元広島ドラフト4位監督と伝説の主将が代表兼GM、宮崎サンシャインズが挑む2年目の戦い
独立リーグ・九州アジアプロ野球機構の宮崎サンシャインズ(以下サンシャインズ)がリーグ参入2年目を迎えた。グラウンド内外で問題が山積みだった昨年の経験を活かし一歩ずつ着実な前進を目指している。
昨季成績は11勝64敗3分、勝率.147。首位・火の国サラマンダーズが50勝、順位が1つ上の3位・大分B-リングスですら34勝を挙げている。いかに勝てないシーズンを送ったのかは数字からも明白だった。
~ここまで勝てないチームは初めての経験
「覚悟はしていましたが想像以上に勝てなかった」
チームを率いる金丸将也監督はリーグ1年目を振り返って、時折、苦笑いを浮かべながら振り返ってくれた。
「オープン戦は社会人や大学生が相手でしたが全勝しました。多少の手応えはありましたが開幕戦で『1-12』と大敗。点差以上の差も感じたので、『リーグ78試合で1つでも勝てるのか?』と思ったほどです。開幕からしばらくは眠れない日もありました」
3月18日の北九州下関フェニックス戦(都城)でのコールド負けからスタート。初勝利は5試合目、4月3日のソフトバンク四軍戦(タマスタ筑後、スコア「5-2」)だった。
「結果的に1年目は11勝しかできなかった。9月の4連勝時などは『何とかなってきたかな』とも思いましたが、現実的にはダントツの最下位でした。改めて考えても悔しいですね」
金丸監督は宮崎・佐土原高から中部大、社会人・東海理化を経て2010年ドラフト4位で広島入団。ドラフト1位にはハンカチ世代の福井優也(現独立・福島)がいた年代だ。
「アマチュア時代から強豪チームでプレーをしてきました。プロでは一軍登板経験はなかったですが、高いレベルで野球をやりつつ常に勝利を意識してきました。ここまで勝てないチームに在籍したのは初めてだったので戸惑いもありました」
2013年に広島退団、それ以降は地元で仕事をしながら学生野球資格の回復を図るなど指導者の勉強をした。2022年春に就任依頼を受け、同年9月に初代監督となることが発表された。
「いつかは監督になりたい、という気持ちはありましたが時期尚早だと思っていました。色々な方に相談しましたが、背中を押していただき覚悟を決めました。全力を尽くして勝てるチームを作りたいです」
~脳腫瘍を抱えながら球団代表兼GMを引き受けた
「コーチという肩書きがありながらフロント業務だけで1年が終わったような感じです」
深江義和代表兼GMの1年目はグラウンド外業務に忙殺された。コーチ兼任の肩書もありながら、練習に参加することがほとんどできなかった。
「興行もファンの方々と関わった経験もありません。リーグやスポンサーさんとの関係など、全てが初めてのこと。もちろんチーム内部でも色々ありました。1つひとつ対処しているうちに1年が終わった感じです」
「チケット販売の値段設定すらわかりません。他球団を参考にしましたが宮崎の土地柄との違いもあるので試行錯誤の連続でした。そういった昨年の経験もあるので、今年は多少やりやすくなりました(笑)」
深江代表兼GMは1988年に宮崎南高が夏の甲子園初出場・初勝利を飾った時の主将(ポジションは捕手)。当時1年には広島等で活躍した木村拓也さんがおり、正捕手の座を争う関係だった。
「宮崎はプロ野球キャンプ地なので常に野球が身近にありました。でも地元チームが全国レベルでは勝てないことが多かったので、プロ球団ができるなんて想像もしていませんでした」
独立リーグ球団も全国に増え始め、NPBドラフトにかかる選手も出始めた。深江代表兼GMはアマチュア野球を盛り上げる「宮崎県野球協議会」の活動を手伝っていた中、2022年始めに宮崎球団設立の話を聞いた。
「宮崎の野球がまた1つ発展すると思いました。当初は球団と関わることは考えておらず、何かあれば協力しようというスタンスでした。本業もあるし身体の不安もあります。そうこうしていると球団代表兼GM就任をお願いされました」
宮崎市内で営んでいた飲食店はコロナ禍で客足に苦しんでいた時期だった。そして何より脳腫瘍という大病を抱え4度の手術を行なっていた。
