独立リーグの「選手」とは、どんな存在なのか。
広尾晃のBaseball Diversity:13
「プロ野球選手」と名前がついても、NPB選手と独立リーガーは天と地ほども境遇もその未来も異なる存在だ。
独立リーグの草創期には、選手の実力は「玉石混交」ではあった。
NPBのドラフトに指名される選手には球団から在籍する学校や企業宛に「身上調査書」が送付される。いわゆる「調査書」だ。選手はこれに記入して返信する。「調査書」が来たからと言って指名されるとは限らないが、「調査書」が来なかった選手はスカウトの眼鏡にかなっていなかったということになる。
独立リーグにはごく初期の段階から、「調査書」が来るようなレベルの選手がいたが、同時にはるかにレベルが低い選手もいた。四国アイランドリーグ創設時には石毛宏典氏の尽力で大がかりな入団テストが行われたが、それ以降は本格的なトライアウトもあまり行われておらず、簡単なテストや縁故で入団を許された選手もいた。「玉石混交」になるのは致し方なかった。
スカウトの「鑑定眼」がモノを言った時代
当時のスカウトは、独立リーグの試合に足を運び、実際に選手を見る中で「これは」という選手の目星をつけていった。とはいっても、その「目星」とは「独立リーグで好成績を残す」ではなかった。
2006年オフに高知からロッテにドラフト7巡目で指名された角中勝也は首位打者2回、1000本安打を記録するなど、独立リーグ出身選手としてNPBで最高の実績を残しているが、高知時代の成績は253打数64安打4本塁打28打点、打率.253と芳しいものではなかった。スカウトは数字ではなく、角中の走攻守、特に打撃の資質を見出して、指名したのだ。まさに慧眼と言えよう。
反対に、独立リーグでMVPを取るような活躍をしながら、NPB入団後は全く活躍できず、支配下登録を得ることもなく育成契約のままで退団する選手もたくさんいる。
スカウトにとっては、この見極めが大事だった。
「独立リーグのレベルがどういうものなのか、把握するまでは評価が難しかったよ」
とあるスカウトは話す。
このスカウトは気になる選手は春先と9月に2回見るようにしているという。
「春先にこれは、という選手を何人かピックアップする。そして9月にもう一度見て、どれだけ“伸びているか”を見るんだよ。厳しい夏を過ぎて、投手なら球速が上がっているとか、制球力がよくなっているとか、打者ならスイングが速くなっているとか、そういうのをチェックするんだ。この間に怪我をして試合に出られなくなる選手もいるけどね」
独立リーグを「NPBへのステップ」と考える選手たち
独立リーグはいろいろなカテゴリーからきている選手が多いだけに、スカウトの鑑定眼は非常に重要だった。しかし、これは昔話になりつつある。
今の独立リーグには「本当ならドラフト指名されてもおかしくない」選手が一定数入団している。もともとそういう資質に恵まれながら、何らかの理由でエリートコースを外れたような選手だ。
多いのが「怪我」だ。高校時代に強豪校でエース格と言われるような活躍を見せながら、投球過多で肩肘を痛めたり、腰椎を損傷したりして投げられなくなった選手。高校での実力を評価されて大学に進んだが、大学で怪我をした選手。
彼らは一時期野球を離れて、普通の学生になるが、野球への思い断ちがたく、再チャレンジの道を模索する。そして独立リーグに行き当たるのだ。
また、高校、大学時代に指導者とぶつかって、野球部を辞めた選手も多い。指導者の理不尽な指導に反発したり、自分が優遇されないことに不満を持ったりして、練習に出なくなり、退部してしまう。こういうドロップアウトした若者が、独立リーグで再チャレンジするケースも増えている。
トライアウトのレベルも上がる
近年、オフになると独立リーグ球団は大規模なトライアウトを実施しているが、その競争率は非常に高く、100人ほどが参加しても数人しか採用されない。狭き門になっている。これを反映して、スポーツ専門学校の中には「独立リーグ球団への入団を目指す」コースもできている。
今のNPBのスカウトは「独立リーグ球団が推薦する」選手を中心にマークすることが多くなっている。そんな中から、NPBで活躍する選手がでてくるようになっている。
