11年ぶりの総理大臣杯へ!北陸大学サッカー部、新たな歴史を刻む挑戦
「11年ぶり4度目の総理大臣杯出場」——。長く閉ざされていた全国への扉がついに開かれた。
再び総理大臣杯の全国大会出場を掴み取った北陸大学男子サッカー部の躍進の裏には、ピッチ内外で自ら考え動く「自律した選手たち」の姿と、彼らを信じ抜く指導者の存在があった。
トップチームを牽引する原島颯(はらしまそう)監督と、キャプテン・今井航(いまいこう・4年)選手の言葉から、大舞台へ挑む北陸大学の「真の強さ」、地域への感謝、そして大会へ向けた熱きチャレンジャー魂を紐解いていく。
「あと一歩」の悔しさを歓喜へ。自律した選手たちと「北陸大のアイデンティティ」

北陸大学が最後に総理大臣杯で全国のピッチに立ったのは、北信越大会で頂点に立った2015年のこと。それ以降の11年間、チームが決して低迷期にあったわけではない。
2019年には地区大会で決勝の舞台まで駒を進めるも、PK戦の末に惜敗。北信越の全国出場枠が「2」に拡大された2023年以降も、準々決勝やベスト4という壁に阻まれ、あと一歩で全国行きの切符を取り逃がしてきた。
同じく大学サッカーの主要大会であるインカレ(全日本大学選手権)は2022年、天皇杯は2023年を最後に全国から遠ざかっており、現メンバーたちは「全国に出られない悔しさ」を味わい続けてきたのだ。
迎えた今季、彼らは「三冠奪取」を掲げ、「強い北陸大学」を取り戻すための勝負の年に覚悟を持って臨む。しかし、シーズン開幕戦の天皇杯予選・準々決勝で敗退し「チームが暗くなってしまった時期もあった」と、今井選手と原島監督は振り返る。
それでも、この敗戦が「総理大臣杯こそ全国へ」というチームの一体感を生んだ。選手とコーチ陣はピッチ上で悔しさを糧にチームを磨き上げ、スタッフ陣は日々のサポートに加え、SNSを通じた発信で応援の輪を拡げていった。それぞれの役割を全うする「北陸大学FAMILY」の結束が、11年ぶりの全国出場へと繋がった。
そんなチームの中心にいるのが、今井航キャプテンである。高校3年次には全国高校サッカー選手権の静岡県大会MVPに輝いた実力者は、北陸大学への進学理由についてこう語る。
「声をかけていただいた中でチームの雰囲気が一番良くレベルも高いと感じたんです。地方の大学の方が全国大会に出られるチャンスが大きいのも決め手でした」
大学1年の秋頃から試合に出場するようになった今井選手は、ここ数年のチームの悔しさを人一倍実感してきた1人だ。
そうしたチームで変革の一翼を担ったのは、2025年からトップチームの指揮を執る弱冠28歳の原島颯監督。同校OBでもある監督は、北陸大学が本来持つ「アイデンティティ」の継承を意識した。
「北陸大学には元々、選手たちが主体的に考えるという良さがありました。だからこそ、もう一度勇気を持って選手に任せる部分を大きくし、それを強みにすることをチームで目指したんです。私は戦術の細かい点を伝えるだけで、あとは選手たちが考えて動いています」
その言葉通り、現在のチームは今井選手を中心に、選手自身が考え、行動する集団へと変貌。「選手主体で自由にやらせてくれるので、のびのびと成長できる環境があります」と今井選手も力強くうなずく。
ピッチ内で見せる修正力。激闘を制したチームの「真の強さ」
今年のチームの最大の武器は何か。その問いに対し、今井選手は「一体感」と答えた。
「スーパースターはいませんが、仲間のために走り、戦える選手が揃っています。ベンチやベンチ外のメンバーも勝利に貪欲で、全員が一つになって向かっていける。ここは他の大学には負けない強みです」

原島監督も、選手たちが発する熱量をピッチ脇で強く実感していた。
「試合に出ていない選手も含めて、『このチームが勝つことを望んでいる』という思いが一つひとつの言動から凄まじいほどに伝わってきます。これは当たり前のようで、なかなかできることではありません。だからこそ『今年は運が回ってくるかもしれない』と感じていました」
その「一体感」と「選手主体の力」が結実したのが、全国出場を決めた北信越大会準決勝、数多くのJリーガーを輩出する北信越の雄・新潟医療福祉大学との大一番だった。8大会連続の全国出場を目指す強豪に対し、試合は1-1のまま延長戦へと突入。
しかし、延長前半にPKで失点を喫する。「いつもの負けパターンになりかけた」と今井選手は当時の焦りを口にするが、選手たちは誰一人下を向かず「全国はそんなに甘くない。ここを返さないと勝てないぞ」と声を掛け合った。
そして、同点ゴールを生み出したのは監督の指示ではなく、選手たち自身の判断だったという。
「負けている状況で点を取るしかない。選手たちがピッチ内で声を掛け合い、システムを変えたんです。前線に身体を張れる大きな選手を2枚置く形に変更し、ファウルを貰ったことが同点弾に繋がりました」(今井選手)

