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桐蔭横浜大学硬式野球部が猛スピードで成長を遂げた理由~挨拶と自主性~

おはようございます!

少し遠くの方にいた野球部員が、駆け寄ってきて挨拶をしてくれました。

この日、私が訪れたのは桐蔭横浜大学硬式野球部です。齊藤博久監督が、野球の指導をする中で一番大切にしているという挨拶。私のような初めて会う知らない相手であっても、みんなキャップやサングラスなどをはずして目の前にしっかりと立ち、視線を合わせてしてくれます。部員が元気に挨拶をしてくれるのは強豪校の特徴のひとつですが、ここまで丁寧にしてくれたのは初めてで感激したと同時に、自分自身の日々の挨拶を見直さなければという気持ちになりました。部員にその大切さを説くだけではなく、齊藤監督自身もきちんとするよう心掛けているそうです。

桐蔭横浜大学硬式野球部が神奈川大学野球連盟に加盟したのは、2006(平成18)年。最初は入部が決まった1年生7人での練習から始まったそうですが、創部1年目でリーグ二部から一部に昇格、さらに創部7年目の2012(平成24)年には全国大会の明治神宮野球大会で優勝し日本一を手にします。歴史が浅いながらも、プロ野球選手や社会人野球で活躍する選手を輩出。今回は、そんな桐蔭横浜大学硬式野球部に迫ります。


 

自分たちで考える

 

11月某日の朝。私はもうひとりの聞き手を伴い、桐蔭横浜大学硬式野球部が練習を行っているグラウンドにやってきました。スタンドに上がり見渡してみると、関大輔コーチの打つノックに、選手たちが大きな声で応えながら食らいついている姿が見えます。
 



 

このグラウンドは系列である桐蔭学園高校野球部と共用しているため、大学野球部は主に午前中に使用しているそうです。朝8時から12時頃まで練習を行い、片づけや昼食を済ませたあとはそれぞれ授業へと向かいます。授業は全員午後からのため、午前中にそろって練習のできる環境が整っています。

また、大学野球部の寮は2~4人部屋であることが多いですが、桐蔭横浜大の寮は1人部屋です。午前中に全員で集中してハードな練習を行い、午後からは学生の本分である勉強、そして通いの部員も含めて夕方以降はそれぞれの時間となる。自主性が重んじられるこのバランスが、桐蔭横浜大の強いチームの作り方なのでしょうか。

齊藤監督のお話からも、自主性を大切にしていることがよくわかりました。

「試合で使う選手や戦術は間違ってはいけないことなので、それをマネジメントするのは監督の仕事。それ以外は、データなど細かい部分まで部員が自分たちで話をします」

桐蔭横浜大では、投手・捕手・内野・外野・バッティング・バント・走塁それぞれにチーフと副チーフを置いているそうです。今のチームに足りないことは何かを常に考え、2週間に1度チーフミーティングを行い首脳間で意見を交換し共有します。このときも監督はそれぞれの考えを否定せず、確実に間違っているときだけ口を開くのだそうです。

 

また、チーフに選ばれるような選手は、もちろんその分野を得意としています。例えば健大高崎や東海大相模のような走塁を得意とする高校出身の選手を走塁のチーフに置くことで、チームの走塁技術はより効率良く高まります。各分野にチーフを置いているという話は以前から聞いていましたが、7つもの分野に分けていることやチーフの選び方など、組織として無駄のない仕組みに感心してしまいました。

今の強さの秘密は少しわかった気がしますが、創部後すぐに頭角を現したため「初めて聞いたような気がするけど、前からあったチームだっけ? え? そんな新しいチームなのにこんなに強いの!?」というのが最初の印象だった桐蔭横浜大。なぜ、創部当初から強さの片鱗を見せていたのかが気になるところです。
 


 

と思っていたところ、なんと偶然1期生で主将だった森田さんが母校を訪れており、お話を聞くことができました!

 

ゼロから“築く”

 
初めての練習は7人。桐蔭学園高校から入部が決まったメンバーでした。ゼロからのスタートで、やること全てが桐蔭横浜大の歴史の初めてとして刻まれます。1年生しかいないので、他校では先輩に教えてもらうことも自分たちで考えてやっていかなければなりません。森田さんたちは“築く”を合言葉に、一つひとつ自分たちで考えて進んでいきました。

当時のことを思い出しながら話す森田さんと齊藤監督。今は立派な社会人となった教え子に視線を向ける齊藤監督の優しい笑顔に、こちらも温かい気持ちになります。

「こいつ、夜中に真っ暗な中ひとりで練習しているんだよ(笑)」

と齊藤監督。その理由を森田さんに聞いてみると、

「夜中、シーンとしている中でやると研ぎ澄まされるっていうか(笑)。当時は、革命を起こしてやろうという気持ちでやっていたんですよね。練習はきつかったけど、強くなりたかった」

