高橋薫氏に聞く―「走る・闘う」ジェフユナイテッド市原・千葉レディースが目指す未来―
オリジナル10と呼ばれるクラブの一つであるジェフユナイテッド市原・千葉。同クラブがJリーグに加盟したのは1992年であるが、実は同じ年から女子チームのジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下、ジェフ千葉レディースと省略)が発足していることを知る人は、決して多くはないだろう。
日本国内の女子チームとして、30年の歴史を持つチームは少ない。そして2026年、ジェフ千葉レディースは新しい練習拠点を千葉県船橋市に置き、その活動は新しい段階を迎えようとしている。
これから、ジェフ千葉レディースはどのようなチームになりたいと考えているのだろうか。長年ジェフ千葉レディースに関わっている、ジェフユナイテッド市原・千葉で取締役を務める高橋薫氏に話を聞いた。

女子選手のコミュニケーション能力の高さは、クラブにとって大きな武器
今年からジェフ千葉レディースの監督に就任したカルメレ・トレス新監督とは、どんな人ですか。また、どのようにチームをまとめているのでしょうか。
高橋薫(以下、敬称略)「ポリシーというか、信念を強く持っている人です。また、監督の仕事として当然のことかもしれませんが、選手のことをよく見ているし、若い選手を思い切って使うということができる人です。また、男子選手のフィジカルコーチを務めていたこともあるせいか、トレーニングはハードで、走ることをとても重要視している監督です。
もともと、ジェフ千葉レディースは「走る・闘う」ことを重要視しているチームではあったんです。しかし昨年後半から、選手の疲労が重なったりして、90分間を走り切ることができなくなっていました。でも、今年はカルメレ監督がシーズン前はもちろん、全シーズンを通して走るトレーニングを重要視しているためか、今は昨年よりチーム全体が走れています。
とはいえ、カルメレ監督が描いている理想のサッカーの半分も実現できていないであろうというのが現状だと思います。カルメレ監督はコンビネーションを生かしたサッカーをしたいと考えているのですが、それがすごくうまくいくときとうまくいかないときの差が、まだとても大きいんです。現在は、そうした理想のプレーが常にできるように地道に積み上げている最中、といった状況ですね。」

クラブとして、ジェフ千葉レディースにどのような役割を担って欲しいと考えていますか。
高橋「レディースの選手って、コミュニケーション能力が非常に高いんです。例えば、レディースの選手がサッカー教室を開いたりすると、子供たちの目線に立って話すことが自然にできるし、普通におしゃべりできるんです。一見したところ、こうしたことはごく普通のことのように思えますが、実はクラブにとって大きな財産になります。こうしたコミュニケーション能力があれば地域の人と積極的に交流を図ることもできますし、いろいろな形の社会貢献に力を発揮しやすくなるでしょう。その結果、あの時ジェフ千葉の女子選手に会ったことがあるからという理由で、レディースのチームに親近感を感じてくれる可能性が高くなります。
また、サッカーという競技自体が、ダイバシティを体現しているスポーツです。今は男の子も女の子もサッカーをしますし、ハンディキャップを持っている人もプレーしています。
ジェフ千葉レディースの選手は、週に1回くらいの頻度で保育園を訪問して、サッカーや体の動きを教えていますが、この活動の目的は2つあります。一つは、運動能力をつかさどる神経が一番発達する3~5歳くらいの子供に体を動かす楽しみを知ってもらうこと。もう一つは、子供たちが初めて直接目にするサッカー選手が女子選手であることで、男の子はもちろん女の子もサッカーをするんだ、と知ってもらうことです。
今のところ、ジェフ千葉レディースの選手はファンやいろいろな人と交流しやすい距離感が保たれています。この近い距離感を生かして、たくさんの人とコミュニケーションをとりながら、サッカーはみんなが楽しめるスポーツなんだということを伝える役割を、ジェフ千葉レディースの選手が果たすことができると思います。」
かつて、女の子がサッカーをするためには、男の子のチームに入る必要のある時代もありました。最近は女子のチームも増えてきましたが、それでも女子選手がサッカーを続けるのは、男子選手よりも難しいことが多いような気がします。
高橋「女子チームの数自体が少ないことが、最大の原因ではないでしょうか。自分の住んでいるエリアに女子チームがなくて、同じ県内の離れたエリアにあるチームに入ってプレーをしている女子選手は本当に多いです。でも、男子のサッカーチームはほとんどのエリアで見つかりますよね。
今の子供たちの親世代でも、女の子がサッカーをすることに抵抗感がある方もまだいらっしゃるようです。そうしたことも含めて、女子のチーム数が少ないという環境的な要因が一番の理由だと思います。」

