地方大学の硬式野球部が冬に海外遠征? 「思い通りにいかない」の連続…台湾との国際交流で手にした“生きる力”
「イレギュラー」を乗り越えた先に――。青森大学硬式野球部が昨年12月、7泊8日の台湾遠征を実施した。青森県とむつ市が台湾・高雄市と友好交流協定を締結したのを機に実現。青森市とむつ市にキャンパスを有する青森大の硬式野球部員約30人が高雄市に赴き、現地の小中高生を対象とした野球教室や大学との交流試合を行った。大学の硬式野球部が国際交流活動の一環で海外に遠征するのは「異例」と言っても過言ではない。そこにはある狙いがあった。
青森大・三浦忠吉監督「乗り越える経験をさせたかった」
行政主導の事業である以上、最大の目的は野球を通じて日台の友好関係促進に寄与すること。三浦忠吉監督はその目的の遂行を目指しつつ、台湾遠征をチームが一つになる「きっかけ」にしようと目論んでいた。
「海外では自分たちの思い通りにいかない時間がかなりある。イレギュラーな出来事を我慢して、チームとしてベストを尽くして乗り越える経験をさせたかったんです。まさにそういう出来事が日々起きて、みんなが助け合いながら乗り越えるタフな姿を見ると、来て良かったなと思います」

選手のほとんどは海外自体初めて。食文化や習慣、気候に違いのある異国の地で、言語の壁にぶつかりながら、移動日を除く6日間で6度の野球教室、3度の交流試合という過密日程をこなすのは容易ではない。さらに指揮官の予測通り、移動のバスが遅延したり、開始時間や会場が変更されたり、野球教室の参加者が突如増えたり……と「イレギュラー」の連続だったが、全員で協力してかたちにした。
「台湾遠征に行って良かったと言えるようにしたい」
三浦監督が「きっかけ」を求めたのには理由がある。新チーム発足後、部内に「ぎくしゃくした雰囲気」が漂っていたからだ。
昨年は北東北大学野球春季リーグ戦で優勝し、17年ぶりの全日本大学野球選手権出場を果たした。主将の長井俊輔(4年=横浜創学館)を中心とした4年生の統率力が高く、「クレイジー」を合言葉に一つになった勢いのあるチームだった。
その4年生が抜け、雰囲気は一変。三浦監督は「前の代を真似しようとして、でもメンバーが違うからできるわけもなく、チームの色も空気感も分からないまま進んで迷走していた」と振り返る。だからこそ台湾遠征を「チームを作る時間にしたい」と考え、選手にも率直に「前の代と比べて結束力が足りない。遠征を通して一つになろう」と伝えた。

三浦監督の言葉を胸に刻んで遠征に臨み、言動で示した選手の一人が大城盛龍(2年=興南)だ。リーグ戦の実績こそないものの、それ故に新風を吹かそうと意気込んでいる。「先輩たち(4年生)がやってくれていた声出しを、最近Aチームに上がってきた自分が率先してやろうと心がけています」と話す通り、交流試合ではベンチで誰よりも大きな声を出した。野球教室でも外野手の練習をスムーズに進めようと、身振り手振りを交えて、スマートフォンの翻訳アプリも使いながら積極的にコミュニケーションを図った。
大学では教員になる未来も見据え、数学と情報の教員免許取得に向けた教職課程を履修しているが、「教職の道に振り切ったわけではないので、戦力になれるよう頑張ります」と野球に全力を注ぐ。遠征を通してチームの雰囲気の変化を感じつつある大城は、「春を迎える前に台湾遠征に行って良かったと言えるようにしたい」と力強く口にした。
異国の地で「タフに生きる」経験が野球につながる
投手では、野球教室で熱心に指導する石川大樹(3年=駿台甲府)の姿が目立った。高雄大学戦では救援登板し4回5奪三振1失点と好投。試合後には対戦相手からカーブの握りや投げ方を聞かれる場面もあった。「言語の違いがあり難しく感じました」と話しつつも、工夫を凝らして丁寧に答えた。
中学生の頃に一度台湾を訪れた際は食事を受け付けず、食わず嫌いをしてしまったという石川。「年を重ねるごとにいろいろなことに挑戦しようと思えるようになってきました」と、今回は現地の多種多様な料理を味わった。

「『タフに生きる』をテーマに臨機応変に動いて、大きく言えば『生きる力』が身についたと思います」。言語の壁や食文化の違いから逃げず、果敢に挑戦したのは、「生きる力」が野球につながると信じているからだ。
リーグ戦は2年秋に1試合登板したのみで、その試合は1死も取れずに降板した。来秋ドラフト候補の小金井凌生(4年=日体大荏原)ら同期の投手陣が下級生の頃から活躍するのを横目に、昨年の大学選手権はスタンドで「なんで俺はここにいるんだろう。応援は楽しいけど、もうしたくない」と唇を噛んだ。ラストイヤーの今年こそは、殻を破ってみせる。
再び全国の舞台へ、新チームが向き始めた「同じ方向」
「個人の能力は高いし投手陣の枚数も揃っているけど、同じ方向を向いて一つにならないと勝ち切れない。イレギュラーな出来事を乗り越えるたびにチームの全員が同じ方向を向けている感覚はあります」と三浦監督。「トレーニングをやるより大事なこと。一定の成果はあったと思う」と手応えを感じていた。
また監督の立場では「選手とコミュニケーションを取る時間を大切にしなければチームは作れない」と再認識した。遠征期間中は試合時以外も選手一人ひとりと会話を交わし、心身の状態を確認しながら距離を縮めた。

4月の春季リーグ戦開幕に向け、台湾遠征に参加していない選手も含めた部内競争は激しくなる。その中で今年のチームカラーや合言葉を見つけ、全国の舞台に戻るべく結束力を高めていく。選手、指導者、スタッフが一体となって作り上げた台湾遠征が、次の物語の起点となるに違いない。
(取材・文・写真 川浪康太郎)
