奈良育英高校サッカー部 インターハイ予選の敗戦を糧に「この仲間」と挑む選手権
奈良県を代表するサッカー強豪校の一つ、奈良育英高校サッカー部。全国大会出場を目指してきたチームは、2026年夏のインターハイ予選、決勝で敗れて全国への切符を逃した。
それだけに 冬の全国高校サッカー選手権大会に懸ける想いは強い。キャプテンの後藤壮真(ごとう・そうま/3年 )さん、副キャプテンの寺内蓮志郎(てらうち・れんしろう/3年 )さんに、敗戦を経てチームに生まれた変化と、仲間への想いを聞いた。

「人間性」を大切にする、奈良育英サッカー部の強み
奈良育英高校サッカー部が大切にしているのは、「人間性」だ。
キャプテンの後藤さんは、もちろん全国で勝つことを目指しているが、それよりもまず大前提として、大人になった時、奈良育英高校を卒業してからも、まずちゃんと、一人前の人間になることを大切にしている、とチームの考え方を説明する。
日頃の挨拶や礼儀、遠征時での行動や立ち振る舞いなどプレー以外の部分も意識しているそうだ。
また、自分の考えを自分の言葉で伝えること、相手の話に耳を傾けることも実践している。
それがよく表れているのが、試合直後の振り返りミーティングだ。その試合で出た課題や良かったところを次の試合にどういうふうにつなげていくのかを皆で共有する。
そこから次の練習メニューを構築する。こうした取り組みを本格的に始めたのは、現在の3年生が2年生になった頃だった。
当初は、試合後に疲れている中でのミーティングに戸惑う声もあった。
しかし、映像を見ながら自分で考えて発言することを重ねるうちに、次第に集中して取り組めるようになり、その時間を前向きに捉えるようになった。
寺内さんも、振り返りミーティングを通じて変わった。特に変わったのは、ボールを持っていない時の動き出しだ。
映像を止めながら、周囲の選手から「この場面では、こちらに動いた方がいいのではないか」と具体的な指摘を受ける。
そのアドバイスを実際の試合で試したところ、公式戦での得点につながったこともあったという。
有意義な振り返りミーティングにするためには、学年に関わらず率直な意見や客観的な分析が不可欠だ。
キャプテンの後藤さんは、ミーティングの始めに、自分の考えが他の人と同じでも良いから、自分の口から言うように促しているという。
自分の思っていることを口に出すだけで、頭の中が整理されたりすることもあるからだ。
自分の見解を表明すること、相手のアドバイスを受け入れてパフォーマンスをあげること。取材を通じて、こうした取り組みも人間性向上に寄与しているように感じた。

インターハイでの敗戦が、チームを変えるきっかけに
そんなチームにとって、大きな転機となったのが今年のインターハイ予選だった。
県大会で決勝まで勝ち進んだものの、全国大会への切符をつかむことはできなかった。
選手は「絶対選手権ではこんな思いをしたくない」という思いを新たに、120パーセントの気持ちで練習に取り組むようになった。
遠征先での荷物の整理やゴミの始末といった、サッカー以外の生活面の行動も、今一度見直しているという。

選手としての苦しさ、キャプテンとしての葛藤
県大会敗退後、後藤さんは監督から「自分自身がまず変わらないとチームは変わらない 」と声をかけられていたと振り返る。
今シーズンは順調とは言い難かった。選手としては、4月から6月頃までコンスタントに試合へ出場できず、ベンチにいる時間も多かった。
キャプテンでありながら選手として思うようにプレーできないことにもどかしさを感じていた。
さらに、キャプテンとしても、変わらなければならないと感じていることがある。プレーもそうだが、声かけの部分だ。
「こうしろ、ああしろ、といったプレーに関する声かけはできても、雰囲気が良くない時にみんなで頑張ろうと鼓舞する声は、自分たちのチームにはまだ足りていません」
「どんな状況でも自分が先頭に立って、チームのために声をかけていく」。そんなキャプテンでありたいという、熱い気持ちが伝わってきた。

