福島ユナイテッドFCが世界基準へ スポーツ界で広がる「サステナビリティ」という新たな価値
世界では国際大会やトップクラブを中心に、環境や社会・地域にどのような価値を残すのかという「サステナビリティ」が重要なテーマとなっている。
そしてそのスポーツが持つ大きな発信力を社会課題の解決へつなげようとする動きも加速している。
その潮流を象徴するキーワードの一つが「Sport Positive(スポーツポジティブ)」であり、日本でもJリーグが2025年4月に「Sport Positive Leagues」へアジアから初めて参画するなど、その考え方が広がり始めている。
その中で福島ユナイテッドFCは、イベントの持続可能性に関する国際規格「ISO 20121」の認証を取得。そこにはスポーツを通じて地域や社会をより良い方向へ動かしていこうとする、新たなクラブ経営の姿があった。
今回、そのISO 20121をはじめとする国際規格の認証を手掛けるBSIグループジャパンに、スポーツ界で進むサステナビリティの現在地とその先に描く未来について話を聞いた。
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:BSIジャパン・福島ユナイテッドFC)
スポーツの価値を「勝敗」とは異なる軸で測る
BSI(British Standards Institution:英国規格協会)は125年以上の歴史を持つ国家標準化機関であり、規格の原案策定から認証・研修などを通じて世界各国の組織を支えてきた。
そのBSIが深く関わってきた規格の一つが「ISO 20121」。スポーツイベントやクラブ運営などで環境や社会、経済への影響を考慮し、持続可能なイベントマネジメントを実現するための国際規格である。
現在スポーツ界ではCO₂排出量の削減や再生可能エネルギーの活用、廃棄物管理やプラスチック削減だけでなく、ダイバーシティ・地域社会との関係、さらには調達やサプライチェーンにまで視点が広がっている。
BSIグループジャパン認証事業本部長の泉佳夫氏は、スポーツの評価軸そのものが変化していると説明する。
「もちろん勝ち負けはファンにとって楽しみですし、選手にとっても重要な要素です。ただ最近はそことは違う軸として、社会や環境にどのような影響があるのか・イベントが終わった後にどんな波及効果を残すのかまで含め、サステナビリティに配慮したスポーツイベントであることが評価される時代になってきています」

この言葉を表したのが、「Sport Positive」である。Sport Positiveとは、「スポーツが社会に与える巨大な影響力を活用し、気候変動や生物多様性・持続可能な社会の実現に向けて積極的な変化を生み出す」という考え方。
従来の環境対策では会場でゴミを分別する・使用するエネルギーを減らすといった「スポーツによる環境負荷を減らす」ことが中心だった。
しかし現在はイベントそのものだけでなく、サプライヤーや地域住民など関係する全ての人々と連携し、社会課題の解決や持続可能なライフスタイルの普及へとつなげることを求められるようになっている。
「イベントの開催期間だけ環境負荷を減らすのではなく、終わった後やサプライヤーさんも含めて一緒に取り組んでいく。
イベントに参加した人たちが、そこで得たものをまた第三者へ広げていくような輪も含めて、スポーツが持つ影響力や価値を違う角度から評価する時代になっています」
Jリーグがアジアで初めて参画
スポーツとサステナビリティの融合は、すでに世界的な潮流となっている。
オリンピックをはじめ、FIBA(国際バスケットボール連盟)やF1などでも持続可能な運営が重視され、サッカー界ではFIFAが2026年大会においてサステナビリティ戦略を推進。
環境や社会、経済の価値創出を目指した取り組みが進んでいる。
日本でもその流れは加速している。Jリーグは2025年4月、スポーツ界の気候変動対策を推進する国際的な取り組み「Sport Positive Leagues」へアジアから初めて参画。
気候変動対策に関する12の指標で評価され、ランキング形式で活動が可視化されている。「サステナビリティ」の観点からもクラブ同士がより良い取り組みを競う仕組みが構築された。

