日本女子体育大学バレーボール部・湯浅暁子監督「日女体バレーとしての根幹を作り上げたい」

日本女子体育大学(以下日女体)バレーボール部は、大学日本一を本気で目指している。選手たちに寄り添いながらも、一貫性を持った指導を行なっているのが湯浅暁子監督。強豪・筑波大女子バレーボール部OBの同監督は、「古巣を乗り越えた先にある頂点」を思い描いている。

~コンプレックスを取り除いて日女体の刀を磨く
「(日女体の選手は)筑波大や青山学院大といった、優勝経験のある強豪大選手を上に見てしまう。そういったコンプレックスを取り除き、自分たちの武器=刀を磨くことで勝負できるようになるはずです」
日女体は大学日本一を目指しているが、「簡単に手の届くものではない」ことは理解している。湯浅監督は、「頂点」という最終目標へ向け、信じた道を突き進む覚悟を持っている。
「強豪大の選手は成功体験を重ねた人が多く、自信を持った状態でプレーしている。もちろん、何かしらの壁にぶつかっているでしょうが乗り越えて来ている。日女体の選手からすると、そういう部分がすごく見えるはず」
「言葉に出さないまでも、『すごい選手ばかり』と感じているように見える時もある。そういった自尊心や自己効力感を高めていくことが、力をつけていこうという心構えに繋がると思います」
歩んできた道や重ねてきたキャリアは異なっても同じ大学生である。「取り組みや考え方に変化が生まれれば、自分の武器を磨き上げて挑もうとする選手が増えてくるはず」と確信している。

~バレーボールへの考え方や取り組み方を変える
「本当に突然の監督就任。右も左もわからない中、正直大変でした(苦笑)」
湯浅監督は徳島・富岡東高から筑波大へ進みバレーボールに打ち込んだ。大学4年次の天皇杯で現役引退後は、同大学修士課程2年間、同修了後3年間と指導者としての勉強を積み重ねた。昨年4月からは日女体バレーボール部コーチ就任、8月に監督就任が決定した。
「部内の体制が変わることになり、それに伴って監督就任しました。指導者として覚えることはたくさんあり、時間をかけて経験を積み上げようと思っていた矢先だったので驚きました」
監督就任時、チームは悪い流れのど真ん中にいた。関東大学バレーボールリーグ戦では思ったように勝ち星を挙げることができず、秋季リーグ戦後には入替戦出場を余儀なくされた。
「結果には多くの原因があると思いますが、一番はバレーボールへの考え方や取り組み方に不足があったと思います。そこを覆い隠してやる方法もあると思いますが、自分の考え、指導者として譲れない部分があります」
バレーボーラーとしてだけでなく、人間として染み付いたものがある。湯浅監督のベースにあるのは筑波大時代に培った、「真剣、真摯に向き合う」ことの重要性。入替戦の有無を問わず、変革する思いを持っていた。
「筑波大・中西康己先生や先輩、後輩から学んだことであり大事にしたい部分です。今までの取り組み方と違うことを要求しているとも思います。時間はかかるかもしれないですが、腰を据えてイチから作り上げる覚悟です」

~学年関係なく適材適所の人材登用に踏み切る
昨年10月27日の入替戦は、松蔭大に「3-1」と勝利し1部残留を果たした。「負ければ2部降格」という崖っぷちにいながら同試合を前に、当時3年生の佐伯胡桃(サイキクルミ)をゲームリーダー的役割に指名した。
「大きく変えるためでした。入替戦もありましたが目先より将来を考えてのことです。チームは落ちるところまで行っていました。後輩からの信頼が厚かった佐伯に、『お前がやるしかない』と話しました」
「佐伯には厳しいことばかり言っています。『こういう時はこうしないといけない』という本流を大事にしてもらっています。これは4年生全員に対しても、最も重視してもらっている部分です」
「佐伯はキャプテンシーに優れ、的確にチームを牽引してくれる」という。しかし、部員30名の大世帯(1年生入部前の時点)だけに、隅々まで意思疎通を図るのは並大抵ではない。
「佐伯は気持ちを伝えるのが上手いですが、下級生を含めた全員へ伝わるには時間もかかります。そこで1学年下の川嶋夏未(カワシマナツミ)を副将に起用しました。彼女の存在は大きく、好循環が進んでいます」
チーム内の意思統一を徹底するため、学年に関わらず適材適所な人材を役職に登用した。変革のためにはチーム内のコミュニケーションが第一だと思うからだ。
「指導者として常に感じるのは、『思いの伝え方と伝わり方は簡単に一致しない』ということ。私自身が失敗も多いと思うので、常に細かく気を配るようにしています。役職の人選もそういう部分を考えてのことでした」

