「スラダン、キングス、W杯…」熱過ぎる沖縄バスケの現在

沖縄のバスケットボール(以下バスケ)が盛り上がっている。

大ヒット映画「スラムダンク」では重要な場所として描かれた。B.LEAGUE・琉球ゴールデンキングス(キングス)は悲願のリーグ制覇。そして、この夏はFIBAバスケットボールワールドカップ2023(バスケW杯)が開催される。

現地発のバスケメディア「OUTNUMBER」編集長・湧川太陽氏に沖縄の現在を聞いた。

ミニバスからプロまで、バスケは沖縄にある日常の風景だ。

~バスケ競技者人口比全国1位の沖縄

「町中にバスケW杯の広告やラッピングが溢れ、『大きな大会があるんでしょ?』という感じで認知度は高まっています。詳細は知らなくても大会自体に関しては、沖縄全体の半分以上の人は知っているのではないでしょうか」

バスケW杯は8月25日から9月10日まで、フィリピン、インドネシア、日本(日本会場は沖縄アリーナ)で開催される。32チームが参加、16日間で92試合が行われ世界一が決定する。

沖縄のバスケ熱の高さは有名だ。米軍基地があることもあり米国のスポーツや文化が当たり前のように浸透している。また町中の至る場所にバスケゴールが設置されており、ボールを突くダムダム音が聞こえてくる。

「バスケ競技者人口が人口比で全国1位、県民の1%がプレーしていると言われています。子供の頃からバスケが身近にあるのが当然で、家のすぐ近くの公園でボールを突くことができる環境です。その延長線上にミニバス(小学生対象のミニバスケットボール)がある感じです」

沖縄の至る場所でワールドカップの告知、広告を見かけるようになった。

~スラムダンクには町の風景、シングルマザーなど沖縄の日常があった

バスケが日常の沖縄にとって強い追い風が吹く年になっている。最初は昨年末12月3日に映画「スラムダンク」が公開されたことだった。大人気漫画、アニメの映画化は国内のみならず世界的大ヒットを生み出した。

「重要な舞台として描かれたことが、誇らしくて嬉しかった。作者・井上雄彦先生のようなバスケを愛している方が、沖縄のことも同様に大事にしてくれた。バスケ好きでなくても、沖縄人の心に刺さったと思います」

沖縄は主人公・宮城リョータの生まれ育った場所。バスケとの出会い、少年時代の様々な葛藤など、重要な時間を過ごした土地として描かれている。

「我々にも自然な沖縄を感じさせてくれた。こういう風景あるよね、と思えました。リョータが海岸近くのゴールでプレーしているのも日常です。多くの大人たちが見守る中でミニバスをしているのもそうでした」

「リョータが片親(シングルマザー)で日々の生活を必死で生きている様子も沖縄では珍しくない光景です。そういう日の当たらない、日陰の部分の現実もしっかりと描かれていました。井上先生のリアリティに対する強い思い、作り込みの丁寧さにも感動しました」

琉球ゴールデンキングスの存在は沖縄にとって大きなものだ。

~那覇空港の風景は欧米のフランチャイズのようだった

5月のB.LEAGUEチャンピオンシップファイナルにおいて、キングスが優勝を飾ったのも大きな出来事だった。今季3冠を狙った強豪・千葉ジェッツを下しての戴冠は大きな話題となった。

「沖縄中が喜びました。これまでも準決勝までは行っても、その先が遠かった。優勝してチームが那覇空港に帰ってきた際の盛り上がりが凄かったです。その後もずっと話題になっていましたし、優勝パレードも素晴らしかったです」

「欧米のプロスポーツでは、地元チームが優勝して凱旋すると人が大勢集まります。沖縄空港はそんな感じがしました。その後の優勝パレード、報告会にも本当に多くの人が集まりたくさんの笑顔が溢れていたのが印象的でした」

「プロスポーツが根付きにくい」とされた沖縄で、キングスは確固たる存在になり始めている。バスケをプレーする若年層にとっても、将来の明確な目標となるプロチームができたことは大きかった。

「以前の沖縄では一番上のカテゴリーが高校で、そこのトップ選手が関東や関西へ進学して続ける感じでした。今はキングスという目標があります。実際に岸本隆一は中学生の時からそこを目標にしたのは有名です」

告知看板や各種ラッピングを「シティドレッシング」と呼び、町の娯楽としても楽しんでいる。

~楽しんで盛り上がるのが沖縄のノリ

8月25日からはバスケ界世界最高峰の戦いが行われる。キングス戦でも感じるが、沖縄で行われるバスケの試合はアリーナ内が信じられないほど盛り上がる。心底楽しめる環境があり、W杯はこれまで以上になることは必至だ。

