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今、横浜F・マリノスサポーターが伝えたいこと―選手が顔を上げてプレーするために―

どのような競技であっても、ゲームや試合のたびに熱心に声援を送ってくれるサポーターの存在というのは、選手にとって非常にうれしいものであろう。

一方で、チームの調子のよいときにはサポーターも元気だが、調子の悪いときはサポーターの顔も曇りがちになり雰囲気も悪くなるであろうことは、想像に難くない。

とはいえ、多くのサポーターにとって、自分が好きなチームの応援をやめるという決断を下すことは決して簡単なことではない。また、本心では、そんなことは絶対にやりたくないと考えるサポーターがほとんどなのではないだろうか。

どんな時でもチームと選手に寄り添いたい、そんな思いを胸にスタジアムで声援を送るたくさんの横浜F・マリノス(以下、F・マリノスと記載)サポーターがいる。今回はその中でも、あいさん、はもさん、植村さん(仮名)の3人のサポーターに、F・マリノスに対する思いを聞くことができた。

F・マリノスのトリコロールカラーがスタンドを埋めた7月30日の名古屋戦

一体感が生まれる瞬間が好き

皆さんがF・マリノスのサポーターになったきっかけとは、どのようなものだったのでしょうか。

あいさん(以下、敬称略)「私が地域のサッカー教室に通っていた1996年に、ゼロックス・スーパーカップでフェアプレー・フラッガーとして、国立競技場のピッチに立ったことがあったんです。カードは横浜マリノスvs名古屋グランパスエイトでした。試合前の空き時間にアップゾーンを通り掛かり、当時横浜マリノスのGKだった川口能活選手を見かけ、みんなで手を振ってみたところ、全開の笑顔で手を振り返してくれたんです。

 その瞬間に一気に川口選手を好きになって、それ以来川口選手とマリノスを追う生活が始まりました。川口選手は2001年にポーツマスFCへ移籍してしまいましたが、そのころには川口選手がいなくても横浜F・マリノスを応援するくらい、私自身がこのクラブのことが大好きになっていました。なので、30年くらいF・マリノスのサポーターをしていることになります。」

はもさん(以下、敬称略)「私の場合は、幼いころに祖父がサッカー観戦に多くのスタジアムに連れて行ってくれたことが、間接的なきっかけです。ただ、そのころは、私も本当に小さかったので、サッカーもよくわからずに、連れていかれていました。

 そのような中でも坂田大輔選手の活躍は覚えていますし、他にも自分が憧れた選手の所属していたF・マリノスに注目するようになりました。その後、関東を離れたこともあったのですが、2017年ごろに関東に戻ってきて、そこから積極的にF・マリノスの試合に見に行くようになり、今に至ります。」

植村さん(仮名)(以下、敬称略)「小学生のときに、F・マリノス前身の日産サッカースクールに通っていたのと、横浜に住んでいるというのもあり、Jクラブの中では自然とF・マリノスを一番身近なチームとして捉えていました。」

では、皆さんが考えるF・マリノスの魅力とは何でしょうか。

あい「ある人が言っていたのですが、F・マリノスは『品がある』チームだと思います。チームが持つ気高い感じが魅力というか、いわゆるツンデレの『ツン』だけで『デレ』の要素が一見少ないところが魅力の一つに感じています。」

はも「選手たちが必死でボールを追って走っている姿でしょうか。チームのために頑張って走る選手が好きです。もちろん、どのチームも試合は全力で戦っているとは思いますが、F・マリノスは自分が子どものころに憧れた選手が多く所属していたチームなので、やはり一番輝いているように見えてしまいます。」

今までF・マリノスのサポーターをされて、一番うれしかった瞬間はどのような時でしたか。

あい「Jリーグでの5回の優勝や、天皇杯やカップ戦での優勝は、もちろん非常にうれしい瞬間の一つでした。

 ですがより身近なことで言えば、選手がゲーム中にゴール裏近くまで来て、胸のエンブレムを指し示したり、『もっと応援を!!』とサポーターをあおったりする瞬間があるのですが、そうした時は選手とサポーターの一体感をより感じられる、大好きな瞬間です。

