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東京外国語大サッカー部は国際派 「マルコ」監督が描く、地域に根差したユニークな未来

100年を超える歴史を持つ東京外国語大学サッカー部が、新しい伝統を作っている。

同サッカー部の大﨑建(おおさきたつる)監督は、自ら「マルコ」と名乗り、部員たちは監督を「マルコ」と呼ぶ。

外語大ならではの国際色を生かし、英語教室や英語を使ったマルチスポーツ体験など、地域での交流活動を活発に行うユニークなサッカー部だ。

大﨑建監督が「マルコ」と名乗る理由

「マルコ」こと大﨑建監督は31歳と若い。部のSNSにもしばしば「マルコ」として登場する。

「話せば長くなるんですが」とその呼び名の理由を話してくれた。

「マルコ」こと大﨑建監督

外国語大だけに、サッカー部でも海外生活を経ていたり、海外留学を経験したりする部員は数多い。

監督自身も海外経験を経て東京外国語大サッカー部に就任している。海外では「TATSURU」という名は発音しにくい。呼びやすい通称があればよかったと後から思った。

「次に海外に行く時のために名前をつけておこうと思って。あと大学ではほかにスタッフがいない中で『大﨑さん』と呼ばれると、部員との間に距離ができてしまう。呼びやすくしたかったんです」

現在マネージャーを含めて46名いる部員から「マルコ」と呼ばれて親しまれている。東京外国語大サッカー部のチームカラーを作っているのは、まずこの「マルコ」監督だろう。

昨季は17連敗のあとの劇的勝利

東京外国語大サッカー部は関東大学リーグ東京・神奈川3部に所属している。

勉強も部活も真面目にやるタイプの、監督曰く「この大学らしい」選手が揃うサッカー部だ。

中には大学からサッカーを始めたという選手もいる。それでもコツコツと努力して、徐々に試合に出るようになってくる。部員たち総じて「考えて努力できる」選手が多いのだという。

「去年のシーズンは18戦あったんですが、17連敗しました。開幕から一回も勝てずに…」

体も大きくなく、サッカー技術が優れた選手が揃っているわけでもない。

普通だったらなかなか勝てない中で「真面目にやる」というのはとても難しい。どんなに頑張っても負ける。それでも次の週に頑張って、また負ける。それでもまた頑張る…。

それを繰り返せるのはすごいことだと監督は言う。

「僕は17.5連敗って呼んでるんですが、最終戦の前半まで2-0で負けてたんです。それを後半で3点入れて勝った。年間で1勝。勝ち点3で1年を終えたんですけど、なんか優勝したぐらいの気持ちで、シンプルにやっていてよかったと思いました。一生で、1勝にあれほど重みを感じることは、17回負けないとないんじゃないかと思いました」

受け継ぎたい地域交流活動

東京外国語大サッカー部の活動は、サッカーに留まらない。「地域の中で価値のあるクラブでいたい」と、大学のある府中市周辺で様々な活動を行っている。

主なものでは、子どもたちに英語教室を行ったり、「英語deマルチスポーツ」としてスポーツ体験イベントを行ったり、地域の祭りに参加したりする。

変わったところでは府中市のコミュニティラジオに番組を持っていて、月に一度監督と部員、マネージャーがトークを繰り広げる。

この番組で監督の相方を務める部員が4年生の根岸聖純(ねぎしせいじゅん)だ。

「これもマルコの発案で、地元のラジオで番組を持ちたいと。なぜか僕が一緒にやることになりました。半年くらいになりますが、普通の大学生なら経験しないであろう、公共放送で自分が話すという貴重な体験をしています」

ラジオやイベントでも活躍している4年生の根岸聖純

根岸はマレーシア生まれで11年間をマレーシアで過ごしてきた部員だ。ラジオで話す内容はたわいもないことが多いというが、話すことにも慣れてきた。

ラジオやイベントなど様々な活動に携わり、サッカー部での経験を貴重なものだと感じている。

「地域交流活動への思い入れが一番強いので、これからも部員がそういう活動を素敵だと思って継いでくれれば一番いいと思います。僕はイベントにたくさん関わることができて、たくさんの子どもたちに『ネギ』と愛称で呼ばれている。なかなか普通の大学生ではできない体験で、僕はすごく誇りを持っていますし、これからも自慢できる活動だと思います」

