福岡ソフトバンクホークスジュニア 帆足和幸監督 「選手から意見が出る雰囲気をつくる」”主体的に考える”チームで目指す15年ぶりのトーナメント制覇
12月26日〜29日の間で開催される「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2024~第20回記念大会~」。
各球団が小学5年〜6年生を選出し、予選から決勝トーナメントまでを戦う。九州・沖縄・山口を中心とした地域の代表として戦うのが福岡ソフトバンクホークスジュニア。
09年以来2度目の優勝を目指すチームの監督を務めているのが地元福岡県出身で、西武とソフトバンクの2球団で通算90勝を挙げた帆足和幸氏である。
現在アカデミーコーチも務める帆足氏は、ジュニアチームの監督としても就任6年目を迎えた。
今回は選手たちに教えている姿勢や、チームとして今年の展望などを語ってもらった。
(取材 / 文:白石怜平 写真:©SoftBank HAWKS)
18年にアカデミーコーチへ就任し、翌年から監督へ
帆足監督は15年に現役引退後、打撃投手や球団広報を歴任し18年途中に現在の野球振興部へ移った。
ここで「NPO法人ホークスジュニアアカデミー」のコーチとなり、翌19年からはホークスジュニアの監督へと就任した。
ホークスジュニアの選手選考は例年6月から募集を開始し、8月に16名の選手が決定する。今年は8月時点で21名の候補メンバーを選出し、10月中旬に最終決定となった。
「毎年選手の動きを見てどんなチームカラーにしていくのかを考えますので、そこに一番力を入れます」
チームでの活動としては、週末を中心に練習や試合を重ねて大会へと備えていく。帆足監督の指導方針は、就任当初から変化を加えている。当初との比較を交えて明かしてくれた。
「就任して最初の3年は質より量で、”やらせる練習”でした。ですが、長くやっても必ずしも上達に比例するとは限らないので、近年は全体練習に加えて自主練を設けています。
それでやりたい練習があれば『監督・コーチを使おう。何でもサポートするから』という形にしています」
帆足監督が浸透させる”考える習慣”
監督としての経験を積む中で、明確な指導方針が確立された。それは選手たちが「自ら考えること」であった。
帆足監督は約4ヶ月という短期間の中で、選手たちの自主性を育んでいる。
「選手たちには主体性を持ってもらうことを目指しています。自分たちから”やりたい”と意見が出る雰囲気を我々もつくっていますし、選手たちの話をしっかり聞いて意見を取り入れています。
例えばバッティングがしたいとなれば、『その中で何をするの?』と深堀る。それがシート打撃の時もあれば、フリー打撃・ロングティーなどあるので、我々がリクエストに応えています」
3年ほど前から現在の方針にたどり着いたそうだが、”考える”ことを推進しようと決めたのは大会での経験だった。
「(ジュニアトーナメントで)勝てなかったんです。試合に出るのは子どもたちですし、グラウンドの主役です。なので、自分たちの感覚で動いてもらわないといけないと感じました。
常に予測をしていれば何が起きても対応ができるので、頭で考えて動く必要がある。
それは試合に出てない時でも一緒で、自分に何ができるのか。チームのために考えて行動してほしいし、試合に出るとなればグラウンドでも活きてくる。そう思ったからです」
子どもたちに思考を促すため、活動後にある取り組みをしている。その内容についても明かしてくれた。
「僕らが見ていいなと思えた子がいたら、練習や試合後になぜ良かったのかを発表してもらうようにしました。
発表する子どもたちが自分の意見を伝え、聞いた子が次に向けて参考にしてもらう狙いがあります」
”有言実行できる”チームに必要な要素とは?
