どんどん仲間が増えていくーー中学校世代でも始まった、野球のリーグ戦Liga Agresiva
高校生のリーグ戦、Liga Agresivaは9年目の今年、31都道府県152校にまで広がっているが、大阪ではその「ジュニア版」として中学生の試合が始まっている。
10月末、大阪府堺市のグラウンドには中学硬式野球の4チームが集まっていた。各チームが対戦するのだが、そのルールは、高校のLiga Agresivaに準拠している。
まずアメリカの「ピッチスマート」に準拠した球数制限を行う。そして原則としてベンチ入りメンバー全員が試合に出場する。さらに日本スポーツマンシップ協会による「スポーツマンシップ」の学びを受講する。
試合の後は、両チームの選手がポジションごとに分かれて意見交換する「アフターマッチファンクション」も行うことになっている。
2面ある硬式野球場では、第1試合が行われている。その風景は、一般的な中学硬式野球と変わらない。しかし、よく見られるような「声出し」はない。相手を傷つけるような野次も聞こえない。
「ナイスピッチ!」「ナイスプレー!」とポジティブな掛け声が飛んでいる。
空気が全体的に明るいこと、そして選手が自分で判断して野球をしていることなどが、他の野球大会との違いだ。
Liga Agresiva中学に参加した指導者に話を聞いた。
出場機会が多いことがありがたい
堺ビッグボーイズ中学部の古谷英士監督は
「何より出場機会が非常に多いことがありがたい」と語る。
「試合に出ることで、野球の流れを子どもたちに教えることもできるし、選手も実感できます。またスポーツマンシップを学ぶことで、ゲームを進めていく中でも子どもたちが味方だけでなく、相手チームのナイスプレーにも反応するようになりました。そういうところは、将来につながっていくなと思います。
選手たちの評判もいいですね。レギュラーの選手も楽しそうですが、レギュラー未満の選手にとっては、自分たちの出番もある。自分たちがメインになることもできると言うことで、表情が変わっています。この仕組みは非常にいいですね。
この体制で、スポーツマンシップを学びながら、勝つことも目指していきたいと思います」
普段経験できないことを経験できる
守口ボーイズの田中隆彦監督もLigaに好感触を得ている。
「昨日から参加しましたが、うちは選手に出場機会を結構たくさん与えているつもりだったんですが、それでも選手は出場できてうれしそうでした。
昨日は私が指揮を執りましたが、各ポジションは子どもたちがじゃんけんやくじ引きで決めるなど、普段経験できないことを経験しました。
大事なことは、私たちが、子どもたちが今後も野球を続けてもらえる環境をいかに作っていくのか、ということでしょう。大人の立場でそれを考えていかなければ。
それから、試合の後のアフターマッチファンクションもすごくいいですね。今まで取り組んだことがなかったので、すごく勉強になりました。
全国大会出場とかが、かかった大会ではなかなか難しいものもありますが、このようなリーグ戦で体験できるので、今後も期待したいですね」
いろいろな試みができる
大阪箕面ボーイズの平塚靖己監督は
「試合はもちろんの事、試合後の選手間の交流、アフターマッチファンクションがいいですね。今まで取り組んだことがなかったのですごい勉強になりました。
それに選手の出場機会が増えるのもいいことですね。うちは普段からたくさん選手起用をしてきたつもりですが、それでも多くの選手が試合に出ることができて良かったですね。また今日は使いませんでしたが、DHも使えますし、いろいろな試みができるので、すごいいい取り組みだと思います」
と語った。
野球を通じて選手がいかに成長するかを考えている
この大会には、ボーイズリーグだけでなく、ポニーリーグのチームも参加している。チームを運営する関西メディベースボール学院の坂田達也コーチは
「そもそもこうしてボーイズリーグのチームと試合をする事が、うちにとってはいい交流になっています。
元々ポニーリーグは球数制限をしたり、全員出場をルールとするなどLigaに通じる考え方で野球をしているので違和感はありません。
何と言っても野球を通じて選手がいかに成長するかを考えているのがいいですね。それに選手のコミュニケーションの場も作っていただけているので、これからも発展していってほしいと思います」
選手数が増えている参加チームの共通点は?
「野球離れ」が進む中で、中学レベルの少年硬式野球チームも選手集めに苦労しているところが多い。中には試合に出る選手を確保することに四苦八苦しているところもあるが、Liga中学に出場している4チームはいずれも多くの選手が参加している。
この4チームに共通するのは「目先の勝利」「大人たちの満足」ではなく、野球をしている子どもたちの「将来」「成長」を考えて指導をしていることだ。
子どもの成長を阻害するようなハードワークは求めないし、パワハラめいた指導も行っていない。そして子どもの主体性を重視する。以前は厳しい指導で知られたチームもあったが、指導者の代替わりと共にチームの改革が進んだのだ。
近年の子どものスポーツの選択には、母親の意向が強く働くことが多い。
「僕は野球をさせたいのだけど、妻がうんと言わなくて、サッカーをすることになった」というような話をよく聞く。父親世代は、厳しい指導を受けてきた人が多いので、少年野球のパワハラめいた指導も気にならない人が多いが、母親は、子どもが楽しそうに野球をしているか、そして野球をすることが子どもの成長につながるかを重視する。今、選手数が増えている少年野球チームに共通するのは「子どもファースト」になっていることだ。
この4チームはもともと、こうした指導方針を持っていたからLigaの理念に共感を覚えて、リーグ戦に参加したのだ。
アフターマッチファンクションの効果
1試合目の後は、アフターマッチファンクションが行われた。対戦したチームの選手が腰を下ろして少し早い昼食を食べながら、意見交換をする。同じ大阪のチームだ。小学校時代にチームメイトだった選手や、それ以前から試合で対戦した選手などが、話を切り出して、そこから話が盛り上がる。
最初はぎごちない会話をしていた選手たちも、次第に活発に話すようになる。
「敵」ではなく「同じ野球をする仲間」としての連帯感、そして互いに相手をリスペクトする感情が芽生えてくるのだ。
中学校、小学校へと広げていきたい
「基本的に高校のLigaと同じですが、今回はボーイズリーグだけでなくポニーリーグのチームも一つ参加しています。2日間ですがリーグ戦でやって、2日目には決勝戦までやります。
勝利を目指すことと、スポーツマンシップをともに大事にしようと言うことです。ボーイズリーグでは関西9支部の監督、代表コーチ1名が日本スポーツマンシップ協会の中村聡宏先生の話を聞きましたが、それに加えてオンラインで選手も保護者もスポーツマンシップについて学びました。
高校の場合、Ligaでは低反発金属バットや木製バットを使っていますが、中学の場合まだ腕力がそれほど強くないのでバットは規制していません。ただ投球数に加えて、キャッチャーのイニング制限を導入しています。
僕たちは、目先の勝利、結果ではなく、子どもたちがとにかく成長することを目標にしています。他の中学、そして小学校の野球チームとも連携できればと思います」