「天皇杯準決勝では沖縄アリーナ最多(当時)の8,503人が集まりました。キングスを応援するのはもちろん、対戦相手の横浜ビー・コルセーズは河村勇輝というスターもいる強豪。面白い試合を観たい、という期待感から来る熱気が素晴らしい雰囲気を作り出しました」

「沖縄の文化、風土だと思います。チームの勝利はもちろんだが、楽しみたい、盛り上がりたいというのがあります。また相手チームでもリスペクトできます。良いプレーには拍手をして指笛を鳴らす。W杯の沖縄開催は20試合で日本戦は5試合のみですが、残りの15試合も十分に楽しめると思います」

戦前に首里城でバスケが行われていたことがわかった。

~首里城の火災で明らかになった沖縄バスケの長い歴史

W杯が近付く中で、「OUTNUMBER」を含めた地元メディアも動いた。情報を共有、迅速に発信することがホスピタリティにつながる。テレビ、ラジオ、新聞といった垣根を超えてのメディアスクラムを組むことから始めた。

「バスケットボール・ジャーナリズム・ミーティング(BJM)と題し、今年の2月から首里に集まって情報交換をしています。情報を共有して複数メディアが取り上げることで、多くの人たちの目に付きます。沖縄のバスケが盛り上がって欲しい、という強い気持ちがあります」

「沖縄バスケのルーツは首里城で行われており戦前の118年前から行われていた」という事実が見つかった。「OUTNUMBER」が掘り下げて得た情報をBJMで共有、各メディアで発信したところ大きな反響を得ることができた。

「首里城が火災になりNHKで特集番組が組まれました。戦前に首里城は学校として使われていた、という部分の写真にバスケットゴールが写っていた。情報を得て沖縄県立芸術大の張本文昭先生に話を持ちかけ、沖縄バスケのルーツを探求する活動が始まりました。」

「BJMで発表するとテレビ、ラジオ、新聞各社が特集を組んでくれました。沖縄のバスケ関係者でも知られていない事実で、県のバスケ協会関係者からも『知らなかった、ありがとう』とお礼を言われたほどでした」

バスケットボール・ジャーナリズム・ミーティングは、会社や媒体の垣根を超えて情報共有をしている。

~戦前からバスケに情熱を捧げていた人々がいた

W杯へ向けて「沖縄バスケ100年祭」も計画している。8月23日(水)から9月3日(日)、モノレール・首里駅から首里テラスまでが会場となり、沖縄文化とバスケを体感できるようなイベントだ。

「張本先生と地元の首里高校と一緒に100年前のボールとゴールを復元、会場で展示したいなと思っています。焼失した首里城本殿の手前の方に広場があるので、そこを借りられるようにお願いしています」

「町を歩きながら沖縄やバスケの歴史を感じるようなウォーキング・イベントも考えています。W杯の試合は午後開催なので、その前に首里に足を運んで沖縄のバスケにも触れて欲しいです」

戦前からの長い歴史が沖縄のバスケを支えている。首里城の火災で明らかになったことを、多くの人に知ってもらいたい思いが強い。「シビックプライド」自分たちの町への誇りがある。

「米軍基地があるからバスケが盛り上がる、というイメージがあります。僕たちもそう思っていた部分もありました。もちろん米軍の影響もあったでしょうが、戦前にも沖縄バスケのルーツがすでに存在していたことも理由だと知りました。戦前からバスケに情熱を捧げていた人がいたことを知ってもらいたいです」

W杯に合わせて「沖縄バスケ100年祭」を計画している。

~大好きなバスケを通じて沖縄に何かをしたい

キングスは「沖縄をもっと元気に」を掲げ活動している。「OUTNUMBER」など沖縄のバスケ関係者も同様の思いを抱いており、W杯は大きな機会だと捉えている。

「大好きなバスケを通じて沖縄に何ができるかを考えています。W杯を契機に少しでも沖縄のバスケを盛り上げたい。良い風が吹いているので、それに乗ってどんどん進んで行ければ良いですね」

「子供たちには世界大会の熱を感じて欲しい。沖縄県が主導で小中学生1万人をW杯に招待するのは素晴らしい試みだと思います。その中から将来のキングスや日本代表選手、またその他の競技でも素晴らしい選手が生まれる可能性もあるはずです」

「I was there」(私はそこにいたんだ)。

子供たちが大人になった時、思い出を語り合う日が必ず来るはず。その時には沖縄のバスケがさらに進化して大変な盛り上がりを見せているだろう。まもなくやって来る、FIBAバスケットボールワールドカップ2023が待ちきれない。

「OUTNUMBER」https://outnumber.online

~プロからミニバスまで、沖縄バスケットボールの魅力を現地から発信。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・OUTNUMBER)

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