~日女体が目指す根本部分だけは絶対に変えない
「指導者として日々が勉強」と感じている。監督と選手、世代間ギャップなど、多くのものに対応することが求められる。
「大学の違いだけでなく時代的違いもあります。自分はコロナ禍前に選手だったので、質だけでなく量を費やすこともできた。今の選手は効率性最重視で、練習時間は定まっているものだという考えです。『納得行くまで練習したり話し合うのが当たり前』という感覚はありませんでした」
「選手たちの感覚に最初は驚きました。しかし、1つずつ話し合い納得してもらえ、自主練習に取り組む選手も増えている。競技力向上に関しても各自が自分なりに考えてやるようになった。プレー時の身体の使い方など、こちらの指導に必死に付いてくる感じですが、従来から変化しているのは間違いないです」
自らが育った筑波大との違いも多く、戸惑うことは多かった。しかし、「現在進行形の選手たちにしっかり伝わる指導」を心掛けて試行錯誤を重ねる。
「日女体の選手と出会ってまだ1年なので、筑波大で教わったことの何が当てはまるのか試している段階かもしれない。まず第一に、日女体はバレーボールへの取り組み方を言われるのが初めての選手も多い。全てにおいて伝え方が重要なので、常に考えて個々で変化させています」
「伝え方は変化させますが、日女体が目指す根本=幹の部分だけは絶対に変わらないように気を付けています」とつけ加えるのも忘れなかった。
「目指すことをやり続けても、即座に結果に繋がるとは限らない。信じたことをやって結果が出ない時にも続けることが大事。小手先の枝葉ではなく幹を大事にするというのは、そういうことだと信じています」

~結果が出なくても、基礎の重要性を信じてやり続ける
2022年の全日本インカレ(第69回秩父宮杯全日本バレーボール大学女子選手権大会)で準優勝を果たした実績もある。しかし、昨秋リーグ戦の結果を踏まえれば関東1部12位が現在地で、上を目指すしかない状況だ。
「今季の春季リーグ戦は昨年の秋からやって来たこと、基礎の重要性を感じつつプレーして欲しい。そこで結果が出なくても、『信じてやり続けられるか?』が大事。過程が重要ということを忘れず1つずつ積み重ねたいです」
佐伯主将をはじめ、選手たちは「日本一を目指す」と即答する。
「過程を積み重ねた先に結果があるのが大事。全日本インカレ準優勝時、『なぜ勝てたのかわからない』という声があったという。それでは先に繋がらないし、日女体のフィロソフィーもできないと思います」
「過程を積み重ねることで諦めない胆力、執着心も生まれるはず。『日本一になりたい』の本当の意味をしっかり理解して、継続した先に結果(=頂点)があるのが理想です」
チームをイチから再構築している段階ではあるが、悲観的な印象は全く受けない。「今の方法を続ければ結果に結びつく」という信念を感じさせた。

「(日女体は)コートに立つ7人に次ぐ8-10番目の選手が重要。4年生はやってくれるはずなので、西野日陽(ニシノヒナタ)、保高愛(ホタカマナ)、窪田晴日(クボタハルカ)の3年生3人が鍵。レギュラー奪取するくらいなら、チーム力が格段に上がるので注目してください」
具体的な今季注目選手の名前まで挙げてくれた。「過程の継続が第一」と語りながら、湯浅監督の中には今季の戦い方が既にイメージできているようだ。
準備は順調に進んでおり、昨年のようにチームが混迷を極めることはなさそうだ。日本女子体育大バレーボール部、誰もが予想する以上のことをやってくれそうな感じがする。
取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本女子体育大学バレーボール部)