中学硬式野球・ポニーリーグの選手数が激増するのは、理念がブレないから
中学硬式野球・ポニーリーグの人気が右肩上がり。同年代の硬式野球団体の中において、同リーグは選手数を大幅に増やしている。ボーイズ7.9%、リトルシニア2.2%、ヤングリーグ18.4%の選手数増と比較しても、ポニーリーグの138.3%は群を抜いている(*1)。
「Protect Our Nation’s Youth(我が国の宝である青少年の成長を守る)。ポニーリーグの理念は50年前から何も変わっていません。時代や社会が変わり、周囲が理解し始めてくれたのだと思います」
ポニーリーグ事務局長・那須勇元氏は、「理念がブレないことを最も大事にしています」と強調してから説明を始めてくれた。

~試合に出れば野球がもっと楽しくなる
「『社会に有益な人材を育てること』に少しでも繋がればと思います。プロ野球選手やメジャーリーガーを夢見るのは理解できますが、現実は甘くない。多くの選手は成長して大人になる準備の1つとして、ポニーリーグでプレーをしている。そのためにも、良い環境を整えてあげたいと思っています」
「野球は試合に出て覚えよう」
ポニーリーグは育成の場所であり、実戦経験を積むことが大事だと考える。「“野球人生の大きな節目”である高校野球への繋ぎ役」と捉え、多くの選手が試合出場できる仕組みを取り入れている。もちろん、選手の健康面にも最大限の注意を払う。
1団体から複数チーム(最大4チーム)を登録でき、先発メンバーに限り交代した選手が再出場できる“リエントリー制度”を採用。球数制限の厳守やリーグ主導で個々の健康チェックにも取り組むなど、真の“選手ファースト”を目指す。
「練習ばかりでは楽しくない。誰もが自分の成長を実感できる場所(=試合)に立ちたいはず。『頑張り続ければ試合に出られて結果を出せるかも…』という希望を持って取り組んで欲しい。選手に健康でいてもらいたいのも、長くプレーを続け試合に多く出て欲しいからです」
「忍耐強く努力できる人材作りにもなると信じています」と続ける。10代での野球生活だけでなく、将来的な人間形成も見据えている。

~高校野球へ繋げるための工夫
“野球人生の大きな節目”である高校野球へ繋げるために、年間スケジュールも可能な限り揃えている。集大成と言える7月開催の全日本選手権大会(東京他/以下全日本選手権)へ向け、選手・チームは日々を過ごしていく。
「夏に新チーム結成、秋大会の結果を踏まえ、翌年春の全日本選抜中学硬式野球大会(沖縄/以下全日本選抜)を行う。その後は春大会を戦いながら、各年代の日本代表選手は国際試合にも参加。各選手・チームは経験を重ねてレベルアップを図り、全日本選手権へ挑みます」
7月末に全日本選手権が終わると、各チームは実質的な“世代交代”で新チームとなる。野球技術を高め、実戦経験を積み重ねるのは秋以降となる。
「全日本選手権までは、どのチームも中学3年生主体の進行形チームに注力されている。そこから1ヶ月程度しか時間を経ていない秋大会開幕時に、各チームが形になっていることは考えにくい。秋大会を戦いながら、育成とチーム構築を進めていくことになります」
「秋大会終了後、練習漬けの日々を過ごして冬を越すのも高校野球と同じです。よって秋から春の全日本選抜までは育成期間です」とも語る。春の王者を決める全日本選抜であっても、その姿勢は変わらない。
「全日本選抜も、夏の全日本選手権への通過点。各選手・チームには育成にも活用して欲しいと考えます。秋大会を勝ち抜いたチームのみでなく、参加希望チームも出場可能にしているのはそのため。もちろん開催地の沖縄連盟は所属全チームが参加します」
「ここでも『野球は試合に出て覚えよう』を重視します。沖縄のチームは普段、対戦機会のない本土のチームと試合ができます。そして敗戦チームも交流戦の形で最低3試合はできるようにする。実戦経験ができる場所を作り出しています」
全日本選抜へ出場しないチームは、練習やオープン戦を行いつつ春大会を戦い、全日本選手権予選へと向かう。その間の成長具合で、チームの実力・成熟度も大きく変わる。「各選手・チームがレベルアップして、全日本選手権へ向けて盛り上がれば最高です」と笑顔を見せる。

~グラウンド内外で選手・家族・関係者の充実度を高める
グラウンド外では、各大会のエンタメ化を進めているのも大きな特徴だ。春の全日本選抜では前夜祭を盛大に開催、夏の全日本選手権も開会式を華々しくショーアップする。
「近年はインバウンドの増加や円安、物価高もあって、遠征旅費が信じられないほど高騰している。中学生年代に負担してもらうには心苦しい金額です。だからこそ、大会自体に付加価値を付ける必要を感じています」
「選手・家族・関係者の皆さんにとって、一生の宝物になる大会にしたい。野球に関しては選手達が懸命に戦う場所であり、我々ができることはない。それならばグラウンド外で、例えばディズニーランドへ足を運ぶのと同じくらいの満足感を味わってもらいたいです」

全日本選抜の前夜祭ではミュージシャンによるライブ演奏が行われ、選手達も一緒になって盛り上がる。全日本選手権の開会式には、NPB球団のチアリーダーが訪れてパフォーマンスを披露。会場上空ではドローンショーが行われ、ポニーリーグのロゴが夜空に浮かび上がった。
「全日本選手権決勝は、出場全チームの選手・関係者がスタンド観戦します。数千人の観客に囲まれた中で勝ち残った2チームが戦う。中学生年代から大観衆の中でプレーすることは大きな経験であり、最高の思い出になるはず。“観る側”も、感じるものは小さくないはずです」
球場外にはスポンサー企業がブースや売店を出し、飽きさせない試みもなされている。“ポニーリーグの夏祭り”といった雰囲気を醸し出し、誰もが楽しめる空間が出来上がる。
春の全日本選抜、夏の全日本選手権に加え、3年生主体チームによる“コルト”大会も行われるようになった。「野球に触れていられる環境を作り、高校野球へスムーズに移行するためです」。グラウンド内外で選手達が充実度を高められるよう、様々な試みがなされているのが強みだ。

~全選手揃っての入場行進には大きな意味がある
野球人口減少が叫ばれる中、10年前に比べても登録チームと選手の数が約3倍に増えているという。
「例えば10年前の秋季関東大会の開会式は、全選手が整列しても二遊間の間で収まるほどだった。今ではファウルゾーンにまで選手が溢れてしまいます。選手数の多さだけでも、期待度の高さと責任の重さを感じます」
ポニーリーグでは、各大会開会式で大切にしていることがある。入場行進を全参加チーム・選手で行い、関係各位への挨拶と感謝を伝えることを徹底している。
「各スポンサー様、行政団体の方々、ご家族など多くの関係者がいます。こういった支えてくれる人々がいて、選手達は中学3年間野球に打ち込むことができる。時間を要しても全選手が揃って入場行進をして、挨拶と感謝を直接伝えたい。試合以上に大事な部分だと思っています」
選手達は周囲への感謝を忘れず真剣にプレーする。周囲の大人達は少しでも良い環境を整えるために可能な限りサポートする。それぞれの相乗効果で、これからも進化・成長を続けていくはずだ。ポニーリーグの選手数が右肩上がりなのは、必然なのかもしれない。
(*1:2026年8月29日/東洋経済オンライン『子供の「野球離れ」が止まらないのに選手倍増…「選手が1人だけでもいい」スパルタ指導も排除した“ハードルの低い”リーグの実態』参照)
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本ポニーベースボール協会、岸本純)