なお、日本サッカー協会も今年4月にUEFAとのサステナビリティ領域における協力議定書締結を発表している。
興味深いのはサステナビリティでも各クラブが競いながら、実際は同じ目的へ向かう仲間にもなれる点だ。
「チームの強さや技術レベルでは同じラインにいなくても、サステナビリティという視点では一緒にいい社会をつくっていけます。そこで交流や協力が進んでいくことも、スポーツらしい部分だと思います」
ピッチ上の順位とは異なる、新たな“競争力”がスポーツ界に生まれようとしている。
福島ユナイテッドFCが世界基準の認証を取得
日本でその先頭を走るクラブの一つが、福島ユナイテッドFCである。
福島ユナイテッドFCは、2026年6月に持続可能なイベント運営に関する国際規格「ISO 20121:2024」の認証を日本のプロスポーツクラブでは初めて取得した。
認証に当たってはBSIがクラブを選定したわけではなく、福島ユナイテッドFC側からBSIへ問い合わせがあり、取得に向けた取り組みがスタートした。
BSIジャパンの石上博人氏は、クラブにとって国際規格を活用する意義をこのように語る。
「リバプールのようなクラブと試合で同じ立場になるのは簡単ではないかもしれませんが、サステナブルな運営では同じ世界基準のISO 20121に沿って活動していることになります。福島さんも『ここでは肩を並べましたね』と喜んでおられました」

規模やカテゴリーが違っても、共通する国際基準の上では同じ土俵に立つことができる。それだけではなく、地域住民やファン・スポンサーなど、クラブを支えるステークホルダーへ自らの姿勢を明確に示せる点も大きな意味を持つ。
ISO 20121取得までのプロセスとしては、まずクラブ自身が方針や目標を設定し、それを実行するマネジメントシステムを構築する。
その後、内部監査やマネジメントレビューを経て、BSIが文書審査と現地審査を行い、実際のイベントが定めた仕組みに沿って運営されているかを確認。
福島ユナイテッドFCではサステナビリティに精通した人材がいたこともあり、審査が始まってから約3カ月で認証取得へ辿り着く。
石上氏自身も試合会場を訪れ、運営の様子を確認した。
「試合を見に来る方の目的はもちろんサッカー観戦ですから、直接『サステナビリティを学びに来た』というわけではありません。
ただ会場では分別の仕方やさまざまな言語での案内などがあり、そこで何かを感じた一人が、それをさらに横へ広げていく。それもスポーツポジティブなのだと思いました」
さらに石上氏が印象に残ったと語るのが、クラブと地域との関係性だった。
福島という地域でスポーツを通じて人の流れを生み出し、行政や企業とも連携しながら街の魅力につなげていく。その中でサステナビリティを一つの共通言語として活用している姿に、「非常に素晴らしい取り組みだと感じました」と話す。
認証取得はスポーツの影響力を社会へのスタート地点
ISO 20121は、認証を取得すれば終わりではない。
取得後は原則として年1回の維持審査が行われ、3年目には再認証審査を受ける。重要なのは一度完成された仕組みを守り続けることではなく、課題を見つけ、その改善を継続していくことにある。
「一回やってダメだったからNGというわけではありません。ダメだったところをどう改善するのか、その考え方が重要です。本当に改善したのかを翌年また確認する。認証を取ること以上に、それを維持していくことが大切になります」

その仕組みは決して世界的な大企業やビッグクラブだけのものではない。
ISOの規格は組織の規模や地域によって取得の可否が決まるものではなく、泉氏も「地域的な格差は認証という側面では存在しない」と説明する。福島ユナイテッドFCの事例は、地方クラブや小規模なスポーツ団体にも一つの可能性を示したと言えるだろう。
そしてスポーツ界が取り組むからこそ、その影響力はさらに大きくなる。
泉氏は「スポーツは小さな子どもから高齢者まで幅広い人が見るもの」とした上で、勝敗だけではない価値観に触れる機会をスポーツが生み出すことに期待を寄せる。
「勝ち負けだけを追いかけるのではなく、それを取り巻くステークホルダーとの関係も重要です。そうした考え方を小さい頃から見聞きできる場があれば、そこから自然に水平展開されていくのではないでしょうか」
スポーツを見て、自らも参加する。その日常の中に環境や地域・社会について考えるきっかけが組み込まれていけば、スポーツが生み出す価値は競技場の中だけにはとどまらない。
世界のトップクラブから地域に根差したクラブまで、規模や競技レベルを越えて同じテーマに向き合うことができる「サステナビリティ」。
福島ユナイテッドFCが踏み出した一歩は、日本のスポーツが勝敗の先にどのような価値を残していくのか、その新たな可能性を示している。
(了)

