なぜ、いま、FC町田ゼルビアなのか【後編】

―みんなと一緒に頂きへ登るチーム、ゼルビア―

※本コラムは、FC町田ゼルビアHPでのブログ記事をもとに、コラムとして再構成・編集したものです

都道府県リーグ4部から36年、アジア2位まで登り詰めた市民クラブ、FC町田ゼルビア。前編では、プロ指導経験ゼロの黒田剛監督が率いたチームの”有言実行”の軌跡を辿った。後編では、この躍進を支えた経営の論理と、クラブと共に登る「街」の物語を追う。

「勝者総取り」―IT経営者が持ち込んだ論理である

この躍進の裏には、ひとりの経営者がいる。サイバーエージェント創業者の藤田晋オーナー。2018年10月、約11億円を投じてこのJ2クラブを買収し、2022年12月には自らクラブ社長に就いた。

藤田はサッカーというスポーツの本質を、こう喝破している。

「サッカーは、勝者総取りの超競争だ」

勝つチームに、人が集まる。人気のチームに、支援が集まる。支援が集まると、補強ができる。補強ができれば、また勝てる―この循環の入り口は、ただ一つ。勝利。
買収当時、約7.5億円だったクラブの年間売上は、わずか7年で69億円へ、約9倍に拡大した。

しかし、すべてが順風満帆だったわけでは決してない。

2024年、J1初年度。新参クラブが首位を独走し始めた瞬間、ネット上には激しい誹謗中傷が並んだ。その渦中で、藤田はこう語っている。

「結果を出し続け、J1に定着するクラブになった時に、ヘイトはようやく消える」

新しい挑戦者は、必ず叩かれる。それでも登り続ける―このクラブの物語は、挑戦したことのある、すべての人の物語と、どこかで重なるのではないだろうか。

街も、クラブと一緒に登っている

皆さんは町田という街をご存知だろうか?

「東京なの? 神奈川なの?」と聞かれ続けてきた、東京都の南端の街であり、地図上は神奈川県に食い込むように位置し、町田市民はこの曖昧さをむしろ「誇り」に変えてきた。

2025年1月、テレビ東京『出没!アド街ック天国』は町田を「多摩の渋谷」として特集した。そのランキングには、FC町田ゼルビアが4位で登場している。街の顔として、クラブがすでに文化に埋め込まれている証だろう。

この街には驚くべきデータがある。
0歳から4歳までの転入超過数―全国1位。

若い家族が、東京や神奈川の他の街ではなく、町田を選んでいる。日本ユニセフ協会の「子どもにやさしいまちづくり事業実践自治体」にも、全国わずか5自治体しかないうちの一つとして選ばれている。
そして2026年2月、町田商工会議所とクラブ、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの共同調査が、興味深い数字を発表した。

FC町田ゼルビアが町田にもたらす経済波及効果―年間 約191.7億円。

さらに、意識調査ではこんな結果も出ている。町田市民全体の地域愛着度が84%であるのに対し、ゼルビアを応援する町田市民の地域愛着度は98%。クラブを応援する人ほど街を愛している。スポーツクラブが、街への愛着を生み出しているともいえる―数字が、それを静かに証明している。

各地域の人々を巻き込み、一体となったクラブづくりを目指す

未完成だから、面白い。

FC町田ゼルビアは、まだ、完成されていない。

J2の中位から、わずか7年でアジア準優勝まで駆け上がった。しかし、まだアジア王者にはなっていない。まだ、J1優勝タイトルも獲っていない。

そして今季、クラブは初めて「J1優勝」を目標として明言した。
頂上は、見えている。あと少し。

完成された強豪を応援するのは、完成された物語を読むことに似ている。だが、登り続けているクラブを応援することは、まだ書き終わっていない物語に、自分も参加することだ。来年、このクラブがどうなっているか、誰にも分からない。だからこそ、いま、見ておく価値がある。

選手たちはサポーターの声を実際に目にし、力に変える

最後に、ひとつだけ。

町田GIONスタジアムは、丘の上にある。駅から遠く、坂もある。ファンはこのスタジアムを「天空の城」と呼ぶ。登り切った先に、空に近いスタンドと、ピッチを包む声援と、青き熱気が渦巻いている。

一度、あの丘を登ってみてほしい。

たどり着いた人だけが見られる景色が、そこにある。

(おわり)※執筆:上野直彦

関連記事