大分トリニータ 吉岡宗重SD―「湧き上がるフットボール」の体現で、J1復帰へ―

 2024年から、大分トリニータは苦しい試合が続いている。2期連続でJ2の16位となりJ2に残留をし続けているものの、目標としているJ1昇格圏内からは遠く離れた結果に終わっている。

 大分トリニータに何が起こっていたのだろう。そしてこれから大分トリニータは、どのように戦っていきたいと考えているのだろうか。

 同クラブの吉岡宗重スポーツダイレクターに話を聞いた。

吉岡スポーツダイレクター(SD)

J1は大分トリニータが「戻る場所」

昨シーズンの大分トリニータについて、どのような評価をされていますか。また、地元大分の皆さんからは、どのような声を聞かれましたか。

吉岡宗重スポーツダイレクター(以下、敬称略)「過去2年連続でJ2・16位に終わり、結果が出ていない状況と言えます。しかし昨年の監督交代の時から、クラブのやりたいと考えるフットボールが明確になり、選手にそれが伝わりつつあるというのが現状です。

 地元の大分の皆さんからは、「大分トリニータが勝つと、その後1週間は会社のみんなが明るくなる。だから頑張って勝って。」と励ましていただきました。また、「早くJ1に戻ってね。」と言っていただくことも多々ありました。

 大分の皆さんにとって、J1が「大分トリニータが戻るべき場所」という位置づけになっていることがとてもうれしいと同時に、大きな責任も感じています。」

昨シーズン終盤戦、大分トリニータは厳しいゲームが続きました。その時、四方田修平監督が「戦えるチームにならないといけない」ということをおっしゃっていました。大分トリニータが目指す「戦えるチーム」の定義とはどのようなものでしょうか。

吉岡「昨年まで苦しい試合が続いていたのは、「自分たちがどんなフットボールをしたいのか」という点がはっきりしていなかったこととが、一番の原因だったと認識しています。

 もともと大分トリニータはボール・ポセッションを得意とする選手が多いチームなのですが、それを変えて、とにかくボールを前に早く出すことを主題にしようということになりました。

 2025年にクラブ内で「湧き上がるフットボール」をプレー哲学に定めて、その方針を基に四方田監督とディスカッションを行った上でオファーし、クラブの方向性を理解してもらいチーム作りを進めることになったんです。

 前へボールを出すバーティカルなフットボールをすること、ピッチ上のサードマンの選手を生かすこと、そして攻守の切り替えの強度を上げること、そうしたことができるフットボールを「湧き上がるフットボール」という言葉に込め、今後の大分トリニータのチームを定義する言葉にしました。だから、この言葉が、戦えるチームの定義になるかと思います。」

日本人なら「湧き上がるフットボール」と聞けば、水が沸騰するイメージから、前にビルドアップして行くプレーを想像するのは難しくないでしょう。でも、大分トリニータには外国人選手も来ます。外国から来た選手に対して、クラブは「湧き上がる」という哲学をどのように伝えますか。

吉岡「実は「湧き上がる」という言葉は大分トリニータにとって、非常に縁が深い言葉なんです。まず、サポーターの方がスタジアムで歌ってくださるチャントの中に「湧き上がれ」というタイトルのものがあります。また、大分はおんせん県として国内外で有名ということもあり、「湧き上がる」という言葉自体が大分を表現するキーワードのようなものなのです。

 私が今年のJ.LEAGUE スポーティングダイレクタープログラム PARTNERED WITH THE UEFA ACADEMYに参加したとき、研修の最初に自己紹介資料を作成をすることになりました。私は自分が大分トリニータのスポーツダイレクターであること、そしてこのクラブが目指しているのは「湧き上がるフットボール」であることを伝えようと考えました。

 そこでいろいろな外国語で「湧き上がる」という言葉を調べてみたのですが、どれもピンとくるものがなかったんですね。いろいろ考えた末、「湧き上がる」という言葉をどの外国語にも翻訳せずに、日本語のままローマ字に変換して  “WAKIAGARU” と表現したんです。

 「湧き上がる」という言葉の定義を考えるとすると、何らかのエネルギーが下から生まれて、そのエネルギーが徐々に上へと移動していく感じになるでしょうか。

 今はSUSHIのように、外国語にそのまま取り入れられている日本語が沢山あります。だから、「湧き上がる」も外国語訳せずにそのまま“WAKIAGARU”としたうえで、その定義を表現する例として、温泉や火山のような映像を見せることで、日本語以外でも、大分トリニータのフットボールの哲学の共有ができるのではないかと考えています。」 

湧き上がるフットボールに走る能力は欠かせない

選手のアスリート能力の向上へ

以前のインタビューで、大分トリニータは育成型クラブを目指していると伺いました。その一方で特にトップチームは、できるだけ短い期間で勝利という目標を達成しなくてはならない現実もあります。この「長い目で見た選手の育成」と「目の前の勝利」という2つのバランスを、これからどのように取っていくのでしょうか。

吉岡「大分トリニータは自分たちを育成型クラブと考えていますし、大分から世界で活躍できる選手を育てるということを、非常に重要視しています。また、実際にトップチームでプレーする選手の多くが、大分トリニータの育成機関出身の選手です。とはいえ、現実的なことをお話ししますと、育成出身の選手がすぐにトップチームで活躍するのは、今かなり難しくなっているというのが、実情ではあります。

 その理由の一つとして、近年のフットボールでは個々の選手のアスリート能力がより高く要求されるようになってきていることが挙げられます。例えば、選手はゲーム中は休む時間がほとんどなくほぼずっと走りっぱなしですし、走るのもダッシュを何回も繰り返すような走り方です。そうした動きに耐えられるようなスタミナとダッシュ力を身に着けるには、やはり時間をかけたトレーニングが必要です。

 トップチームの勝利のために、クラブとしては、例えば大学と連携して、大分トリニータの選手を大学で数年プレーさせて経験を積ませ、そのうえで再度クラブに呼ぶということもやっています。これは、選手が試合経験を積むことを、クラブとして期待しているためです。

 また、特にトップチームでは選手たちに、+One step(プラスワン・ステップ)ということを、常に意識してほしいと伝えています。これは、日頃のトレーニングでも、自分の限界を超えてもう一歩前に出ることを意識づけることで、試合でより多く動けるようにしてほしいからです。」

J1へ戻るために、大分の人の喜びとなるために

 「湧き上がるフットボール」という言葉は、これからトップチームから育成期間までを貫くことになる、大分トリニータの新たなプレー哲学である。しかし、この言葉はピッチ上の戦略だけを表しているのではないだろう。

 トリニータのサポーターやファンがスタジアムで「湧き上がる」こと、大分の人々が大分トリニータの活躍を見て喜びに「湧き上がる」瞬間、それこそが大分トリニータが今シーズンに見たいと願っている景色であろう。

 「湧き上がるフットボール」を実現することでJ1に復帰し、大分の人々の喜びとなるため、大分トリニータの2026年の戦いはこの8月から始まる。

(写真提供 大分トリニータ)

(インタビュー・文 對馬由佳理)

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