サンロッカーズ渋谷 「S-Ring」プロジェクト 社会貢献活動を通じて醸成する『応援されるクラブ』へ

Bリーグ・サンロッカーズ渋谷は昨年9月、社会貢献活動「S-Ring」プロジェクトを始動させた。

「S」は”SUNROCKES”と”SOCIAL”を、「Ring」は”輪”と”バスケットゴール”を意味する同プロジェクトは、渋谷区を中心に地域に根ざした活動を行っている。

その活動の内容や意義について、今回は地域担当全般を担っている株式会社サンロッカーズの西村僚太さんに話を伺った。

(取材 / 文:白石怜平 表紙写真:©SUNROCKERS)

既存の活動をリニューアルし、昨年9月に発足

「S-Ring」とは、サンロッカーズ渋谷が展開している社会貢献プロジェクト。

「社会を一つの輪に。」をコンセプトに、クラブに関わる全てのステークホルダーと手を取り合いながら、より良い社会の実現を目指してSDGs活動を続けている。

現在取り組んでいる主なSDGs目標(S-RIng公式サイトより)

S-Ringの内容としては主に自治体・地域活動とクラブ独自の活動の2つ。

前者では小中学校や育児施設を訪問してのバスケットボール教室開催や、区や商店会が主催する催しなどに参加し、賑わいを創出している。

クラブ独自の活動としては、ホームゲームへの招待や選手着用ユニフォームのチャリティーオークション開催など多岐に渡る。

ホームゲームのハーフタイムショーでは地域団体のパフォーマンス披露もある(©SUNROCKERS)

S-Ringが発足したのは昨年の9月。2026年よりスタートするリーグの新制度「B.LEAGUE PREMIER(Bプレミア)」への参入を目指すことをきっかけに、クラブの革新の1つとして誕生した。

これまでも地域に根ざした活動を行っていたが、さらに強化・発展を目指してリニューアルさせた。

「プロスポーツクラブでしかできないことや、やっていかなければならないことがもっとあるのではないかと。

社会貢献活動は地域や子どもたちのためなどといった側面もありますが、同時にクラブの価値も高めてくれるものだと考えています。

ファンのみなさまにとっても応援したくなる一つの要素になると思うので、活動を続けた結果『応援されるクラブ』につながっていくという思想のもと誕生しました」

S-Ring発足の背景を語った西村さん

選手も参加し、社会課題にアプローチしている

「S-Ring」には選手たちも積極的に参加している。

学校の授業へと足を運んだり、全校生徒たちに向けた職業講話を行ったりした。シーズン中であっても選手たちは練習などの合間を縫って訪問しており、西村さんも、今後の活動において希望を感じているという。

「講演の後に選手に話を聞くと、『もっとコミュニケーションを取る時間が欲しかった』・『もっとここを伝えたかった』などと、前向きな姿勢を感じました。

あとは『他にも参加できるようなイベントがあったら、声をかけてください』と言ってもらえたので、私自身としても明るい兆しを持って今後より良い活動ができると思っています」

ジョシュ・ホーキンソン選手、大森康瑛選手も積極性を育むためのメッセージを送った(©SUNROCKERS)

「S-Ring」は地域の持つ課題にアプローチし、サンロッカーズを通じて解決することを目指している。西村さんは渋谷区の子どもたちが持つある課題から、クラブとしてアプローチしている例を挙げた。

「渋谷区内の小学生の遠投記録が、東京の中でも下位にあると以前渋谷区の小学校の先生方から伺いました。サンロッカーズでは同じ球技ということから、まず先生に”教え方を教える”。という機会をいただきまして、ユースコーチが渋谷区内各小学校の体育の先生にレクチャーを行いました」

遠投に限らず、子どもたちの運動能力低下について地域関係者から耳にしているという西村さん。これらの課題をバスケットボールや様々なコンテンツを通じて解決したい。そんな構想をプロジェクトで描いている。

「我々はバスケ教室だけにとどまらず、反射能力やリズム感向上も視野に入れて内容を組み立てています。社会課題の解決をサンロッカーズで実現する。そういう形になるよう考えて日々取り組んでいます」

チーム専属チア「サンロッカーガールズ」によるダンス教室も行われている(©SUNROCKERS)

「S-Ring」から何か一歩を踏み出すきっかけに

渋谷区を中心に浸透しつつある「S-Ring」。現在は世田谷区や港区など近隣の区にも展開している。

西村さんは、自身がやりがいを感じられたエピソードを明かしてくれた。

「地域イベントでフリースロー体験で遊んでくれた子どもさんが、半年後くらいにまた来てくれたんです。

そしたら、親御さんが私に『前のイベントで体験したのがきっかけでバスケを好きになって、家でずっとゴールで遊んでるんです』という話をしてくれました。

S-Ringがきっかけでバスケを始める子がいるんだというのをリアルに感じて嬉しかったです」

地域イベントではフリースローゲームが子どもたちに大人気となっている(©SUNROCKERS)

バスケットボールを好きになっただけではなく、サンロッカーズが身近にあることで、子どもたちの成長に寄与した例もあったという。

「最初内気なタイプだった子が、サンロッカーズをきっかけに外に出て友達とコミュニケーションを取れるようになってくれたそうなんです。

それも親御さんから直接お話をいただきまして、夏休みの自由研究もサンロッカーズについて調べたり、イベントも行ける日は極力足を運んでくださったりというのがあるので、こういう活動をやっていて良かったと思いましたね」

元野球選手だからこそ分かる”応援の力”

西村さんはクラブの先頭に立ってS-Ringを推し進めてきた。地域の方々の温かみを感じながら、今も各所との連携を深めている。そんな西村さんは、S-Ringを通じて創り上げたいクラブの姿があった。

「私がこの活動を通じて抱いているのは、月並みかもしれませんが、『地域の皆さんに応援したいと思ってもらえるクラブになる』ことです。

社会人野球時代の経験が礎としてあるのですが、何のために自分たちがスポーツをやっていて、勝ってればそれでいいのかと。じゃあ負けてたら、活動の意味がないのかとなった時にそんなことないわけですよね。

応援する1つの要素として、『サンロッカーズは、地域のために活動してくれているから』という点に行き着くといいなと思っています」

実は西村さんは、かつてサンロッカーズの運営母体である「セガサミー野球部」の一員として活躍し、社会人野球の最高峰である都市対抗野球にも出場した実績を持つ。

「その時に会社を挙げて、自分を応援してくれた経験が今に活きているんです」と語り、今につながるルーツとなっている。

「当時の経験が現在の活動の原動力になっている部分が多くあります。S-Ringを何のためにやっているのかを、思い起こす時があるのですが、その時は自分の経験を思い出すと、その大切さを自然と再認識できるんです」

かつて社会人野球選手として活躍した西村さん(本人提供)

元アスリートとして大観衆の応援を背にプレーしてきたからこそ、そのパワーを肌で知っていた。最後に、自身が描く今後の展望を語った。

「応援してくださる人たちがいるからこそチームが成り立っているので、その感謝はこれからもずっと忘れずに持ち続けなければならないです。

チームとして選手はコートで勝利を目指し、我々は日々S-Ringを通じてクラブの価値を高めていく。こうやって選手と地域とも一体になって良い関係性や循環をつくっていければと考えています」

今サンロッカーズが構築している一つの輪は、着実に広がりを見せている。その輪はバスケットボールとともに、地域社会の発展にも欠かせない存在へとなっていく。

(おわり)

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