J3で奮闘するY.S.C.C.横浜 目指すは“日本一の育成型クラブ”

1993年に発足したJリーグも、2022シーズンで58クラブとなり、今後も新規参入を計画しているクラブは多い。

これまでJリーグは国内のスポーツ界に多くの変革をもたらしたが、その一つに育成組織の確立がある。Jリーグに所属するトップチームの下部組織として世代別のチームを設立し、クラブ内で人材を発掘・育成している。これはプロ野球やバスケットボール・Bリーグの模範となり、団体競技において部活動から切り離して競技に取り組む契機を作った。

その一方でクラブの規模やトップチームが所属するカテゴリーで環境の差があるのは事実だ。J1、J2とカテゴリーが上がるごとにクラブ規模は大きくなり、育成に充てる資金も増えるが逆に規模が小さく、カテゴリーは高くないものの、育成に特化し上位カテゴリーへ選手を送り出すクラブもある。

現在J3に所属している横浜スポーツ&カルチャークラブ(呼称:Y.S.C.C.横浜)は、「日本一の育成型クラブへ」を掲げ、環境整備をするべくクラウドファンディングをスタートさせた。

環境のハンデをコミュニケーションで補っている

門戸を広げ、様々なニーズに応えながら選手を育成

1986年に創立されたY.S.C.C.横浜は長らくJFL(アマチュアサッカー最高峰のリーグ)を主戦場としていたが、2014年にJ3に参入し昨シーズンにはJ2ライセンスを獲得。結果次第ではJ2に昇格する権利を得た。今シーズンは元日本代表の松井大輔選手が加わり、昨シーズンから所属しているフットサルチームとの“二刀流”も話題となっている。

Y.S.C.C.横浜の育成世代はトップチーム昇格を目指すセカンド、ユース(U-18)、ジュニアエキスパート(U-15、U-14、U-13)、アカデミー(U-12、U-10)、女子チームのコスモスと様々なカテゴリーがある。クラブとしては、トップチームの選手のうち3分の2を育成世代出身で構成することを大きな目標にしており、環境の整備に努めている最中だ。

アンダーカテゴリーの最上位となるU-18はクラブ発足年と同じく1986年に設立。部活動のほか、Jユースやクラブチームなど強豪が多い神奈川県において、4部相当のK4リーグで昨シーズン優勝。来シーズンはK3リーグを戦うことが決まっている。

そんなチームの監督に昨年3月に就任したのが29歳の田村大地氏だ。チームの特色について、「プロ選手を目指している選手はもちろん、中にはサッカーをする場所がなかった子もいます。そういった子たちがサッカーできる環境を作っていきたい」と田村監督は話すように、他のチームに比べて選手を受け入れる門戸は広い。昨シーズンは40名の選手が在籍していたが、中には高校卒業後に競技サッカーから離れる選手もいる。

目指すものや求めるニーズは多様だが、選手たちは「サッカーが好き」という思いでY.S.C.C.横浜U-18の門をたたく。だからこそ選手たちが最大限サッカーに打ち込める環境を整備しなければならないが、環境は決して恵まれているわけではない。

練習は火曜日、水曜日、金曜日に実施しており、週1日は人工芝で行えているが、残りの2回は土のグラウンドで、公立中学校の開放日を利用しているのだ。新型コロナウイルスの影響を受けることも多く、加えてスペースが狭く11人制の試合は行えない。

「指導者としては与えられた環境でやっていかなければいけないので、言い訳にはなりません」と田村監督は前置きした上で、「私立の高校は人工芝が当たり前になってきています。多くの選手をトップチームに輩出するというクラブの目標を達成するためには環境の整備は大事です」と環境の重要性を口にする。

そこで今回、人工芝で練習できる回数を増やすためクラウドファンディングを実施。

「一番は人工芝で練習ができる回数を増やすこと」と田村監督。加えて、「昨シーズンからメソッド部門のコーチを加えて、指導体制の強化を図っています。クラウドファンディングで資金が調達できれば、育成の違う部分にも力を入れられる。より良い指導ができます」と話す。

K3リーグ昇格を決めた選手たち

恵まれない環境だからこそ、アイデアでチームの質を向上

中学時からY.S.C.C.横浜に所属し、まさに生え抜き選手と言える竹田閑太選手は、昨シーズンU-18でキャプテンを務め、チームのK-3リーグ昇格に貢献。今春からは大学に進み、夢のJリーグ入りを目指している。

慣れ親しんだユースチームを竹田選手は「うまい選手がたくさんいるわけではありませんが向上心が高く、夢や目標をしっかり持っている選手が集まっています。団結力が他のチームよりあると思います」と評する。

その団結力はこの環境下で生み出されたもの。狭いピッチで選手間の距離が近いからこそ、密にコミュニケーションを取ることで強みを磨いてきた。

「練習時から意識を高く保ち、自分たちの環境を言い訳にしないようにしていました」と竹田選手。それは指導する側も同じで、「スペースが狭いとロングボールを蹴る機会を担保できないので、狭いコートでも11人制のコートで力を発揮できるようなトレーニングを組まないといけません。プレーの連続性を保てる内容にしています」と田村監督も工夫をしながら練習メニューの構築をしてきた。

新たなステージへ! 育成世代の土台を構築する

恵まれない環境ながら、こうして指導者、選手ともに技術の向上に対して意識を高く保ってきたY.S.C.C.横浜U-18。だからこそ練習環境を整えれば、さらに選手の成長が期待できる。

「本来であれば人数に応じたスペースがトレーニングには必要なので、そういう回数が増えればできることも変わり、練習のクォリティーは上がっていきます。選手たちには『この環境で頑張れ』と言っている以上、クラブも努力をしなければいけません」と今回のプロジェクトの発起人となった田村監督は言う。また竹田選手も「環境の整備ができればチームの質は向上します。選手のモチベーションも上がりますね」と効果を期待する。

今後クラブがJ2昇格を目指すには育成世代の育成・底上げは不可欠。また地域の人との初蹴りや野菜の栽培、販売を行うなどユースから地域ぐるみの活動に取り組んでおり、彼らの活躍はクラブだけではなく取り巻く関係者全ての悲願だ。育成世代からの底上げで、Y.S.C.C.横浜は新たなステージに踏み出していく。

環境改善を図り、こうした笑顔を見せる瞬間を増やしたい

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