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新生・名古屋ビクトリーが4年ぶりV!極限のピンチをしのいだ“声の力”と全員野球の真髄

5月16日〜17日の2日間、神戸市で「第34回全国身体障害者野球大会」が開催された。全国39チームの頂点を決める“春の選抜”では、「名古屋ビクトリー」が4年ぶりに優勝を果たした。

決勝戦の相手は、競技の歴史そのものとも言える神戸コスモス。5年ぶりとなった伝統カードは、最後の最後まで勝敗の行方が分からない熱戦となった。

(写真 / 文:白石怜平)

名古屋と神戸が5年ぶりに決勝での対戦に

「全国身体障害者野球大会」は毎年5月に神戸で行われる大会で、”春の選抜大会”とも称されている。1993年に第1回が行われてから今回で34回目を迎えた。(※95年、2020年は開催中止)

全国39チームの中から、前年の地区大会で上位の成績を収めるなどした16チームが選抜され、全国の頂点を競う。

今年もほっともっとフィールド神戸・G7スタジアムを舞台に、快晴の下で熱戦が繰り広げられた。

本大会で覇権を勝ち獲ったのが「名古屋ビクトリー」。

93年の第1回大会から出場を続け、21年・22年と本大会連覇を果たしている全国屈指の強豪チームである。

“もうひとつのWBC”である「世界身体障害者野球大会」の日本代表選手も多く在籍しており、地元名古屋で開催された23年の第5回大会では5名を輩出。今年11月に北九州で開催される第6回大会では2名が選ばれている。

第5回大会で主将を務めた松元剛(写真左)ら日本代表選手も揃う

今回名古屋は激戦を勝ち進み、4年ぶりの決勝へと駒を進めた。準々決勝では秋の全国大会にて現在6連覇中の王者・岡山桃太郎を破っての進出だった。

そして決勝では神戸コスモスとの対戦に。21年の第29回大会以来5年ぶりに、両者が決勝でぶつかった。

神戸は身体障がい者野球誕生のルーツとも言えるチーム。

元阪急ブレーブスの名外野手だった福本豊氏が現役時代、同市にある医療施設の訪問を重ねていたことがきっかけでチームを結成。さらに身体障がい者野球という競技が誕生した。

神戸は春の選抜大会優勝は歴代最多の18回を誇り、19年以来の優勝を目指し決勝戦へと臨んだ。

7年ぶりの王座を目指し、決勝の舞台に立った神戸コスモス

「全員野球」で4年ぶりの王座奪還

試合は序盤から名古屋が主導権を握った。2回に3点を先制し、以降は前回の世界大会で世界一に貢献した藤川泰行が130km/hにも迫るストレートを中心に神戸打線を抑え込み、4回までスコアボードに0を並べた。

両チーム共に1点を追加し名古屋が3点リードで迎えた最終回、最後まで諦めなかった神戸が反撃に出た。藤川を攻め立て、2アウトながら満塁の場面で田畑耕平が右前に運び1点差へと詰め寄り、なおも一・三塁と長打が出れば逆転サヨナラとチャンスは続く。

しかし、藤川が踏ん張り次打者を遊ゴロに抑えゲームセット。名古屋が4年ぶりの優勝を決め、マウンド上に歓喜の輪ができた。

日本の左のエースである藤川泰行

「本当に全員で勝ち取った試合だったと思います」

試合後、名古屋の中西忠監督は安堵の表情を浮かべながら熱戦を振り返った。

今回の優勝の背景には、チームが抱えていたある課題の克服があった。「今まででしたら、最終回のような場面では逆転されていました」と語った中西監督は、その課題について以下のように明かす。

「エラーやミスが続くと引きずってしまい、だんだん気持ちが下がっていってしまう。それが課題だったんです」

この課題を打破するため、チームはメンタル面のトレーニングを強化。技術を磨くだけではなく、試合中のいかなる局面でもベンチやグラウンドから声を出し、叱咤や激励で互いの気持ちを盛り上げるように努めた。

「途中で負けていたら、声が出なくなるんですよね。我々の全員野球というのは、声を出し合うことが最大の力だと考えているので、そこをみんなで徹底しました」

チームの課題を明確にし、克服へと導いた

スタンドにも響く声が力となり、土壇場でも逆転を許さない強固な壁となった。全国大会での決勝戦という極限のプレッシャーの中で、チーム全員で課題を克服してみせた。

また中西監督が「今年は新生名古屋なんですよ」と語るように、今季はチームにとって大きな転換期でもあった。

長年チームを率いた荻巣守正監督からその座を引き継ぎ、それまで自身が務めた主将も代表経験がある飼沼寛之へと渡す。そして副キャプテンを1人から2人体制へと強化した。

日本を代表する強豪チームの指揮官を担うことになった中西監督。チームを率いるプレッシャーも小さくはなかった。

「もうドキドキですよ。試合中なんて最後は特に。ただ、自分なりに考えたことを取り入れたりして采配を振るっていました」

指揮官はすでに秋の「全日本身体障害者野球選手権大会」を見据えている。

春の選抜大会では直近6年で3度制覇しているが、意外にも秋の選手権ではまだ優勝経験がない。

「まずは中部東海を勝ち切って、秋にまた全国の強敵を倒して必ず優勝したいです」

春の次は秋の大会の制覇を目指す

「あえて厳しく」大舞台で発揮された強気の姿勢

打撃面で勝利に大きく貢献した一人が黒岩康祐。3回に1点を先制した直後の1アウト2塁、レフトの頭上を超えるタイムリーヒット。相手守備が乱れる間に自らも生還し、チームに貴重な追加点をもたらした。

これらの活躍が評価され敢闘賞を受賞した26歳の強打者は、「何も考えることなく、ただ気合いで打ってやろうという気持ちでした」と打席での心境を明かした。

知的障がいがある黒岩がチームの門を叩いたのは高校生の時。すでに在籍していた同級生からの誘いをきっかけに、身体障がい者野球の世界へ自らも飛び込む。

大舞台でもその打棒を発揮した黒岩康祐

若きポテンシャルはこの名門の環境で磨かれていた。自身でも「高校生の頃と比べると技術が格段に上がった」と感触を語っており、その一つが今大会も見せた長打力であった。

その過程については「コーチに教えてもらいながら、フォームを徹底的に修正していきました」と、自分の殻を破り貪欲に指導を吸収したことで打球の飛距離と確実性は向上した。

そして監督もチームの勝因に挙げていた「メンタルトレーニング」の成果もあったと語る。黒岩にとってメンタルトレーニングは単に心を落ち着かせるためのものではなく、グラウンドでの強気な姿勢を絶やさないために必要なツールだった。

「コーチ陣らが練習からあえて厳しく接してくださるんです。そこに気持ちで絶対に打ち負けないように食らいついていく。その繰り返しがあったからこそ今日も強気でプレーすることができました」

強い気持ちが活躍の要因となった

“新生名古屋”として生まれ変わり、周囲の環境や体制が激変したこのシーズンだが、黒岩は「次の優勝に向けて頑張るだけです」と冷静に前を見据えた。

“全員野球”で変革1年目のスタートを最高の形で切った名古屋ビクトリー。全国制覇をリスタートの1ページ目に堂々と刻んでみせた。

(了)

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