「お店もうまくいってなくて運命的とも感じました。野球への思いもあり家族も後押ししてくれたので引き受けました。身体に関しても現状を全て伝えて、『何かあったら後はよろしく』と話しました」
~昨年の倍の勝利数を挙げても最下位脱出できない(金丸監督)
初年度は負けが増えてもご祝儀的な見方をしてもらえるが、ここから先は結果もシビアに問われる。金丸監督も「勝敗に関してもっと貪欲になる」と力を込める。
「昨年の倍の22勝を挙げてもリーグ最下位脱出は難しい。それでもコツコツと勝利を積み重ねていくしかない。勝てないチームには周囲の関心もなくなります。例えば、NBPのスカウトも足を運ぶ回数が減るはずです。地元の人々も弱いチームを見たいとは思わないはずです」
1つでも多く勝てるためにはチームとしての結束と共に、選手個々の思い入れの強さが必要と続ける。
「昨年はチームがバラバラの時期もありました。選手間に溝があり、負けた責任をお互いになすりつけ合っていた。成績を出していないのにそのような感じで、雰囲気の悪さが結果に直結したように思います」
「チーム内のルールを明確化するなど雰囲気改善に努めました。シーズン終盤には7点差を追いつき最後に延長で勝った試合もありました。チーム一丸となり勝利へ向かう姿勢が少しずつ出てきたように感じます」
「今季は野球への熱を感じる選手を獲りました。他球団のトライアウトを落ちても何度でも挑戦する、やる気に満ち溢れている選手です。野球をやりたいという気持ちが重要だと思います」
~田舎の強み打ち出し宮崎の色を作り出す(深江代表兼GM)
深江代表兼GMはグラウンド上の勝利はもちろん、「宮崎の人が何を求めているのかを考えて欲しい」と熱く語る。
「会える人には全て挨拶へ行こうと思います。宮崎の皆さんが求めていることを把握して応えられるようにしたい。チケットを買ったりスポンサーになってもらえる人たちがいないと、我々のような田舎の球団は成り立ちません」
「せめて半分は勝ってもらわないと困る」と直接言われたこともある。宮崎の人々が持つ地元と球団への熱い思いを常に感じている。
「宮崎を盛り上げたいと思っている人がすごく多い。勝ち負けに関して叱咤激動もありますが、それ以上に『地域に還元して欲しい』と言われます。いわゆる田舎魂、田舎ならではの地域愛が強いです」
「厳しいことを言っても試合には足を運んで応援してくれる。ありがたいし本当に嬉しいです。選手も1年やってそういう部分を少しずつ理解してくれています。球団と宮崎の人々の良い関係が築けつつあると思います」
リリーフカーに人力車を使用するなど、色々と試しながら宮崎でしかできない球団作りを探し出そうとしている。
「他球団がやっていること全てが宮崎にとっての正解ではありません。田舎というのを前面に押し出すのも面白い。宮崎ならではの良さがあるので、自分たちの色を打ち出していこうと思います」
宮崎ではNPBをはじめ多くのチームがキャンプを行い、プロ野球選手も輩出している。全国屈指の「野球どころ」にできたプロ球団に対する期待と注目度は高い。
「精神論は古いと言われますがスポーツの根底には気持ちがあります。1試合、1プレーに勝負を賭ける気持ちを大事にしたい。それが周囲に伝わり感動を呼ぶ。気持ちがあれば、誰もが興味を持ってくれるチームを作れるはずです」(深江代表兼GM)
「NPBキャンプやフェニックスリーグは無料で観られる。でも我々はプロとして入場料金を取っています。魅力ないチームにお金を払いたくないはずです。全ての試合を勝つことは無理ですが、勝てない中でも必死に最後まで諦めない姿勢は伝わるはずです」(金丸監督)
勝ち負けは重要だが、それ以上に大切にすべきことがある。まだまだ若い球団だが、プロとしての本質は十二分に理解している。この思いを持ち続ける限り、宮崎サンシャインズの前途には明るい光が差し込んでいる。まもなく始まる2年目シーズン、どのような歩みを魅せてくれるかに注目したい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・宮崎サンシャインズ、宮崎県野球協議会)