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大阪公立大学男子ラクロス部「全試合で最後まで勝ちにこだわるプレーをする」

大阪公立大学男子ラクロス部は「公立大」という特性上、プレー環境はそこまで恵まれていない。大学から競技を始めた選手ばかりで、昨季は3部降格も経験した。しかし一方では、世代別の日本代表候補も生み出している。多様性の時代に即した、実に興味深いチームである。

「全てのプレーに執念を持ち、勝利を目指して戦い続ける」ことを大事にする(白:大阪公立大)。

ラクロスの話題を目にする機会が増えている。以前から一部では人気を得ていた同競技だが、2028年ロサンゼルス五輪正式種目となったことで脚光を浴び始めた。

追い風が吹きつつある中、紆余曲折の真っ只中にいるのが大阪公立大学ラクロス部。関西ラクロスリーグ戦で2部から1部昇格を狙った昨季だったが、波に乗れず3部降格という屈辱を味わった。

3部降格という現実をしっかり受け止め、チーム改革に取り組む。

~4年生でラクロスを続ける意味を残したい(主将・勢渡一正)

「『ラクロスを続ける意味がないので辞めようかな』と口にしたこともあった」と振り返ってくれたのは、3部降格後に主将に就任した勢渡一正(セドカズマサ/4年)。

「勝ち続けても僕らが4年生時の1部昇格はない。3部降格決定の瞬間は何が起きたか理解できないくらい。僕らの代は強い学年として期待されていたので、1部という明確な目標がなくなったことがショックでした」

「同級生でミーティングを重ね、『チームに何かを残す』という目標を定めることができた。『強い後輩、強いラクロス部を作ることが、僕らが最後にできること』という覚悟が決まりました」

大阪府立三国ヶ丘高時代は生徒会長を務めるなど、キャプテンシーを備えた人物。1年生時から「回生リーダー(各学年主将)」を任されており、自らの意思で大役を引き受けた。

「3部降格は自分たちの責任も大きい。2部に上げて卒業したいので、『主将をやる』と言いました。個性派揃いのチームのベクトルを、同じ方向へ向けることを考えています。自分自身も変えないといけないと思いました」

「以前は周囲のプレーや取り組み方に対しガンガン指摘したり、噛み付いたりしていた。主将がそうだと雰囲気が悪くなるので、責める言い方ではなくプラス面を指摘するように努めています」

「常に多くのストレスを感じる」と笑うが、周囲からは「丸くなった」と褒められるなど、確実に変化は生まれている。

写真左から、河口朝輝(カワグチアサヒ/3年)と主将・勢渡一正(セドカズマサ/4年)。

~1部まで駆け上がるための熱量を作り出す(河口朝輝)

「学業とラクロスの両立は本当にタフですが、関西ユースやU-20日本代表の活動が気持ちを支えてくれています」と説明してくれたのは河口朝輝(カワグチアサヒ/3年)。

「僕が通う医学部の羽曳野キャンパスと練習場のある杉本キャンパスは少し距離がある。2年生の間は平日練習は週1回だけしか行けなかったので、気持ちが切れないように努めていました」

同部は平日3回(月、水、木)と週末(土、日)に練習を行なう。平日は朝7時に全部員が集まり個々の授業日程等で抜けていく形。しかし、河口は学業が多忙で参加もままならず、普段は自主練習に頼らざるを得なかった。

「高校時代(大阪・八尾高)は野球部で投手をやっていて身体能力には自信があります。2年生の春、『自分もできる』と思い参加した選抜チームに選ばれた。高いレベルで刺激を受けることができています」

「8月のU-20W杯(韓国)への出場を目指しています。もっと上手くなりたい、勝ちたいという気持ちにさせてくれる場所です。そういう思いを大学にも持ち帰って、結果に繋げたいと感じています」

「医学部の実習があった時期は3週間、練習が全くできなかった」というが、向上心が萎えることはない。食生活を見直し、自転車移動を徒歩にするなど、日常生活での時間を有効活用してコンディションを整える。

