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【社会的課題を次世代に残さない。元日本代表パラアイスホッケー銀メダリスト・上原大祐の信念とは?(後編)】

上原さんは生まれながらにして二分脊椎という障がいを持つが、幼少期から活発でやんちゃな少年時代を過ごした。19歳でパラアイスホッケーを本格的にスタート。2006年トリノ、2010年バンクーバー、2018年平昌の3大会パラリンピックに出場。2010年バンクーバーでは、準決勝のカナダ戦で決勝ゴールを決め、銀メダル獲得に貢献した。前編では幼少期から学生時代、パラアイスホッケーとの出会い、そしてパラリンピック出場について紹介。後編は上原大祐さんの現在の取り組みや社会課題に対する本音、今後の目標について話を聞いた。

NPO法人D-SHiPS32設立、「子どもたちには夢を持って欲しい」

スポーツだけではなく社会問題や商品開発など様々なことに挑戦する上原さんは2014年に「NPO法人D-SHiPS32」を設立。障がいのある子どもに向けて、キャンプやパラスポーツ体験会、講演、研修など様々な活動を行っている。

D-SHiPS32は「障がい者と健常者が体験を共有することで、子どもたちが夢を持って挑戦できる精神を育て、当たり前の事が当たり前にできる社会を目指す」をコンセプトに活動。そして「パラスポーツが身近に感じられる環境を創る」「夢を持ち、叶えられるという自信を親子に届ける」「障がいを持った子どもたちの夢や可能性を制限しない」「社会の垣根(先入観・無関心)を取り払う」「自分たちが感じた課題を次世代に残さない」の5本柱をミッションに掲げている。

コンセプトにある「自分たちが感じた課題を次世代に残さない」とは、具体的にどのようなことだろうか?

「近年ユニバーサルデザインをうたうタクシーがありますが、車椅子ユーザーに対して乗車拒否が増え社会課題になったんです。タクシーに乗るまでに64工程くらいあって20分近く時間がかかる事もある。それで運転手が車椅子ユーザーを乗せたがらない。障がい者にとってのユニバーサルデザインというより、運転手にとってユニバーサルデザインになってない。そういう課題を解決したい」

余談になるが、今回の取材場所探しはCMで有名なレンタルスペースの検索予約サイトを使用。仮予約の段階で「車椅子でも利用可能か?」と質問メールを送信。だが「エレベーターがないので利用不可」「入り口に段差があるため、利用はできない」と返信が届いた。そこで「もし近くのレンタルスペースに車椅子ユーザーが利用可能な場所があれば教えてくれませんか?」と問い合わせをしたところ、返信は一切なかった。

「例えば、上原大祐8歳が有名なレストランで両親とディナーをすることになった。朝から上原少年はワクワクしています。夜レストランに行くと『車椅子だからお店は入れないよ。お父さんとお母さんが一緒でも入店できません』と言われたら、この8歳の少年は『自分のせいでレストランに入れなかった』と感じて、二度と街に出たくない。同じように8歳の少年がパラリンピックを見て『僕もあんなかっこいい選手になりたいと思います。だから、ここの体育館で練習させてください』とお願い。施設から『車椅子ユーザーには貸せません』と言われたら、『僕はスポーツしちゃいけないんだな』となる。だから僕は行動するんです。子どもたちに同じ思いをさせたくない。子どもたちには夢を持って欲しいですね」

本来のスポーツの姿、そして商品開発の新しい考え方

NPO法人D-SHiPS32の代表や一般社団法人障害攻略課のメンバーとして、バリアフリーのコンサルティングを手がけ、社会に立ちふさがる壁を取り除く活動を続ける上原さん。スポーツに対しても別の捉え方を提供してくれた。

「これまでパラスポーツは障がい者にしかできないスポーツだと勘違いされていました。でも健常者『にも』できるスポーツなんです。バスケットボールは通常走ってドリブルをしながらボールを運ぶので車椅子ユーザーには困難だけど『車椅子バスケ』だと、健常者も障がい者も一緒に楽しむことができる。本来誰もができるスポーツは、体育のスポーツだとかオリンピックスポーツじゃなくてパラスポーツなんですよ。そういう意味ではスポーツはこっち側(障がい者)なんですよ。 むしろ、オリンピックのスポーツが健常者スポーツ。健常者にしかできないスポーツ」

