サッカーの街・鹿嶋から全国を目指す ―　鹿島学園高等学校女子サッカー部

晝間（ひるま）健太監督インタビュー

冬の到来とともに、全日本高校サッカー選手権大会（以後、全日本選手権）の季節がやってきた。かつては男子サッカーの影に隠れがちだった女子の高校サッカーも、近年ではその存在感を着実に増している。

第34回全日本高等学校女子サッカー選手権大会は2025年12月29日（月）から2026年1月11日（日）にかけて、兵庫県内の各会場で開催される。決勝戦の舞台は神戸総合運動公園ユニバー記念競技場（収容人員4万5000人）だ。女子高校サッカーの頂点を競う冬の一大イベントである。

茨城県の鹿島学園高等学校女子サッカー部は、この大会に2年連続・5度目の出場を決めた。昨年はベスト16で敗退。今年はその悔しさを胸に、「ベスト４進出」を明確な目標に掲げる。

チームを率いる晝間（ひるま）健太監督に話を聞いた。

「３年間の共同生活で一生の友達ができます」

監督自身も同校男子サッカー部の出身である。現在は国語科教員として教壇に立ちながら女子チームを指導する31歳の若き指導者だ。千葉県市川市に生まれ、幼稚園からサッカーを始め、中学時代には全国ベスト8入りを経験。鹿島学園への進学を機に、サッカーの街・鹿嶋で3年間の寮生活を送った。「当時から将来は教員とサッカー指導者になりたいという思いがありました」と振り返る。

その夢をかなえるため、大学時代は社会人リーグでプレーを続けながら、母校中学で学生コーチを務めた。卒業後は鹿島学園に戻り、教員として勤務しつつ女子サッカー部の指導に携わるようになって7年。女子部創設15年の歴史のうち、半分近くを晝間監督が見守ってきたことになる。

鹿島学園は敷地内に学生寮があり、女子サッカー部員のほとんどが寮生活を送っている。38名の部員のうち、自宅通学は1名のみだ。

　「家族よりも長く一緒に過ごす仲間です。もちろん、そうした濃い人間関係にすぐには馴染めない生徒もいますが、助け合って生活することで、一生の友達ができると思います」と監督は言う。

女子は3人部屋が基本。部屋割りは監督が決める。基本は同学年同士だが、性格の相性を見て、先輩後輩が同室になることもあるため、日頃から生徒たちとの密なコミュニケーションを心がけている。

充実した練習環境

鹿島学園の強みのひとつに充実した施設が挙げられる。夜間照明付き人工芝サッカーコートが2面、さらに室内練習場もある。雨の日や寒さの厳しい季節も練習ができる。寮は校舎とグラウンドに隣接しており、外に出ることなく移動できる。サッカーに集中するためには申し分のない環境だ。

寮には門限こそあるが、外出は基本的に自由だ。しかし、周囲には出かけたくなるような商業施設は少ない。

「僕らが寮にいた頃は一番近いコンビニまで3、4キロはありました。 今は300メートルくらいのところにコンビニができてくれたので、 だいぶ便利にはなりましたね。 でもそのコンビニを越すと、6キロくらいは何もないです」と監督は笑う。 誘惑が少なく、サッカーに打ち込める環境であるとは言えるだろう。しかしながら、便利さに慣れた現代の子どもたちにとっては、飛び込む前に少なからずの勇気とモチベーションが必要になることは想像に難くない。

選抜の狭き門と「サッカーへの情熱と気概」

鹿島学園女子サッカー部のセレクションは年間を通じて随時開催される。希望者は練習に参加してもらい、その後で監督が本人と保護者と面談する形式だ。応募者は毎年100～120名にのぼるが、実際に入部できるのは12～13名ほど。およそ10倍の狭き門である。

