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激戦区の東京代表として全国大会に挑む中学軟式野球チーム・石泉クラブ

 東京都の中学軟式野球界は、昨夏全国優勝の駿台学園中学校(北区)や2022年に日本一となった上一色中学校(江戸川区)などがひしめき合い、中学校体育連盟(以下:中体連)のチームが全国大会の常連となっている。

 その中で近年、クラブチームながら、着実に力を付けてきているのが、東京都練馬区に拠点を置く石泉クラブだ。石泉クラブは昨年9月に行われた第24回東京都少年新人(中学)軟式野球大会にて、準決勝で駿台学園中学校に勝利し、創部43年目にして初の決勝戦に進出。惜しくも決勝で敗れ準優勝となったものの、東京都第2代表として2025年3月に開催される全国大会への出場を決めた。

 今回は石泉クラブで指揮を執る荒川洋監督に、全国大会出場への道のり、チームの特徴や全国での目標などを伺った。

限られた練習時間でも石泉クラブが行う工夫

 石泉クラブは、練馬区立大泉第二中学校をホームグラウンドとし、2025年に創部44年目を迎える中学軟式野球クラブである。荒川監督自身も石泉クラブのOBであり、ヘッドコーチを経て、8年前に監督に就任した。現在は新3年生20人、新2年生40人、新1年生を含めると部員数は70人を超える。荒川監督の就任以降は同じ地区の少年野球チームとの繋がりもあり、安定して部員が集まっている状況だ。

試合に勝利し、喜ぶ石泉クラブナイン

 その一方で、石泉クラブでの練習は土日祝日のみとなるため、平日の放課後に練習が行える中体連のチームとは必然的に練習時間に大きな差ができてしまう。平日は部員のほとんどが中学校の野球部に所属し、各自の中学校で部活動に取り組んでいるが、石泉クラブとしてのまとまった練習時間は限られる。部員が通う学校もバラバラのため、中体連のチームに比べると、特にコミュニケーション、連携という面ではどうしても希薄になってしまう。

 そうした連携面での不足を補うべく、石泉クラブの練習では、投手と内野手の連携プレー、内野手と外野手の中継リレーなど、守備連携の練習を必ず確保している。また、荒川監督の自宅にトレーニングルームが併設されていることもあり、平日の部活動終了後に部員が集まって一緒に自主練習を行うこともあるという。平日のまとまった時間が取れない分、細かな時間でコミュニケーション不足を補う。物理的な量では叶わないが、中体連のチームに負けない量のコミュニケーションを取る工夫を施している。

 冬場のトレーニング期間を除き、練習の8割近くは投内連携など守備の練習に充てている。その理由について、打撃練習は平日の部活動や各自の自主練習など個人でできることが多いと荒川監督は話す。

「バッティングは個人でできる練習なので、選手を信頼している。(チームの練習では)こういう振り方をしようとか、スイングのポイントを伝え、後は各自の練習で取り組んできてもらっています」と選手の自主性に信頼を置いている。というのも、石泉クラブでは人間育成のスローガンとして「挨拶・姿勢・意欲・感謝・絆」を謳う。選手の自主性は、スローガンの2番目、3番目にあたる姿勢・意欲に共通する部分である。

 そのほか、チームの練習では、部員全員が「無駄な時間を過ごさないこと」を徹底している。一般的に部員数が多いと、全体練習で部員一人ひとりがボールに触れる時間が限られる。石泉クラブの練習ではグループ分けを行い、各グループでまとめ役の上級生を配置。部員数が多くても部員全員が質の高い練習に取り組めるようにしている。

 チームの活動が土日祝日に限られる中でも、こうした練習での工夫、選手の自主性によって、中体連の強豪チームとも渡り合えるようになった。

石泉クラブの守り勝つ野球スタイル

 創部から長い歴史を持つ石泉クラブだが、一時は低迷した時期もあったという。それでも、荒川監督の就任から着実に力を付け、2023年には初の全国大会への出場を成し遂げた。

 同年6月に行われた第40回全日本少年軟式野球東京都大会で初優勝し、練馬区勢で初の全国大会出場を決めた。東京代表として出場した全国大会(全日本少年軟式野球大会ENEOSトーナメント)は初出場ながら、準々決勝に進出。準々決勝で石川県・星稜中学校に敗れる結果となったが、初出場で堂々の全国8強入りを果たした。

 そして、2024年は第24回東京都少年新人軟式野球大会で準優勝。中学軟式野球の二大大会の1つである文科大臣杯への出場を決めた。

チームのエースを担う溝大駕選手

 石泉クラブの野球スタイルとして荒川監督は、「昔から守り勝つ野球を心掛けており、1対0や2対0で勝つ試合が理想」と語る。

 特に今チームは右のエース・溝大駕(みぞ・たいが)選手、左のエース・中川湧仁(なかがわ・ゆうじん)選手ら強力な4投手が揃う。中学軟式野球では肘や肩の故障防止の観点から1日最大7イニング・100球までという投球制限が設けられている。そのため、複数の投手を育成することが、トーナメントを勝ち進む上で重要だ。

 新人戦では、チームスタイルが物語るように、初戦から少ない失点で勝ち進んだ。準決勝の駿台学園中学校戦では中川選手、溝選手の継投で相手打線を1点に抑え、2対1と接戦をものにした。上一色中学校との決勝は惜しくも敗れたが、3対0とロースコアの試合展開となった。

 一方で、全国大会に向けて課題となったのが、攻撃面だ。準々決勝では13得点を記録したが、決勝戦は上一色中学校の好投手を前に得点を奪うことができなかった。その中で、野手のキーマンとなるのが、4番打者、正捕手、キャプテンという大役を担う本原遼(もとはら・はるか)選手だ。中学校でも生徒会長を務めており、チームをまとめる力、自分の意見を伝える力に荒川監督も信頼を置いている。

 軟式野球は硬式に比べ、ボールが飛びにくく、点が入りにくい側面もあるが、得点を奪えないと勝てないスポーツでもある。本原選手を中心に打撃だけでなく、積極的な走塁にも力を入れているという。全国大会に向けて、他県の全国出場チームと練習試合を組むなど、レベルアップに努めている。

目標は前回を超えるベスト8以上

 石泉クラブが出場する全国大会(文科大臣杯第16回全日本少年春季軟式野球大会)は、岡山県倉敷市で開催される。3月21日に開会式を迎え、翌22日から5日間で出場56チームの頂点を決める。

 荒川監督は「まずは前回のベスト8に肩を並べ、そこからどれだけ上にいけるか」と前回のベスト8以上を第一目標に掲げる。

左のエース・中川湧仁選手

 組み合わせはすでに発表されており、石泉クラブは、初戦で福井の越前クラブと対戦することが決まった。初戦に勝利すると、2日目はダブルヘッダーが組まれ、決勝まで勝ち進めば、5日間で6試合を行う過密スケジュールとなる。

 8強入りにはまず3勝、日本一には6勝。特に大会2日目はダブルヘッダーとなるだけに、投手陣の複数起用は不可欠である。全員野球でチーム史上最高成績を目指す石泉クラブの戦いに注目が集まる。

写真提供:石泉クラブ

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