子どもたちに人気の「マルチスポーツ」体験

クリケット(イギリス)、カバディ(インド)、モルック(フィンランド)、キ・オ・ラヒ(ニュージーランド)…。普段およそ体験することのないスポーツが名を連ねる。

東京外国語大サッカー部が行っている「英語deマルチスポーツ」活動でのラインナップだ。

子どもたちを集め、英語を使って世界の様々なスポーツを体験してもらう。中には「英語deだるまさんが転んだ」といったゲームもある。外国語大ならではのユニークな活動だ。

「English Festa」「英語deマルチスポーツ」など国際色を生かしたイベントを行っている

東京外国語大学では、15地域28言語の中から自身の専攻を選択する。言語とともに文化や社会的背景を学び、その地域について知識を深めていく。

そのため、体育の授業にも世界のスポーツを取り入れているのが大きな特徴だ。様々なスポーツの独特な道具が用意されているため、「これを使って活動ができないか」と監督は考えた。

一つのスポーツだけを行うよりいろいろなスポーツを行うほうが、成長・発達に良い影響を与える。部員の指導で英語を使いながら体験してもらうことで、子どもたちが英語に親しむこともでき、世界の文化を学ぶ機会にもなる。

「ほかにないイベントができるんじゃないかと思いました」

体験時には、それぞれのスポーツのブースを作り、子どもたちが体験して回る。そしてフリータイムになるとやりたいスポーツのところに行く形だ。すると意外なスポーツに人気が集まるのだという。

「どれが人気かなと思ったときに、モルックはYouTubeにも出てくるし、僕らは見やすい一番手前に置いておいた。そしたら、子どもたちにはカバディが一番人気だったんです」

モルックは木の棒を投げてピンを倒す競技。カバディは「カバディ、カバディ、カバディ」と声を出しながら相手陣地の選手にタッチする、鬼ごっことドッジボールがミックスされたようなスポーツだ。

フリータイムになると、子どもたちがサッカーよりも「カバディしたい!」と殺到するくらいの人気でみんな驚いた。

ちなみに部員たちは前日に準備も兼ねて紹介用の動画を撮るが、部員たちがよく遊んだのはモルックだった。「小一時間くらいずっとモルックで遊んでいました」と根岸が振り返る。

座学の英語教室と違い、スポーツの指導では簡単な単語で端的にコミュニケーションをとる。語学に堪能な部員たちにとっても工夫が必要になり、いい経験になっている。

学内には外国からの留学生も多いため、留学生と日本人学生が一緒に楽しめるイベントも活動を開始しているという。

「英語deマルチスポーツ」イベントでモルックを楽しむ子どもたち

SNSの活動と足を使った草の根活動

サッカー部は普段から、インスタグラムやYouTubeなどSNSを活用しているが、イベントの紹介には、近隣の店にチラシを配ったり、少年団の試合に出向いたり、コツコツと輪を広げている。

「足を使うというのはやはり大事です」と監督は草の根活動の手ごたえを話す。

地元で英語教室のハロウィンに参加するなど縁が繋がって、さらに部のスポンサーになってもらうような深まりも生まれたそうだ。

監督が夢見るサッカー部の未来

監督が就任して今年で3年目。「国際色」という東京外国語大学ならではの色を生かして、地域の中で交流が根付き始めている。

「部としてのビジョンはでっかいんです」

監督の描く東京外国語大サッカー部の未来は、そうした活動の先にある。

「近隣にもサッカースタジアムがあるんですけど、そこはなかなかチケットが高い。それに比べたら気軽に入れる大学でサッカーの試合をやっていて、そこにはいつも遊んでくれるお兄ちゃんたちが出ている。みんな真剣にやっていて、面白いサッカーがあれば、全然負けないものになると思っているんです。あとは、たとえばそこで近くの飲食店が出店して利益にするとかね」

サッカーも勉強も地域交流も大切にし、社会で価値あるサッカー部へ

サッカーとイベントを結び付けたい。大学のサッカーを、地域の人たちがたくさん集まる場所にしたい。

社会にとって、その地域で大きな価値あるチームに変えていきたいというのが、監督の思いだ。

「目指す場所はそういうところです。いろいろな人と繋がり、社会に価値を見出す。サッカー部を大学4年間の思い出で終わらせたくない、というのが一番強いんです」

(取材・文/井上尚子 写真提供/東京外国語大学サッカー部)

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