”考える”をキーワードに帆足監督は指導方針を展開しているが、加えて目指すチーム像がある。続けてこう話した。
「声が出るチームは強いです。仮に劣勢でも雰囲気をつくって乗っていければ流れが変わったり、思わぬ力を発揮することもあります。
なので、チームの雰囲気がすごく大事と思っていて、必ず顔合わせの時には『声を出そう!』と呼びかけるんですよ。ただ『オーイ』と言うだけではなく、これも”考えて声を出す”。逆転できる雰囲気を自分たちでつくる。
そうやって一つになれるチームは”10点取るぞ”となったら取れます。有言実行できるようになるんです」
その有言実行は昨年実践されていた。初戦に敗れたホークスジュニアは、カープジュニアと対戦した。
初戦に負けても、次の試合に勝利すれば1イニング平均得失点差で決勝トーナメントに進める「ワイルドカード」を勝ち獲れる可能性が残されていた。
進出の可能性に懸けて10点取ることをチームとして掲げ、試合へと臨んだ。結果この試合は10-1とコールドで勝利。決勝トーナメントへと進出することができた。
「1点ずつ積み重ねる野球でチームが一つになって実現できた試合でした。点差をつけられたとしてもそのまま行かずに”逆転するぞ”と前向きになれるチームをこれからもつくっていきたいです」
言葉を使って選手の力を引き出す
アカデミーコーチとしても活動する帆足監督は、日々子どもたちと向き合っている。コミュニケーションを取る上で、常日頃意識していることとして「言葉の使い方」を挙げた。
自身がかけた言葉は、大舞台の中でも選手が持つ力を最大限に引き出した。ある年のトーナメントでのエピソードを明かしてくれた。
「試合前にブルペンで明らかに緊張している様子が見えたので、
『先発で使うのは監督の俺だから。打たれたら俺の責任なんだから何も気にしなくていい。思い切って投げてきな!』って伝えたことがありました。
試合直前にもう1回『今日打たれたらどうする?』って聞いたら『監督の責任でしょ?』って言ってくれたので、『よし!行ってこい!』って送り出したらいいピッチングしてくれました」
今年は投手を中心とした守りのチーム
ホークスジュニアは09年以来2度目の優勝を目指す。今年のチームはどんな特徴かを監督自身に語ってもらった。
「能力は過去最大級に高いと感じています。今年の特徴は守りだと思っています。コーチが鍛えてくれてミスも出ないですし、投手陣も120km/h 以上投げる選手が4人揃っています。守備からリズムを作って流れを呼び込みたいですね」
選手選考においてどんな点を重視したのか。長打力のある打者やスピードボールを投げる投手といった選手の他に、毎年必ず見ているポイントがあった。
「まずはキャッチボールを見ます。丁寧にキャッチボールができる子は守備は間違いなく上手いです。逆にキャッチボールが上手じゃない子で守備や投球が上手い子はほぼ見ないです。
攻撃面では走力を重視しています。足が速くて走塁が長けている子がいれば得点につながるので、選考ではいつも考えています」
監督としては昨年決勝トーナメントに進んだが、実は意外なデータがある。
「僕は初戦でまだ一度も勝っていないんです。なので絶対勝ちたい想いは強いです。初戦に全てを懸けます」
子どもたちに身につけてほしい「継続力」
ジュニアチームの監督そして、アカデミーコーチとして今もユニフォームを着続けている帆足監督。
トーナメントやアカデミーを卒業した生徒との交流は今も続いている。その絆は監督自身が築き上げていた。
「卒業生はもう最初に教えた子は高校3年生になっていますが、今でも相談をしてくれます。自分が教えた子どもたちですから嬉しいですよね。
映像も送ってくれますので見てアドバイスするやりがいがあります。”今どこの学校に進んで何回戦なのかな”とチェックもしていますし、今年は3人甲子園に出てくれました」
最後に自身が指導者としてどんな選手そして人を育てたいか、その想いを語ってもらった。
「野球が上手くなるために必要なことはもちろんですが、野球だけじゃない部分も教えていきたいです。それは”継続すること”。どんなことがあっても継続力が付いていれば対応できると思います。
上手くなるためには継続が必要ですし、人間嫌なことはすぐ離れがちなのですが、社会に出ても”我慢して続けていくこと”を覚えてほしいと思うので、僕も子どもたちと一緒に頑張っていきたいです」
監督が勝負をかける初戦は26日。神宮球場で阪神タイガースジュニアと対戦する。思考力と結束力をかけ合わせ、15年ぶりの頂点を目指す。
(おわり)