実質的に、独立リーグはNPBの「マイナーリーグ化」していると言ってよいだろう。
ノーマークの選手たち
こうした「レベルアップ」の一方で、独立リーグチーム内の「選手の格差」も大きくなっている。
筆者は毎年、球団が推す「ドラフト有望候補」の取材をするが、取材時には、有望選手に話を聞きながらも、その他の選手の視線を感じずにはおれない。取材が来ない彼らがドラフトにかかるのは望み薄なのだ。
もう10年ほど前のことだが、ある独立リーグ球団の監督に、練習施設で話を聞いたところ
「今日、俺が駐車場に車(BMW)を停めたら、横にベンツが停まってるんだ。誰のだ?と聞いたら、今年高校から入った新人だって言うんだ。親が入団を喜んで、買ったんだとよ」
とあきれ顔で言った。
そうした選手でも、一応テストやトライアウトを経て入団しているから、全くの素人ではないだろうが、独立リーグに入ったことですでに満足している選手も一定数いるのは事実だ。
独立リーグは一応は「プロ野球」であり、少ないとはいえファンがいる。ファンクラブもある。球場外では選手はサインを求められることもある。年間数十試合のペナントレースは、地方メディアが記事にする。そういう雰囲気に浸るうちに「プロ野球選手気取り」になる選手も出てくるのだ。
独立リーグ球団の経営者、指導者が「独立リーグは、野球をあきらめさせる場でもある」と口を揃えて言うのは、そういう選手に転機を促す必要があるからだ。
多くの球団ではシーズンオフに、半数近くの選手を「契約解除」にする。そういう形で新陳代謝を図らないと、チームは沈滞ムードに陥りかねないのだ。
どんな選手がNPBに行くのか?
今、NPBが独立リーグに求めているのはどんな選手なのか?
端的に言えば「個性」のある選手だ。投手なら、球が速い、左、背が高い。野手なら肩が良い、足が速い。多くはこうした形容と共に「粗削りだが」という言葉がくっつく。
あまり必要とされないのは「安定感のある先発投手」や「走攻守すべてにレベルの高い選手」「野球偏差値が高い選手」だ。
独立リーグのレベルで「安定感」があったり「偏差値が高い」のは、そのレベルに適応しているということだ。独立リーグとNPBのレベルの差は未だにかなり大きいので、むしろそういう選手は「総合的に」通用しないことが多い。
それよりも「一芸に秀でた」タイプの選手の方が、見込みがある。
2021年、徳島インディゴソックスから育成1位で西武に入団した古市尊は、徳島では正捕手でさえなかったが、肩の強さ、盗塁阻止率の高さで指名された。スカウトは「どこか一つでも飛びぬけたところがある選手がいい。足りない部分はプロに行ってからしっかり仕込むので」と語っていた。
古市は高校時代から肩だけは目立っていて、NPBの調査書ももらっていた。独立リーグでもその素質を証明したことで、プロ入りがかなったのだ。スカウトは、技術、打撃力などはNPB球団に入団後、身に着けて行けばよいと言う考えなのだ。
突然の「才能開花」は、あまり見られなくなった
かつては、独立リーグに入団するまでは全く目立たなかったが、プレーするうちに急速に素質が開花してドラフトでNPBに指名された選手がいた。
その典型が現ソフトバンクの又吉克樹で、彼は高校までは全くの無名だったが、大学入学後も身長が伸び続け、香川オリーブガイナーズに入団後、大活躍をして注目されて独立リーグ史上最高の2位で中日に入団。以後、中日でセットアッパーとして活躍、2021年オフにはFAでソフトバンクに移籍した。
しかし、最近の独立リーグではこうした「掘り出し物」は少なくなっている。NPBスカウトの目配りが広くなっているし、独立リーグ球団関係者が「素材」をいち早く発掘するからだ。
メンタル面でいえば、独立リーグからNPB球団に進む選手は「時間がない」という意識を常に持っている。「勝負は今年」と心に秘めて必死で投げている。
「1年目は環境に慣れて、2年目から頑張ろう」という気持ちの選手は、ほとんどがNPBに行くことができない。スカウトはそういう「ひたむきさ」もチェックしている。
近年、NPBは独立リーグを「選手の供給源」として評価するようになった。それは独立リーグがより厳しい「競争環境」になったからだ。