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「エースならば先制点を取られてはいけない」 東日本国際大・阿字悠真が背負う“背番号18”の重み

大学野球においては「背番号18」をエースナンバーとする大学が多い。東日本国際大の阿字悠真(4年=滋賀学園)はそのエースナンバーを背負い、神宮のマウンドに立った。15日に決勝を迎える第74回全日本大学野球選手権大会。昨年4強の東日本国際大は12日に行われた東北福祉大との「東北対決」に0対4で敗れ、初戦敗退を喫した。先発の阿字は3回途中5安打3失点と試合を作れず。それでも、エースの自覚を胸に強力打線に立ち向かった。

「阿字がエース」と任されるくらいの投手になりたい

阿字は1年春から登板機会を得てリーグ戦通算11勝をマークしている右腕。最上級生となった今春は先発の柱を担い、7試合、34回3分の1を投げて4勝、防御率0.52と抜群の安定感を発揮して最優秀投手賞、最多勝利投手賞、ベストナインの個人三冠に輝いた。

「指導者にはまだ『阿字がエース』だと思われていない。私生活や練習態度から見つめ直して、『阿字がエース』と任されるくらいの投手になりたいです」。リーグ戦開幕直前の3月末、東北地区社会人・大学野球対抗戦のトヨタ自動車東日本戦に先発登板した阿字はそんなことを口にした。

最上級生として投手陣を牽引した阿字

この日、阿字は試合に敗れる中で3失点完投。社会人相手に粘投し手応えを感じた一方、現状に満足してはいなかった。直近のオープン戦で不調が長引き、大量失点を喫したり、ストライクが入らなくなったりする試合が続いていたのだ。「チームに迷惑をかけている。監督、コーチが一緒になって悩んで教えてくださったのに結果が出ないのが悔しいです。結果がすべてなので、何としても結果を出したい」。大学ラストイヤーを前に、「エース」という言葉の重みを再認識した。

結局リーグ戦では投手陣の柱を担い、優勝に貢献。真のエースとなれたかどうか確かめるべく、全日本大学野球選手権に臨んだ。

悔いが残った神宮マウンド、東北福祉大投手陣に完敗

東北福祉大戦の初回、先頭打者に安打を許し、いきなり1死二塁のピンチを迎える。ここで3番・佐藤悠太(3年=報徳学園)、4番・冨田隼吾(4年=花咲徳栄)の強打者2人を連続三振に仕留め、雄叫びを上げた。自身が課題として挙げていた立ち上がりを無失点。幸先の良いスタートを切った。

二回は140キロ台前半の直球とカットボールなどの変化球を駆使して2三振を奪い、三者凡退。勢いに乗ったかに見えたが、三回は先頭打者に四球を与えてしまう。犠打で好機を広げられ、その後は4安打1四球と相手打線を止められず降板。投手交代を告げられ、唇を噛みながらベンチへ向かった。

打ち込まれ悔しそうな表情を浮かべる

「立ち上がりをクリアできて気が抜けてしまったのかもしれない。(3回の先頭に)四球を出して自分の中で焦りが出てしまいました。自分の気持ちが弱かったです」。試合後、阿字は悔しそうな表情を浮かべながら声を絞り出した。

「エースになれたと思うか」――。肩を落とす阿字に尋ねると、「正直、自分ではまだ思えていません。ロースコアが予想される試合で先制点を取られてしまっている部分が甘い。エースであれば、チームを信じてゼロで抑えなければならないと感じました」との答えが返ってきた。

対する東北福祉大は堀越啓太(4年=花咲徳栄)、櫻井頼之介(4年=聖カタリナ学園)による完封リレーを披露。今秋ドラフト候補に挙がる同学年の両右腕を目の当たりにして「すべて負けていた。まっすぐを磨いてきたつもりだったけど、まだまだ自分の力不足だな」と実力の差を痛感してもいた。

指揮官は断言「エースですので、なんとか最少失点で」

一方、病気療養中の藤木豊監督に代わって指揮を執っている岡本幹成監督は試合後、「阿字にはなるべく長いイニングを投げてもらいたくて、(交代の)決断が遅れたと言えば遅れたかもしれない。ただ、エースですので、なんとか最少失点で抑えてほしいという期待はありました」とはっきりと「エース」という言葉を口にした。

ピンチでマウンドに向かう岡本監督と選手たち

東北福祉大は藤木、岡本両監督の母校とあって、何度もオープン戦を組んでいる。阿字もたびたび登板しておりデータは十分に取られていた。「それでも初戦の先発は迷いなく阿字投手だったのか」という問いに対しては、「正直な話迷いましたが、全国の初戦はエースで、という気持ちでした」と言い切った。

首脳陣の間で「阿字がエース」で異論ないことは紛れもない事実だった。

病気療養中の藤木豊監督の教え胸に、最後の秋へ再出発

阿字は「藤木監督のために全国に行こう、全国でも頑張ろうと言っていたので、悔しいです」と藤木監督への思いも吐露した。「エースならば先制点を取られてはいけない」とは藤木監督から受けた忠告だ。だからこそ、まだ胸を張ってエースと名乗ることはできない。

秋こそはエースの称号を手に入れる

父・大作さんは今回対戦した東北福祉大や社会人野球の日本生命で活躍した投手。阿字は以前、「超えないといけない存在だし、父も超えてほしいと思っているはず」と話していた。

次のステージへつなげるため、秋は東北福祉大を含む東北の並み居る強敵を倒し、再び神宮のマウンドに戻ってくるつもりだ。「(東北福祉大に)2度も負けていられない。まずは秋のリーグ戦に向けて、明日からもう一回、気を引き締めて練習していきたいです」。最後の秋こそは、背番号18が似合う投手になってみせる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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