 先日の試合(2025年7月5日 横浜FC戦)で、アンデルソン・ロペス選手がゴールを決めた直後に、逆サイドのサポーター側ゴール裏まで一目散に走ってきて、胸のエンブレムを叩いて見せてくれた時は、サポーターとしてすごくうれしかったと同時に、『今日が彼にとって、F・マリノスでの最後の日なのかな』と感じてしまいました。実際、試合後にはロペス選手の移籍を前提としたチーム離脱が発表されましたから。」

はも「いろいろありますが、2022年の最終戦に、当時F・マリノスにいた仲川輝人選手がゴールを決めた時ですかね。というのも、2019年の優勝後、仲川選手はケガに悩まされ、やっと調子が良くなってもなかなかスタメンで試合に出れないのが2022年シーズンだったと思います。だから、その年の最終戦で、その年悔しい想いも人一倍したであろう仲川選手のゴールをみた時に、勝手に何かが報われた気がして力が抜けた感覚がありました。そして何より、そのゴールがF・マリノスの優勝を大きく手繰り寄せたことも、ものすごく印象に残っています。」

植村「元日本代表の中村俊輔さんが好きだったんです。プレーはもちろんですが、非常によくサッカーのことを考えているのが分かるので、インタビューとかを聞いていると、こちらが引き込まれてしまうんですよね。
 そんな中村俊輔さんが海外からF・マリノスに復帰した2013年シーズンが、とても印象的でした。大活躍を続けチームも首位を走るのですが、優勝をすんでのところで逃してしまいましたが、その年のJリーグアワードで中村俊輔さんがMVPを受賞したんです。年間MVPが優勝を逃したチームから選ばれることは稀ですので、ファン側のこちらも報われた気分になり、うれしく思った瞬間でした。」

皆さんの人生において、F・マリノスとはどのような存在ですか。

あい「自分の体の一部ですね。自分のすべてではありませんが、あって当たり前ですし、もしもないとしたら、ものすごく困ってしまいます。嫌いになるという選択肢は存在しませんが、自分に大きなストレスと喜びの両方を与える存在です。」

はも「いち個人の意見ですが、自身にとっては『あって当たり前』という存在である一方で、『あって当たり前と思ってはいけないな』と、最近は思うこともあります。

 もちろん、自分にとってF・マリノスは日常になくてはならないものの1つです。でも、そうした気持ちはあっても、「ずっと応援し続けられる」のは絶対ではないんだ、と考えることが多いです。私の年間チケット席の隣の方がご夫婦なのですが、試合後に「負けたけど来てよかったね」「久しぶりにあの選手のゴールが見られてよかった」「次はいつ来られるかな」と、試合後に奥さんと話されているのをよく聞きます。それがほんとうに一試合一試合を噛み締めているようで、自分のサポーターとしてのあり方をすごく考えさせられます。
 自分が年をとったり体調を崩したりすれば、スタジアムに来ることもしんどくなるでしょう。また、若くて健康上の問題がなかったとしても、毎回F・マリノスの応援にスタジアムに行こうと思ったら、家族や仕事場の人たちからの理解というのも必要です。感情的に「行きたい」と思えても、何らかの理由でスタジアムに来られない人、それぞれの場所から応援できない人も多くいるのは事実かと思います。

 スタジアムの中はもちろん外でもF・マリノスを支える人や、自分たちのことを理解してくれる人がいるから、私たちもF・マリノスを応援できるんだと思うんです。だから、私にとってF・マリノスは『ここに来れることが、どれほどありがたいことかを思い出させてくれる存在』でもありますね。」

サポーターの存在が、チームを支える

勝つための「恩返し」

非常にストレートな質問になりますが、お許しください。7月5日の対横浜FC戦で、一部のF・マリノスサポーターが禁止行為を行い、処分が下されました。こうした動きは、今季F・マリノスがJ2への降格危機に直面していることに対するサポーターのフラストレーションの表れのように思われますが、実際のサポーターの雰囲気とは現在どんな感じなのでしょうか。

あい「7月5日の件は、私も詳細は分からないのですが、結果として多くの人が処罰の対象になっています。今後しばらくはスタジアム内で応援をするときに楽器類を使うことができませんし、選手の名前を入れた横断幕等も掲げることができません。そのため正直なところ、どういう応援になるんだろう、という不安な思いもありました。ですが、先日の名古屋戦(2025年7月20日)では、そんな不安も吹き飛ぶような応援となりました。

