中学女子軟式野球選手チーム・滋賀マイティーエンジェルス 選手たちが語る夢
滋賀マイティーエンジェルス(以下、マイティーエンジェルス)は、2010年に創部した中学生女子の軟式野球チームだ。
創部当時、関西圏の中学女子野球チームはわずか4チームだったが、今では14チームまで増え、その先駆けとなった存在でもある。現在の部員数は26人。滋賀県内全域から選手が集まって活動している。
今回は監督の上野竜也(うえの・たつや)さん、チームディレクターの小川浩司(おがわ・こうじ)さん、3年生で現キャプテンの加藤未央(かとう・みお)さん、2年生の広西彩春(ひろにし・いろは)さんと山本彩珠(やまもと・あず)さんに話を聞いた。
語ってくれたのは、勝敗の数字だけでは見えてこない、仲間との時間や夢についてだった。

「野球をする女子」じゃなくて「女子の野球」を ——チームの理念と指導方針
チームの始まりは、滋賀県の小学生で構成される学童女子選抜チームにある。県内から選抜された小学6年生の女子選手たちが、大会をきっかけに「中学に上がっても一緒に野球がしたい」と声を上げたことがきっかけだ。
当時、中学で女子が野球を続ける環境は限られていた。
男子に混じって野球部に入るか、あきらめるかという状況の中、上野監督は滋賀県の学童チームで指導していた経験を生かし、中学女子チームを立ち上げた。
「野球をする女子じゃなくて、女子の野球をやろう」。結成当初からの合言葉だ。
男子の背中を追いかけるのではなく、自分たちでチームを作り、自分たちの野球をする——その姿勢は15年以上経った今も受け継がれている。
その根底にあるのが、上野監督の指導方針だ。大切にしているのは、勝つことよりも子どもたちの経験値を上げること。交代させれば目先の勝利には近づくかもしれない。
それでも上野監督は「エラーしたから交代する、ピンチだから違う子に代える、ということはしません」という。
うまくいかない場面でも、その状況を自分で乗り越えようとしているかどうかを見る。乗り切れれば成功体験に、失敗すれば振り返る材料になる。そのどちらもが、個人とチームの成長につながると考えている。
教わったことをそのままプレーするのではなく、自分で考えて行動する——そんな「考える野球」の姿勢は、日々の練習にも表れている。
「大人の考えでこうしなさい、ああしなさいじゃなくて、自分がうまくできないなら、じゃあどうしたらいいのかを聞くなり考えるなりして、自主性を重んじていく思想」だと小川チームディレクターは補足する。
たとえば打撃で結果が出ずに悩む選手がいても、コーチ陣から先回りして教えるのではなく、選手自身から「どうしたら打てるようになるか」と質問を受けて、そこで初めてコーチ陣が指導するケースが大半だ。
上野監督は、目指す野球のかたちを「マイティー野球」と呼ぶ。
打つ、守る、走る——選手それぞれが持ついいところを、ちらし寿司のように個々の強みをうまく組み合わせながら、目指すテッペンに向かっていくのが「マイティー野球」だ、という。

声をかけ合うチームへ——変わりゆく文化と選手たちの声かけ
かつては1学年10〜15人いた。当時は、学年の上下関係がはっきりしていたという。
近年は高校でも女子硬式野球を選べる環境が生まれている。そのため中学から硬式に取り組む選手が増えたことで、軟式野球のマイティーエンジェルスの入部者数は減少傾向にある。
以前であれば先発メンバーは3年生中心で組んでいたが、ここ数年は学年を超えてのオーダーが通常になっている。
小川チームディレクターは、「一学年でチーム編成ができない、このことが逆に、学年を超えてみんなでやらないといけない一体感ができ、チーム力がより一層増した」と語る。
下級生が上級生を敬う気持ちは大切にしながらも、良い関係が築けている。
もうひとつの変化が、活動中のスマホのルールだ。もとをたどれば、遠征バスの中で選手たちがそれぞれスマホの世界に入り込み、会話がなくなっていたことがきっかけだった。
そこで以前からあったチーム活動中はスマホに頼らない、というルールを強化した。
そのルールの中で入部した2年生の山本さんは、「試合では、結構遠いところまで行ったりするんですけど、その時にみんなでバスに乗って喋ったりするのが楽しいです」と話す。
チームメイトへのリスペクトは、選手一人ひとりが野球を楽しいと感じる理由にもつながっている。
キャプテンでセンターの加藤さんは「一番嬉しい時は、みんなで声をかけ合ってプレーして、一つのプレーや勝利を喜べたときです」という。また、三振してベンチに戻ってきた時は、チームメイトが「切り替えていこう」と励ましてくれるそうだ。
そのひと言こそが、気持ちを切り替える力になり、チームの一体感を生んでいるに違いない。
山本さんは、1年生の頃は先輩に声をかけることをためらっていたが、今では自分から積極的に声を出すようになった。
お互いを「信頼できるようになったから」だと話す。学年を超える良い関係性にも、近年のチーム変革が感じられる。