サッカーの技術に加えて、監督が重要視するのは精神面だ。

「ここは周りに本当に何もないんですよ。 やはり女子高生なので、都会にいれば楽しいと思うんです。それなのに、わざわざ田舎の何もない環境、サッカーを頑張るしかない環境に来るからには、サッカーが上手というよりは、サッカーに情熱を持っていて、 上を目指そうという気概のある生徒じゃなければ、なかなか続けることは難しいです。 その第一歩が踏み出せそうだなと思える子をなるべく選ぶようにしています」

選手の出身は埼玉県、千葉県、東京都など関東近辺が多い。茨城県内の女子サッカー部は数が限られており、鹿島学園のように県外から人材が集まる学校は、地域全体の受け皿にもなっている。

鹿島学園には全国レベルの男子サッカー部もあり、男子はスポーツクラス所属のため授業が5限まで、放課後練習を早く始められる。一方、女子は一般クラスで6限まで授業を受けてからの練習となる。

チームとしての朝練はない。しかし、監督によると、多くの生徒が早朝から自主的に練習をしている姿が見られるそうだ。グラウンドに隣接した寮生活の強みでもある。監督は見守るだけで口出しはしない。

「ずいぶん朝早くから自分たちで考えて練習していますね。僕は散歩しながら遠くで見ているだけです。僕に気がついていない生徒も多いんじゃないですかね」と監督は笑う。それでも、監督自身も早朝から学校に来ているというわけだ。むろん、教員である監督も、生徒である選手も、その後には一日の授業が待っている。

放課後の練習は16時から約2時間半。週2回はその後に1時間ほどの筋力トレーニングがある。練習後は寮に戻って入浴、夕食、学習と続く。そして翌朝は登校前に自主練習が行われる。忙しい青春である。

「意外と言ってはいけないんでしょうけど、それだけ忙しくても、女子サッカー部は学業でも成績優秀な子が割と多いんです。昨年は1月の全国大会までチームに帯同して、それからセンター試験を受けて、早稲田大学に合格した子もいました」

卒業後、大学でもサッカーを継続するかどうかは半々くらいの比率だそうだ。部員全員の進路相談に乗るのも監督の重要な役割である。

チームの成熟と勝負の年

全日本選手権大会への抱負を尋ねると、晝間監督の口からは「今年は勝負の年」という言葉が出た。

昨シーズンのチームは1、2年生が中心で、スタメンに3年生はわずか3人しかいなかった。若いチームながらベスト16まで勝ち進んだが、あと一歩の壁を越えられなかった。

「昨年はとても悔しい思いをしました。あの経験をした選手たちが今のチームの主力です。1年間、本当によく頑張ってきました。その経験値と成熟度が我々の強みです」

高校サッカーは夏のインターハイと冬の全日本選手権が大きな舞台だ。すでに今夏のインターハイでは手応えのある結果を出している。

「インターハイの関東予選では茨城県として初優勝という形で、 本当にずっと欲しかった優勝を皆で勝ち取ることができました。全国レベルではベスト8で終わってしまったので、 やはりチーム全員がベスト8の壁というものをすごく意識しています。次の全日本選手権ではベスト4以上が目標です」

全日本選手権は、男子大会は100年以上の歴史をもつが、女子の同大会は今年でまだ34回目だ。過去優勝校は藤枝順心（静岡県）が8回、常盤木学園（宮城県）が5回と、この2校だけで3分の1を超える寡占状態だ。とくに藤枝順心は直近の3連覇を含め、過去10年で7回優勝と圧倒的な王者として君臨している。

しかし、今夏のインターハイでは、その藤枝順心が県予選で敗退するという波乱が起きた。あるいは高校女子サッカーの勢力図も変化のときを迎えているのかもしれない。創立15年と新しい鹿島学園にとってもまさにチャンスの年だ。

茨城県代表が高校女子サッカーで全国を制したことはかつてない。だが、鹿嶋といえばJリーグの人気チーム、鹿島アントラーズの存在が象徴的であり、この街の人々にとってサッカーは生活の一部である。その文化に育まれた鹿島学園が、いま女子サッカー界に新たな風を吹き込みつつある。

（取材／文・角谷剛、取材／写真／協力・晝間健太監督）