もはや「絶滅危惧種」になりつつあるプロ野球の「地方巡業」
広尾晃のBeseball Diversity
プロ野球の「フランチャイズ制度」とは、プロ野球チームが本拠地球場を決め、その周辺に都市や都道府県、地方を「排他的な商圏」として決めることだ。
フランチャイズと「地方巡業」
プロ野球(職業野球)には草創期には「フランチャイズ」という概念はなかった。そもそも野球興行が可能なスタジアムが、兵庫県の甲子園球場、東京都の後楽園球場など限られていた上に、戦前は「学生野球の聖地」神宮球場は、職業野球は使用できなかった。
第二次大戦後、メジャーリーグに倣って「フランチャイズ」を決めることとなった。
しかし、前述のとおりプロ野球ができる球場が限られていたために1952年の時点では、後楽園球場(東京都)を巨人、国鉄、毎日、大映、東急が本拠地にするなど、実質的には、フランチャイズ制度は、あってなきがごとし、という状態だった。
各球団はフランチャイズ球場であっても、他球団が使用していることもあり、全国各地の球場で、公式戦を「地方巡業」として行った。 地方球場での試合興行にはプロ野球側に大きなメリットがあった。昭和中期まで、日本のプロ野球チームの多くは、本拠地球場であっても、使用料を支払って試合をしていた。使用料を払っていなかったのは、阪神(本拠地甲子園球場)などごく一部の球団だった。観客が少ないと、本拠地球場でも赤字になることが珍しくなかったのだ。

「地方巡業」のメリット
しかし「地方巡業」は、原則として現地の新聞社やテレビ局、一般企業などが「プロモーター」となって、公式戦を丸ごと買い取ってくれた。プロモーターはチケットを売りさばいて収益を得るのだが、球団側は「買い取り」だったから、観客が入っても入らなくても、赤字になる心配はなかった。また、地方での試合では地元有力者が選手を歓待するなど、利得も大きかった。この形式は大相撲の「地方巡業」と同じものだ。
昭和の時代は、巨人の人気が圧倒的で、巨人の試合は地方でもあっという間に売り切れ、超満員になったが、他のプロ野球の試合もそれなりにチケットがさばけたので、地方から「うちに来てくれ」というオファーも多かった。
こういう形で毎年同じ場所で「地方巡業」を行うようになったので、巨人の北海道、岐阜市、ヤクルトの松山市、DeNA(横浜)の新潟市、阪神の倉敷市などのように毎年の恒例行事のようになった試合もあった。
また福岡市を本拠地とするソフトバンクと、札幌市(2022年まで)を本拠地とする日本ハムは、それぞれ「九州全域」、「北海道」を、球団のマーケットとみなし、ソフトバンクは九州全域、日本ハムは北海道全域で、試合を行っていた。

「準本拠地」
さらに「準本拠地」という考え方もあった。阪神タイガースは、親会社の阪神電鉄が所有する甲子園球場が本拠地だったが、夏の甲子園の期間は、甲子園を使用できない。かつては、その期間、阪神は他球団が主催する試合に出場するため各地に遠征していた。これを「死のロード」と言ったが、1997年に大阪ドーム(現京セラドーム)ができると、夏の甲子園の期間、この球場で主催試合を行うようになった。以後、阪神は京セラドームを「準本拠地」としている。
また、オリックスは、1991年から神戸のグリーンスタジアム神戸(現ほっともっとフィールド神戸)を本拠地にしていたが、2005年球界再編によって近鉄と合併すると、近鉄の本拠地である大阪ドームを本拠地とし、グリーンスタジアム神戸を準本拠地にした。
さらに西武は、埼玉県に移転した1979年以降、西武ライオンズ球場(現ベルーナドーム)を本拠地にしていたが、同じ埼玉県の埼玉県営大宮公園野球場を準本拠地として、公式戦を行うようになった。
「準本拠地」での公式戦は球団が主催し、チケットを販売しているので「地方巡業」とは興行の仕組みが異なっている。
21世紀に起こった球団の経営改革
20世紀のNPB球団は、巨人戦の放映権があるセ・リーグ球団は辛うじて収支の均衡を保ち、パ・リーグ球団の多くは赤字経営で、親会社の補填を受けて辛うじて存続していた。
しかし2004年の「球界再編」を経て、各球団は「独立採算」「健全経営」へと舵を切る。
経営健全化の重要なポイントとなったのが、本拠地球場の「営業権」の獲得だ。
2006年、ロッテが、NPB球団で初めて本拠地球場の「指定管理者」になったのを皮切りとして、広島、楽天、DeNAなどが本拠地球場の「経営権」「営業権」を獲得するようになった。
これによって従来は「使用料」を支払って使っていた本拠地球場を「自分たちの球場」として自由に使って、広告、物販などのビジネスを展開するようになって、本拠地球場での収益性は飛躍的に上がった。
また、ファンクラブを中心にしたマーケティングも功を奏して、観客数も増大し、本拠地球場での試合開催が莫大な利益を生むようになった。
そうなると「地方巡業」のメリットが薄れてしまう。
「地方巡業」のメリットなくなる
地方球場での試合は「赤字」はないが、そもそも観客席の少ない地方球場での売り上げは小さい。近年は「野球離れ」が進んで、巨人や阪神の試合でも満員になることが少なくなっている。
本拠地球場は豊富な資金力を背景に、人工芝を張り替えたり、空調や照明を最新のものにするなど、改修が行われているが、地方球場は老朽化が進んでいる。
選手も長時間の移動や、貧弱なロッカールーム、整備が行き届いていないグラウンドなどに不満を漏らすことが増えている。「けがのリスクが大きい」という声も聞こえてくる。
そういうこともあって、近年は「地方球場での公式戦」が減っている。
一方で、京セラドーム大阪や東京ドームなどは、球場の稼働率を上げるためにオリックス、巨人以外のチームに主催試合をするように営業を仕掛けている。

激減した地方巡業
2010年にセ・パ両リーグで行われた公式戦864試合のうち、球団の本拠地球場以外で行われた試合は92試合あった。このうち前述した「準本拠地球場」で行われた試合が34試合、東京ドームで行われた他球団の主催試合が1試合、残る57試合(6.6%)が「地方巡業」だった。
それが2025年には、公式戦858試合のうち、球団の本拠地球場以外で行われた試合は45試合。このうち「準本拠地球場」で行われた試合が16試合、東京ドームと京セラドームで行われた他球団の主催試合が6試合、「地方巡業」はわずか23試合(2.7%)にまで減少している。準本拠地での試合も減っているが、地方巡業は激減している。
地上波全国放送での「プロ野球中継」が激減する中、プロ野球を実際に見る機会が少ない地方での野球人気は下落している。プロ野球の「地方巡業」は「野球離れ」を食い止めるためにも、非常に重要なのだが、経済性を優先する中で、風前の灯火になっているのが現状だ。