1年以上プレーできなかった副キャプテン。それでもチームのために
副キャプテンの寺内さんは、2025年4月に膝を負傷し、10月に手術をした。長期間にわたってプレーから離れることになり、一度は「サッカーを全部やめようかな」と本気で考えたという。
入院期間は約2カ月半。その間、仲間から連絡が届き、お見舞いにもきてくれた。そして、チームメイトが試合で勝ち進む姿をベッドの上で見る。
車いす生活とリハビリを経て退院。12月の全国選手権大会の応援席には駆けつけることができた。
見たのは、栃木県代表矢板中央高校との試合。応援席には、悔しさを抱えながら声を出し続ける部員たち。
PK戦の末に勝利が決まった時、応援席の選手も涙を流して喜んだ。
「チームとして全員で一つになって戦って掴んだ勝利」を実感し、感情が溢れだした一瞬だった。
この経験は、その後副キャプテンに立候補した理由の一つになったという。
「プレーできていないからこそ見えるっていう部分をとにかくチームに還元したい」
ピッチに立てなくても、チームのためにできることはある。その一つが、声かけだ。
一方で、選手の気持ちが分かるからこそ、厳しい声をかけることに戸惑うこともある。
例えば、ゴール前で体を張ればブロックできる場面。本気でダッシュすれば間に合うボールで、しんどさからプレーをやめてしまう局面。そうした「緩いプレー」の時には、厳しい声をかけるべき。
しかし、「いらない優しさ」から、少し前向きな声をかけてしまうという。
副キャプテンである寺内さん自身が厳しい人物でなければ、緩いプレーを許すチームになってしまう。
「そこはもっと、今の自分が変わらないといけない」。寺内さんは、そう話す。

「この仲間と全国に行きたい」奈良育英が目指す選手権大会
苦しい時間を過ごしてきたからこそ、二人が語る「全国」への想いは強い。
「奈良で勝つのは大前提」と後藤さんは話す。目指しているのは、その先にある全国大会での勝利だ。
奈良育英のサッカーは、球際(たまぎわ、ボールを競り合う際の攻防)の強さや守備の強度、前線からのハイプレス(相手がボールを持った早い段階から寄せて自由を奪う守備)を武器としている。
ただ、こうした強みも、何人かができているだけでは通用しない。全国に出てくる相手はどこも強く、11人全員が強みを最大限に発揮できなければ、勝つのは難しい、と語る。
寺内さんは、こう続ける。
「僕はもう本当に単純なんですけど、この仲間と選手権の全国に行きたいっていう気持ちが一番強くて」
その「この仲間」の中には、共に頑張ってきた、インターハイ予選敗退後に引退した3年生の仲間はもちろんのこと、もう1人特別な存在がいる。愛流(あいる)さんだ。
1年生の頃から選手権メンバー、全国大会のメンバーに入り続けた、チームの中心選手の一人だった。
遠征先の大部屋では、寝ている選手の布団をわざと剥がしてまでちょっかいをかけてくるような、チームきってのムードメーカー。「ちょっとふざけすぎて鬱陶しいぐらいの時もあった」と後藤さんは笑いながら振り返る。
その愛流さんは、昨夏、事故で亡くなった。
今、3年生の間では、全国大会に「愛流を連れて行かなあかん」という言葉が、自然と口をついて出る。
インターハイ予選での敗戦を越え、奈良育英高校サッカー部は選手一人ひとりが逆境と向き合いながら、チームとして変わろうとしてきた。
「この選手権までの残りの期間、1日1日を無駄にせず、全員で全力で120パーセントを尽くす。後悔なく終われるように」
後藤さんはそう語る。奈良育英高校サッカー部は、今度こそこの仲間と全国へ――その想いを胸に、選手権に挑む。

(取材・文/土屋明子 写真提供/奈良育英高校サッカー部保護者会)

