世界の野球の「懸け橋」としてのジャパンウィンターリーグ
広尾晃のBaseball Diversity
第4回のジャパンウィンターリーグは、2025年11月21日に開幕し、12月18日に全日程を終了して閉幕した。
「野球で生きていく」チャンス
NPBや韓国プロ野球(KBO)、台湾プロ野球(CPBL)などのプロ野球チームの若手選手にとっては、12月でも温暖な沖縄の地で、試合出場をして経験値を高める絶好の機会になる。
また、世界の国から「野球で生きていく」ことを目指す選手にとっては、自分を売り込む格好のチャンスでもある。
プロ野球選手や、社会人野球選手は主としてアドバンスリーグで、世界中から集まった選手は主としてトライアウトリーグでプレーすることになる。
アドバンスリーグ、トライアウトリーグともに各3チーム。リーグ戦を行うほか、3試合に1試合は、リーグを超えた交流戦も行われる。
今季は総勢125人の選手が参加。参加国も16か国に広がった。ジャパンウィンターリーグの名前は、世界でプレーする野球選手の間には広く知られるようになった。
オーストラリア、台湾、アメリカ、カリフォルニアなど、世界には、野球のオフシーズンに、選手を集めてリーグ戦を行う「ウィンターリーグ」がたくさんある。また、中米では、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコなどで本格的なリーグ戦が行われている。
冬に野球選手がプレーをする機会は意外に多いのだ。 そうした「冬のリーグ戦」の中でも、ジャパンウィンターリーグは、選手へのサポート、ケア、指導が充実したグレードの高いリーグとして認知されるようになった。特に若手選手にとっては、成長が実感できるリーグと言えるだろう。

大きな経済負担も
ジャパンウィンターリーグに参加するためには、宿泊費、運営費などフル参加では40万円ほどの費用が掛かる。NPB球団や社会人などに所属する選手は、球団、チームが負担しているが、個人参加の場合は、自己負担となる。
若い選手にとっては簡単に出せる額ではない。また、野球が盛んな国であればスポンサーや支援者がつくことも考えられるが、野球が盛んではない国では、参加することはかなり高いハードルになっている。
JICA沖縄のバックアップ
ジャパンウィンターリーグは、昨年から独立行政法人国際協力機構 沖縄センター(JICA沖縄)と協力して、こうした野球が盛んでない国から有望な選手を招へいしている。
JICAの海外協力隊員は、世界各地で「野球指導」をしているが、指導した選手の中から「有望」と判断した選手を推薦し、ジャパンウィンターリーグに派遣しているのだ。費用はスポンサー企業が支援している。

ホンジュラスの有望選手がやって来た2024年
昨年は、世界15カ国で野球を指導している野球隊員と5ヵ国のソフトボール隊員の教え子の中から有望な選手を選定、最も潜在能力があると思われた中米ホンジュラスのダビッド・アルトゥーロ・サバラ・ヌニェス(ダビッドDavid Arturo Zavala Nuñez)を招へいした。
まだ17歳のダビッドは投手、打者の二刀流で、トライアウトリーグで1か月間プレーをし、経験値を高めた。
また野球だけでなく期間中には地元沖縄の子供たちとダビッドが交流するイベントが行われた。

今年はペルーから
2年目となる今年は、ペルーから23歳の投手、ロヨラ・トゥルイヤーノ ホルへ・アルベド(Jorge Alberto Loyola Trujillano)が派遣された。198㎝108㎏の巨体で、パワーのあるピッチングに加えて、高いコントロールと安定した投球が持ち味。普段は先発投手だが、中継ぎや抑えとしても起用され、冷静に状況を抑え込む冷静さが最大の強み。
ペルー代表としては2025年ユニオン・リマ大会で優勝。同大会での最優秀選手及び、国内リーグでも最優秀選手に選出された。すでにペルーを代表する選手の一人だと言えよう。
ペルー国内では、JICA海外協力隊の堤尚虎氏の指導を受けて来た。
12月9日に行われた記者会見でホルヘは
「私はペルー代表としてプレーし、ブラジル、コロンビア、プエルトリコ、日 本、アメリカ、ドミニカ共和国、エクアドル、カナダなど、世界各地の大会に出場してきました。これまでで最も誇りに思っているのは、最速104マイル(約167km/h)を記録したことです。しかしそれだけでなく、必要であれば、多くのイニングをコントロール良く、支配力を持って投げ抜くことので先発投手でもあります。 今回、ジャパンウィンターリーグでは自分の最大限の力を示し、日本のプロ野球チームと契約するという、ずっと抱いてきた夢を叶えるために挑みます。そのために、これまで一所懸命努力してきました」
と、自らを積極的にアピールした。
ホルヘは11月21日の開幕からチームに合流した。

JICA海外協力隊の野球普及活動
JICA海外協力隊は、大学野球などの野球経験者を採用し、語学や現地事情などの教育を一定期間施したうえで、世界各国に派遣し、現地の青少年に野球を通じた教育を行っている。
野球はアメリカと中米、日本、韓国、台湾では野球は人気スポーツだが、それ以外の国ではマイナースポーツで、あまり人々には知られていない。
しかし近年は、MLB人気が高まり、WBCなどで世界の国の注目が集まるようになっている。
野球が盛んでない国でも、野球をやりたいと志す若者が増えている。JICA海外協力謡の隊員は、こうした若者に基礎から野球を教えている。またバットやグローブなどの用具を支給したり、グラウンド造りを指導するなど「野球ができる環境づくり」にも尽力している。
そういう活動の中で、24年のダビッド、25年のホルヘなどの有望な選手が出てきているのだ。
こうした選手が、NPBやMLBで活躍するまでの道のりは、率直に言ってまだ遠いが、母国の野球代表チームの主力選手になったり、野球指導者になるなど、その国での野球殿堂者になることが期待されている。
また、JICA海外協力隊の指導者は、野球の技術だけでなく、練習の仕方、身体のケアの仕方、試合におけるマナーなど、日本野球のエッセンスも教えている。そうした活動から野球を通じて日本文化への理解を促進することも期待できる。

同じ釜の飯を食う仲に
前述のようにジャパンウィンターリーグは今年も16か国から選手が参加した。ベンチ内では英語やスペイン語が飛び交い、様々な国の選手が、ケータリングの食事や日本の弁当を食べ、同じホテルに宿泊して生活をともにしている。
そんな中で、国境を越えた友情もはぐくまれていく。
こうした「野球の多様性」を深める取り組みも、ジャパンウィンターリーグの魅力だと言えるだろう。

