「ジャンク5」が挑戦する社会課題へのアプローチ Baseball5を通じた「教育×スポーツ×企業」の3軸で新たな道を切り拓く
11月12日、金沢市の県立石川向陽高校でBaseball5の体験授業が行われた。
地元企業と高校そして特別支援学校が手を組み、ボール一つから共生社会が育まれる2時間となった。
(写真 / 文:白石怜平)
日本のBaseball5界に改革を呼び込む「ジャンク5」
今回の取り組みはBaseball5のフロントランナーである「ジャンク5」が中心となり実現した。
ジャンク5は現在世界80カ国以上で普及が進んでいる野球型アーバンスポーツ「Baseball5」のチームとして、国内では先駆けて2020年に発足。
その2年前に設立した一般社団法人「ジャンク野球団」の活動の一環として、ベースボール型スポーツの競技の普及・発展を進めている。
ジャンク5が先駆者たる大きな所以は、ただチームを強くするにとどまらず、競技を通じて数々のコミュニティを形成してきたことである。
強化においては、唯一の全国大会である「侍ジャパンチャレンジカップ Baseball5 第1回日本選手権」で初代チャンピオンに輝き、国際大会においては侍ジャパンBaseball5の代表選手としてチーム別最多の4名を輩出。
そしてチームの代表である若松健太さんは、その侍ジャパンBaseball5の代表監督として昨年はアジアチャンピオン・ワールドカップ世界2位へと導いた。

同時に社会貢献活動では若松さんが桜美林大の准教授であることから、Baseball5と教育をリンクさせ、未開拓の取り組みを形にしてきた。
その一つが特別支援学校を招待し、Baseball5を体験してもらっていること。1月に大学近隣の複数の特別支援学校を招待し開催して以降、特に5月は「甲子園夢プロジェクト」と連携して行われた。
そして、10月にはアーバンスポーツ界に新たな風を吹き込んだ。3人制バスケットボール3×3の「ADDELM ELEMENTS.EXE」と提携。
アーバンスポーツ同士が初のタッグを組み、互いの競技の魅力を活かしながら今後イベントなどが企画されるなど、新たな道を拓き続けている。

上述のように前例のない取り組みを数々実現させる中で、ジャンク5は一つ新たな理念が創られていった。それが「ベースボール型スポーツで『共生社会』を実現する」こと。
11月、その共生社会実現に向けてまた一歩踏み出す挑戦を行った。
「地域創生」に向けて地元企業と共創し実現
舞台は石川県金沢市。県立石川向陽高校と県立いしかわ特別支援学校の合同授業という形でBaseball5を体験する機会が設けられた。
今回は共生社会に加えて、「地方創生」が一つ大きなキーワードとなった。これらの社会課題にアプローチする点で大きな意義を持つ取り組みでもあり、合同授業の実現には地元企業の協力があった。
それが石川県を本社に置き、建築工事業などを展開している「コマニー株式会社」。同社では野球・ソフトボールのベースボール型スポーツを部として活動している。
特にソフトボール部では社会貢献に力を入れており、Baseball5の普及活動を県内中心に行うなど地域支援を継続してきた。
ジャンク5と同社は今年の始めにつながり、瞬く間に意気投合した。若松さんは最初のきっかけをこのように明かしてくれた。
「石川県に向けては震災復興という意味でも何かに貢献したいという想いをずっと持っていました。そんな中で、石川県スポーツデザイン研究所と数年前に知り合っていた関係で、コマニー(株)の海道正人さんをご紹介いただきました。
海道さんからは地域貢献などの取り組みで悩んでいると聞きました。悩みと向き合ってアイデアを考えたり、人に会いに行ったりなどと自分と共通している部分が多くあり、オンラインでの初対面からすごく意気投合しましたね。
海道さんのお人柄そして会社のフットワークの軽さに惹かれまして、その想いに応えたい・一緒に何か新しいことをやっていきたいと強く感じてました」