それでも野球を続けられる理由——大変さと、広がる友達の輪
もちろん、ポジティブなことばかりではない。キャッチャーの広西さんは、試合でエラーが続いたときや、チームの動きが噛み合わないときは、空気が重くなると明かす。
そうした時は、あえて長めに間を取ったり、焦っているチームメイトに「落ち着いていこう」と声をかけて立て直しているそうだ。ここでも声かけはカギになっている。
野球をしていて大変なことを尋ねると、返ってきたのは早起きの話だった。
「朝起きるのが、めっちゃ早いです」。練習がある日は朝6時半に起床。8時45分の集合時間に間に合うようにグラウンドに向かう。
上野監督によると、片道1時間以上かけて活動に参加する選手も珍しくない。滋賀県内全域から選手が集まるチームだからこその悩みだ。
しかし、このことは出会いの幅を広げることにもつながる。
広西さんは「マイティーに入部して、チームの中でもそうですし、他府県のチームの人とも交流したりして新しい友達が結構できました」と話す。
そんな環境でできた友達とは、休みの日に映画やカラオケに出かける仲にもなっている。
片道1時間以上かけて活動に参加することで、県内外広域にわたる友人ができ、試合を通じては他チームの選手との出会いが生まれる。
現在14チームになった関西の女子中学野球チームの交流を通じて、彼女たちのネットワークは確実に広がっている。
小川チームディレクターは、選手たちの様子を見ながら「みんな楽しいことばかり話していますが、結構練習は厳しいんですよ」と笑う。
冬のトレーニングでは音楽をかけながら体を動かすなど、厳しい練習を選手自身が楽しめるように工夫を重ねているそうだ。
「楽しく厳しく」——それが創部当時から変わらない、マイティーエンジェルスのやり方だという。

自分たちで決めた目標、自分たちでつくる「考える野球」
選手たちが何よりモチベーションが上がることは、勝つことだ。「負けている試合を逆転できたときが嬉しい」前回負けていた相手に勝てたときなど、胸が踊るシーンの話が次々に飛び出す。
新チームとして活動が始まった。
2年生たちが新たに掲げたのが「歴代最高勝利数」という目標だ。
1年間で積み重ねる勝利数が、これまで歴代の先輩達が積み重ねてきたシーズン最多勝利記録を上回ろうというもので、2年生で話しているうちに自然に生まれた目標だという。公式戦や練習試合など、大会や試合の規模にかかわらず、「1勝は1勝」としてカウントしていく。
上野監督は「そんな目標を掲げていたとは初めて聞いた」と嬉しそうに驚きの声をあげた。達成できれば、監督からご褒美がでそうな雰囲気だ。
勝利だけを追い求めるのではなく、失敗も含めて経験を積み、仲間と声をかけ合いながら自分たちで考える。3人の選手が語ってくれた言葉の端々には、そうしてつくられてきたチームの空気感があった。
「教わる野球じゃなくて、考える野球」——選手たちがどうやって勝つかを考え、話し合う姿を、上野監督はそう言い表す。その姿勢こそ、滋賀マイティーエンジェルスというチームの根幹になっている。

(取材・文/土屋明子 写真提供/滋賀マイティーエンジェルス)