上原さんは、これまで常識として学んだ価値観・概念に「再考すること」を求める。商品開発やマーケティングに関しても新たな視点を教えてくれた。

「商品開発する時、『どれだけの人をターゲットにできて、どれだけ売ることができるか』を考えることは企業にとって重要です。しかし、『この人たちはどういうものが欲しいですか?』って聞くと、課題がすごく曖昧なんですよ。逆に一人に聞くと、めちゃくちゃ課題を深掘りできる。だから、イノベーションが生まれやすいんです。それがまさに商品開発するポイント。キーワードは『FOR ONE=一人のために』」

上原さんが参加しているプロジェクト「ユナイテッドアローズとのコラボレーション」も一人のために作られたものだ。

「『041(ALL FOR ONE)FASHION』と言って『一人を起点に新しいものを作ると、全ての人が使いやすいものに』をコンセプトにプロダクト(商品)を作りました。実はある一人の車椅子ユーザーの女性から『タイトスカートを履いてお洒落にパーティーに行きたい』という要望があり、5つのジップがついているジップスカートを作成しました。ジップを開けるとフレアスカートになって広がるので履きやすくなる。ジップを閉じるとタイトスカート。5つのジップを自由に開閉することで、自分でアレンジできて毎日違うパターンのスカートになるという画期的なデザイン。これは「一人の声」をもとに作られたものです。しかし今では、一般の人たちにも広まり大人気商品になりました」

近代マーケティングの父ともいわれるフィリップ・コトラーは、「マーケティングとは、人間や社会のニーズを見極めてそれに応えることである」と話した。時代とともに価値観は変化する。これまで「最大公約数」を目指し、顧客に印象に残るブランドや商品を作ることが重要だといわれた商品開発も、じっくり「一人の声」と向き合うことでイノベーションが起こり、想像を超えた商品が生まれたのだ。

上原さんは「自分ごと化」ではなく「友達ごと化」を提唱している

今後は将来の子どもたちに

パラアイスホッケー選手としてパラリンピックに3回出場し、2010年のバンクーバー大会では銀メダルを獲得。今後の目標について聞いた。

「自分の夢や野望ではなく、気になった課題を端から解決していくだけ。子どもたちが『アメリカに行った方が、これできるよね』『アメリカに行った方が住みやすいよね』と思うのではなく、日本に住むことで『これができて楽しいよね』と喜びを感じる価値を上げていきたい」

そして健常者に、「自分ごと化」ではなく「友達ごと化」を提唱している。障がい者の友達を作ることで、親近感や共感を持ち、より積極的に繋がり協力したりすることができるという。

「例えば、私に『立てる人の事を考えてください』って言われても、『歩けないから無理です』と言うように、『皆さんも車椅子ユーザーのことを思ってやりましょう』と言われても、『車椅子に乗ったことがないからできない』となる。だから、『自分ごと化』じゃなくて『友達ごと化』しようということです。例えば、『大祐とご飯食べ行くとき、どこの店がいいんだろうな?』と想像し行動すると、街の見方や物の見方、事の見方、人の見方が変わってくる。それは『友達ごと化』なんだけれども、自分と一緒に行く友達ってことで『自分ごと化』にもなるんですよね。だから、『友達ごと化』から始めると入りやすいと思います」

「課題解決と向き合うとき、同じ志をもつ仲間と一緒なのはとても心強い。一緒に楽しく活動できる仲間が増えると嬉しいです」と語る上原さん。今年4月に大阪観光アドバイザーに任命され、多方面でますますの活躍が期待される。パラスポーツの推進活動、D-SHiPS32での活動、特業をはじめとした障害攻略課の活動など、みんなが笑顔になれることに情熱を燃やして取り組んでいく上原さん。障がい者に対する偏見や差別、理解不足や無関心といった認識を改善し、健常者と共に生きる社会を目指すために上原さんの挑戦は続く。
(おわり)

取材・文/黒澤浩美 写真/本人提供

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