同社のソフトボール部として、競技そして社会貢献活動を牽引している海道さん。ジャンク5と一緒に取り組もうと考えた理由を熱く述べた。
「若松先生はいつもポジティブで、常識にとらわれずに新しいものを創り出すエネルギーの高さとともに、競技普及とチームメンバーの人間力向上を両立していることから視座が高いと感じ、一緒に何かしたいと考えてました。
そんな中、ジャンク5さんが行っている活動を伺ってまさに我々も目指すべきところだと感じたので、『素晴らしい“間づくり”をしたいんです』と、若松先生に依頼しました。
いしかわ特別支援学校さんと金沢向陽高校さんは、全国的にも珍しい“インクルーシブ教育”を実践されている学校ですので、両校にも相談して快諾をいただいた形です。
技術に関係なくスポーツを楽しむことは万人共通のものであり、活動を通して仲間と支え合うことの価値を生徒たちに伝わればという想いで企画しました」

“ボール一つ”でコートが笑顔と活気に溢れる
授業には2校で計16名の生徒が参加した。まず、若松さんからBaseball5の歴史や概要の紹介が行われた後、東翔紀選手がルールなどを解説。
東選手は上述の日本選手権優勝メンバーであり、24年の日本代表候補にも選ばれている実力者でもある。
「自分の手でボールを上げて打ちます。その時は高く上げすぎないようにすると上手く打てます」とポイントをシンプルに伝えた。
ここで、三上駿選手がお手本としてバッティングを披露すると、力強い打球音が壁に響き渡り、生徒たちから驚きの声も。
三上選手は侍ジャパンBaseball5代表として、若松さんが監督を務めた昨年のワールドカップでは準優勝に輝いたトッププレーヤーの一人。日本のみならず世界を代表する選手の技を間近で感じられる機会にもなった。


その後は両校の生徒をシャッフルしてキャッチボールを行い、ノーバウンド・ワンバウンドなど形式を変えながらコミュニケーションを重ねていく。
その際もジャンク5やコマニーソフトボール部のメンバーが積極的にアドバイスを送るなど、全員に笑顔が増えていった。

最後は3チームに分かれ、お待ちかねの試合が行われた。ジャンク5の体験会は、参加者に応じてルールを柔軟に設計しているのが特徴。
今回は全員が一塁へ送球し、一塁手がキャッチした時点で到達した塁を安打として再開するルールに設定した。
一人ひとり打ったら全力でコートを駆け回ると共に、守備でアウトにできた際はお互いにハイタッチで喜びを表現するなど、活気とともに熱気も高まっていった。

教育×スポーツ×企業による三位一体で、新たな価値を創造
約2時間にわたる授業は笑顔に包まれ、惜しまれながら終えた。
最後はジャンク5との合同チームとして生徒たちと試合で対戦するなど、一緒に参加した海道さんは、授業後に感じたことを語った。
「本当に感動しました。男女問わず、健常者と障がい者が分け隔てなくハイタッチを交わしたり、励まし合ったりしている光景は、このBaseball5というスポーツだから生み出せたものだと思います。
また、教職員の皆さんもゲームに入るなど、その場にいる誰もが笑顔になっていました。『教育×スポーツ×企業』の新たな形を創り出せたと感じています」

そして全員が活き活きとプレーする様子を見守った若松さんも、改めて開催の意義を感じたと振り返った。
「両校は『ニュースポーツ』という科目があってインクルーシブ教育へすでに力を入れていることもあり、今関東で実施したものとは全く違った感触でした。
終わった後も控室までお礼を言いに来てくれるなど生徒の温かさも格別でしたし、そして企業とコラボしたのは初だったので、今後の展開に大きな意味を成したと感じています。
我々が21年から障がい者の健康、教育に取り組んでいることは間違っていないのを都度再認識していますが、その確信度は数を重ねるにつれて高まっています」

また、若松さんらの元にはこれまでの取り組みについて反響が寄せられていると言う。それが次のチャレンジに向けての源になっていた。
「3×3バスケットボールとの提携や今回に代表される特別支援教育へのアプローチが世の中に出始めてから、団体や教育機関からの反響をいただいています。
それは我々の取り組みが浸透しているのだと思いますし、『次も絶対やるぞ!』という気持ちがさらに高まるばかりです。
そして特別支援学校の方々からは感謝の言葉が数多く寄せられていますので、何か新しい扉が開く雰囲気を肌で感じています」
地域・企業・教育をひとつにしたBaseball5。コマニー株式会社とジャンク5がこの競技の魅力を石川の地で輝かせた1日となった。
(おわり)