「勝ち進めば自分たちが4年生で1部昇格が可能です。そのためにも部員全員が熱量を持つ必要がありますが、個々で意識の差があるのが不安で不満がある。自分自身がしっかりプレーして、影響力を高めていければと思います」

「上手くなりたい、勝ちたい」という熱量を高めることでチームは強くなるはずだ(白:大阪公立大)。

~本気で競技をするにはお金が必要なのは仕方ないが…

「『学業やアルバイトとの兼ね合い」という言い訳を無くしたいのですが…」と主将・勢渡は現実問題にも頭を悩ませる。

スポーツ強豪大や私立大と異なり、十分な補助金や寄付金等を期待できない。部活動継続のためにはアルバイトが必須だ。

「退部する選手の理由はそこです。僕も時間の融通が効くバイトしているのですが、練習後に働く日は睡眠時間が5時間程度になる。そういった選手は多く、コンディション維持が大変なのもわかるのですが…」(主将・勢渡)

部費、遠征費等は全て自己負担のため、年間30万円程度は必要。新入生が加わる前の段階で37人の部員中36名が何らかの形でアルバイトをしている。

「野球をやっていたので多少の免疫はありますが、用具代の負担は大きい。今季はレギュレーション変更でヘルメットを買い替えないといけない選手もいます。誰もが苦しい思いをしているはずです」(河口)

「本気で競技するためには多少のお金もかかるのは仕方ないですが…」と付け加える河口だが、自身も時間を捻出して家庭教師のアルバイトを行なう。

「公立大なのでプレー環境や活動費で苦労するのはわかっていたわけですから…」と主将・勢渡は呟く。しかし、ヘルメットは1セット約5.5万円もするので決して安いものではない。他にもクロス(スティック)本体が約3万円、定期的に交換するメッシュ(網)が約6千円。プロテクター関連(グローブやショルダーなど)が約6万円ほどかかるなど、部員への大きな負担となっている。

ヘルメットなどの用具代や遠征費をアルバイトで負担しながら、部員たちはラクロスに全力を注ぐ。

~言い訳をせず、全てのプレーに執念を持つ

「言い訳を始めたらキリがないですから」と主将・勢渡、河口の2人は口を揃える。今の環境は自分たちで選んだものであり、受け入れるしかない。部員たちは腹を括り、新たなシーズンに向けて歩み始めている。

「今まではリーグ戦の勝ち点を計算するなど、打算的にプレーしていた。そうではなく全ての試合、プレーに執念を持って挑みたい。精神論になってしまうかもしれないですが最も大事な部分。全部の試合を勝ちに行きたい」(主将・勢渡)

「チームの勝利と同時に、個人的に3つの目標がある。3部の最優秀選手、ロングのポジションにおける関西ナンバーワン選手、大阪公立大の中心選手と誰からも認められる。そこまでの存在感を発揮できれば、チームの結果にも繋がると信じています」(河口)

まもなく新入生も入ってくる。「部内で当たり前だった悪い慣習等が伝統にならないよう、今年1年は本当に大事」(河口)と自身が4年生になって以降の部内も見据えている。

「4年生部員で3部リーグ・ベスト10を埋め尽くしたい。各自が相応の活躍ができれば、全部の試合を勝って現役を終えられる可能性も見えてくる。ラクロスをやって良かった、と思って現役引退したいです」(主将・勢渡)

2部昇格とその先へ向け、大阪公立大学男子ラクロス部は歩を進める。

学年や置かれた立場によって目先の目標や手段は異なる。しかしチームの勝利と2部再昇格が共通した思いであることは明白だ。

個性派揃いのチームのベクトルが、少しずつ同じ方向を向き始めている。大阪公立大学男子ラクロス部の2025年は明るいものになりそうな強い予感がする。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・大阪公立大学男子ラクロス部)

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