 先日の件に対し、サポーターの間でもいろいろな意見があるのも事実で、ネガティブなことを言い続ける人がいる一方で、ずっとポジティブにチームやサポーター自身が前を向けるように応援・行動している人もいます。自分にできることを、できる範囲で、みんなが行った結果が、名古屋戦の応援に繋がっていたと思います。

 また、F・マリノスはJリーグが発足したころからずっとJ1にいましたし、そのことは私をはじめとしたサポーターにとって誇りです。でも今はJ2降格危機に面していて、とにかく点数をとって勝ち点を積み上げなくてはいけません。先ほど、F・マリノスには品があると言いましたが、今優先されるのは泥臭くても勝つことです。

 極端なことを言うと、リードしている試合であれば、全員でひたすらディフエンスをし続け、結果その試合をものにできたのなら、例えサッカーとして面白くなかったとしても、それはそれとして納得します。でも、チームにがむしゃらにでも勝とうという様子がなかなか見えなくて、サポーターとしてもどうすればいいのか悩んでしまった時期もありました。」

植村「7月20日の名古屋戦は、私も久しぶりにスタジアムで観戦しました。鳴り物禁止の中、サポーターは拍手と声を揃えてとても素晴らしい応援をしていました。チームも快勝しましたし、残留への希望を持ち直したサポーターも多かったのではないでしょうか。その風景を見て、私もとてもハッピーな気持ちになりました。」

はも「今のF・マリノスのサポーターの間には、負けん気は非常に強い一方で、それを負のエネルギーに変換して表現はしない、という決意があるように思えます。
 あるF・マリノスのコールリーダーが、他のサポーターに『今まで自分たちはF・マリノスからたくさんいい思いをさせてもらってきた。だから、今はそれをF・マリノスに恩返ししていこう』と声をかけていたのを拝見したことがあります。その言葉の通り、F・マリノスが好きだから、F・マリノスのためになるようにと考えて行動している人、行動したいと思っている人がたくさんいるのではではないでしょうか。」

今、皆さんがF・マリノスのクラブやチームに伝えたい思いを伺えますか。

あい「クラブに対しては、そうですね・・。F・マリノスの応援チャントの中にチームがピンチの時によく歌うものがあるのですが、そのチャントに『どんな時でも 俺たちがそばにいる』という歌詞があるんです。今こそクラブにこの言葉が届いてほしいと思いますし、サポーターの思いを受け取ってほしいですね。

 そしてチームには、私たちは寄り添っていくよ、ということを伝えたいです。何があっても、サポーターはここにいるよ、と。連敗していた時、F・マリノスの選手は試合中にミスをすると下を向いてしまうことが多かったように思います。でも、そんな時こそ顔を上げてプレーしてほしいですし、もっと自信をもってピッチに立って、とも伝えたいです。」

はも「回答が難しくて、月並みな言葉しか出てこないです・・・。ずっと見守っています、とチームに伝えられれば十分かと思います。F・マリノスの選手やベンチはもちろん、フロントの方々も本当に必死になってこの状況に立ち向かっていることはよくわかっています。もちろん、サポーターとして、チームが負けてううれしいことは全くないですが、それでも、それぞれの持ち場でそれぞれの人が一生懸命動いていることは、こちらにも伝わっています。すべての方のお仕事が表に出るわけではありませんが、それでも見守っている人がだれかいることは、伝わってほしいですね。」

いつだって、変わらぬ熱意を届けるサポーターがいる

情熱的に語るあいさん、言葉を選びながら話すはもさん、横浜出身で日産サッカーの時代からF・マリノスとは縁のあった植村さんとインタビューに応える様子は三者三様であったが、それぞれの言葉の端々からはF・マリノスへ愛がしっかりと感じられた。

Jリーグ発足から常にトップリーグで戦ってきたF・マリノスにとって、今回の降格危機は初めて直面する状況である。そして、そのことは、F・マリノスのサポーターにとっても同じであることを、忘れてはいけないだろう。

1試合勝つことが何よりも難しくそして重要な現在、F・マリノスの選手たちの背中を押すサポーターの声援には、今までになく強い祈りと熱意が込められている。 

(写真提供 あいさん/植村さん)

(インタビュー・文 對馬由佳理)

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