このフリーキックから今井選手が執念の同点ゴール。最後はPK戦の末に劇的な勝利を収めた。うまくいかない時間を自分たちで修正し、流れを引き寄せる力。これこそが、今年の北陸大学を象徴する真の強さだ。

地域との絆、そしてピッチ外で躍動する学生たちのマネジメント力
北陸大学サッカー部の魅力は、ピッチ内の戦いだけにとどまらない。地域との深い繋がりや、ピッチ外での学生たちの積極的な活動も、チームを支える大きな屋台骨となっている。
「緑龍祭」と呼ばれる地域交流イベントでは、小中学生や保護者も交えて清掃活動を行い、その後は屋台を出して皆で食事を楽しむ。原島監督は「コロナ禍で地域や下部組織の子どもたちとの繋がりが薄れた時期がありました」と振り返る。
だからこそ、再開できた現在の交流活動には特別な思いがある。「今後はさらに繋がりを強め、地元の人に愛されるサッカー部に」と監督が語るように、学校周辺の清掃活動や雪かき、地元スポンサー・平本組とともに「百万石踊り流し」や「金沢城リレーマラソン」へ参加するなど、地域に根差した活動を多岐にわたって行ってきた。

県外出身の今井選手にとっても、これらの地域交流は大きな力に変わる。「地元出身でなくても、イベントを通じて地域の方々から応援され、支えられていると実感します。そういう人達のためにも頑張ろうと、背中を押してもらっています」と感謝を口にする。

2024年の能登半島地震の際にはJFAの復興支援プロジェクトの一環として、一部の選手たちが被災地でのボランティアにも参加。日頃から温かな声援で支えてくれる地域に対し、いざという時には自分たちが力となって恩返しをする。
「サッカーができることは決して当たり前ではない。今自分たちにできること、チームができることを100パーセント出し切ろうと、改めて強く感じました」(今井選手)
また、チームの活動を裏で支えているのも学生たち自身だ。部内には主務を中心とした約10名の「マネジメントグループ」が存在し、地元スポンサー集めやSNSの運用、各種企画の立案などを主体的に行っている。
「指導者発信ではなく、選手たちが自ら計画を立ててチームの運営を支えてくれています。ピッチ外でも主体的に活躍できる選手たちのおかげで、地元の方々やサポーターとの良い関係性が築けています」(原島監督)
「北陸大学の魂を見せる」。失うもののないチャレンジャーたちの決意

初戦の相手は東北の強豪・八戸学院大学に決まった。残り期間での課題について、今井キャプテンは「攻撃面ではゴール前のアイデアや決め切る力、守備面では流れが悪い時にどう断ち切り、自分たちのペースに持っていくかを突き詰めたい」と冷静に分析する。
一方で、原島監督は「全国大会だからといって意識しすぎず、思い切りやるための準備をさせたい。私たちが負けても誰も驚かないからこそ、それを良いように使って『サプライズ』を起こしたいですね。追う側の方がメンタルは作りやすいですから、何より楽しんでほしいです」と、チャレンジャーの姿勢を強調する。
最後に、大会にかける熱い意気込みも語ってもらった。
「自分たちは失うものは何もないので、立ち向かっていくだけです。北陸大学の『魂』を見せてやろうと思います。いつも応援し、支えてくれている方々のために、しっかり結果で恩返しできるように頑張ります」(今井選手)
「上手い下手ではなく、最後まで走り抜く、絶対に諦めないといったがむしゃらな姿が、人の心を動かすと信じています。11年ぶりの総理大臣杯なので終わった後に後悔するのではなく、全ての力を注ぎ込み、魂を出し切って戦い抜いてほしいと思います」(原島監督)
ピッチの中で選手一人ひとりが自律し、躍動感あふれるプレーを体現する北陸大学のサッカー。彼らが東北の地でどんな旋風を巻き起こすのか。支え続けてくれた地域の人々への感謝を胸に、北陸大学サッカー部は11年ぶりの晴れ舞台へと挑んでいく。