ジェフ千葉レディースの選手が、いつもの光景になるために
今の日本で、女子チームを運営することの難しさはどのようなところにあると思いますか。また、その難しさを解決するために、ジェフができることはどのようなことだと思いますか。
高橋「実は今の日本で、女子の団体競技でプロ化されているスポーツってサッカーだけなんです。有名で人気があるプロの女子選手競技は、フィギュアスケート、ゴルフ、テニス、卓球など個人競技ばかりなんですね。そして女子の場合、そうした個人競技のスポーツのプロ選手の競技の方が、団体競技のサッカーよりもお客様の数が多いんです。
なぜ、そうした傾向があるのかは私もまだよくわかりません。でも、日本人は女子の団体スポーツが嫌いかというと、そういうわけではないと思います。というのも、学生時代は女の子もバスケットボールやバレーボールなど、団体競技は人気がありますから。
女子のサッカーにいかに観客として観戦に来ていただくか、ということを考えるための一つの視点として、女子のプロスポーツの団体競技にお客様を呼ぶにはどうしたらよいのか、という視点で考えることも、一つの方法かもしれませんね。」
最後の質問です。将来、ジェフ千葉レディースでプレーしたいと思う選手を増やすために、どのような取り組みをされていますか。
高橋「今、千葉県の船橋市にレディースとアカデミーの専用グランドを建設しています。ジェフユナイテッド市原・千葉は、Jリーグ設立時から、千葉県を活動拠点として来ています。千葉県に住む多くの方にジェフを身近に感じてほしいという気持ちはクラブ全体にあります。しかし、特に男子のトップチームはスタジアムの規定などの影響で、千葉市・市原市以外の町でトレーニングしたり、試合をすることが難しくなってしまうんですね。
船橋市は歴史的にサッカー人口が多い街です。そうしたところに練習拠点を置くことで、船橋市やその周辺エリアの方々にもジェフのレディースやアカデミーを身近に感じていただければ嬉しいです。また、船橋市内の幼稚園や保育園の子供たちがレディースの練習を見に来てくれるようになってほしいですし、休日にはいろいろな場所から電車に乗って練習を気軽に見ていただけるようにもなるかと思います。レディースの選手は船橋市内でご飯を食べたり買い物したりするでしょうし、街中でジェフ千葉レディースの選手を見ることが普通の光景になることでしょう。
そうした形で、自分の町にジェフ千葉の選手がいる、あるいは選手を見に来ていただくいうことが、千葉県内の多くの町で普通になること。それが、現在クラブとして目指している方向性です。
また、男子と比べると、レディースのチームの方が千葉市・市原市以外のエリアでも試合が実施できるというアドバンテージがあります。男子チームがなかなか行けない千葉県内の町にレディースの選手が行って試合やトレーニングをすることで、ジェフの女子チームを身近に感じていただきたい。そして、そこにサッカーを好きな女の子がいたら、自分が目指すべき場所としてジェフ千葉レディースの存在を認識してもらえるようになれば、嬉しいですね。」

女子サッカーでのプロリーグ(WEリーグ)が発足したのは2021年のこと。それ以前からジェフ千葉レディースに関わってきた高橋氏の話は、地元のたくさんの人に女子チームを、そしてクラブを身近に感じてもらうことの重要性と難しさを再認識させるものとなった。
多くの人にとって身近な存在となるため、そしてサッカーが好きな女の子たちの憧れの存在となるため、ジェフ千葉レディースは今日も走り、闘い続ける。
(写真提供 ジェフユナイテッド市原・千葉) (インタビュー・文 對馬由佳理)
