクトは来年度以降も続けていく方針だ。また中央大学ハンドボール部としては在学中に海外を経験できることを、有望な高校生を獲得するための強みにしていく。
「今回は『このメンバーだから受け入れます』ということになりました。やはりアンダーカテゴリーの代表に選ばれた選手は継続して行かせてあげたい」と実方監督。

ヨーロッパでもある程度通用する選手の育成、資金や環境等様々な課題はあるが、プロジェクト継続のために協賛募集や協会とのコミュニケーションなど自身で汗をかく意向だ。
こうした心意気から生まれた行動が、日本ハンドボール界の未来を変える大きな一歩になる。

欧州では人気の高いハンドボール。こうした雰囲気も選手たちには大きな財産になる

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