強くなるためならときついメニューも積極的にこなし、さらに自分たちで考えてより充実した練習メニューを考えていきます。

 

 

「体幹メニューが本当にきついんですけど、これをすると練習に入りやすいのでやるようにしました。5分間に120球を一定の速度で打つ連ティーもきついのですが、3週間に1週打ち込み期間を作っていたのを2週間まとめてやったり。これをやると、体が生まれたての小鹿のようになるんですよ(笑)。大学の練習は本当にめちゃめちゃきつかったですね。高校時代はいかに手を抜いていたか。責任を持ってやらなければならなかったことも、きつかった理由のひとつです」

そんな森田さんの言葉に、齊藤監督も口を開きます。

「それが本当の練習。与えられたメニューをこなすだけじゃなく、自分たちで考えてやって磨くものだから。こいつらは試合でも、ピンチになっても動じないしベンチを見もしなかった(笑)。監督はよほどのことがないと出ていかない。円陣にも入らない」

当時から、選手たちの自主性を大切にしていた齊藤監督。与えられたことをやるのではなく自分たちで考えて決めることで、やる意味を理解して取り組むことができ中身のある練習になる。また、決めたからにはやらねばならないという責任感からやり遂げる力もつき、それは野球だけではなく社会に出てからも役立っているのではないか、森田さんの現在の仕事での活躍を聞いてそのようにも感じました。

 


 

新キャプテンは初の投手キャプテン 

 

現在、2018年の春季リーグ戦に向けて、新体制での練習が始まっています。今年は、桐蔭横浜大学硬式野球部史上初めての投手キャプテンが生まれました。千葉貴央投手です。齊藤監督は「投手のキャプテンは初めてだけど、練習は真面目にするし、千葉の言うことはみんな反発せず聞くと思う」と千葉投手に絶大な信頼を寄せており、今回の抜擢となりました。
 

木更津総合高校では1年生からベンチ入りを果たし、2年生のときはエースとしてチームを甲子園に導き1回戦も完投勝利を挙げた千葉投手でしたが、2回戦の1人目の打者を抑えたところで故障により降板。小さな頃から周囲の期待を一身に背負って活躍してきたエースは、この日を境に療養の日々を送ることとなりました。そして、野球を続けるかどうか迷っていた千葉投手をもう一度やる気にさせたのが齊藤監督でした。

「高3の夏に甲子園に行けなくて、それから1週間くらい部屋に引きこもっていたんです。野球を続けるかどうか迷いました。他の大学に決まりかけていたのに、怪我が悪化して行けなくなったりして…。でも、齊藤監督に誘ってもらって、もう一度怪我を治して投げているところをみんなに見せたい、という気持ちになりました」

そう千葉投手は話します。野球を始めた小学生の頃から痛みがあった右ひじは、筋肉を動かす重要な神経のひとつである尺骨神経が、ひじを曲げるたびに亜脱臼する状態でした。昨年4月には尺骨神経移行手術を受け、夏頃からキャッチボールを始めたそうです。そして、まだ痛みもありリハビリを続けている状態ではありますが、11月の練習試合では実に3年半ぶりの実戦登板を果たしました。

「楽しかったです! まっすぐは投げられない、でも打者を打ち取らなきゃいけない。打者との駆け引きが楽しかったですね」

そう話す千葉投手のはじけるような笑顔に、こちらもつられて笑顔になります。千葉投手自身の完全復活も楽しみですが、キャプテンとしての思いも聞いてみたいところです。

「ピッチャーがキャプテンをやるのはまれなこと。自分は怪我でプレーできていなかったのに選んでもらったので、監督さんやチームに恩返しをしたいです。ここのグラウンドは“人間を成長させる場”だという監督さんの教えがあり、それを一人ひとりが実践しています。勝ちを追及している組織ですが、監督さんの教えに対する責任感はみんなあります。ただ、怪我でプレーができていなくても、みんなを見ていてはがゆさを感じている部分もありました。能力を持っているのに環境のせいなどで生かせていない人や自分でその火を消そうとしている人がいる。そういう人が最大限能力を生かせるチームにしたいと思いました」

具体的にどんな方法で、みんなが能力を生かせるチームを作るのでしょうか。

「“競争力でチームを作りたい”と思っています。負けず嫌いな人が多いのに、それを出さない人が多い。もっと、なにくそ! という気持ちを前面に出すようにしていきたいです。それから、1軍と2軍の温度差があるとチームが強くなりません。入れ替えを激しくして、2軍を認めてあげることも必要だと思います」

千葉キャプテンは、しっかりとした口調で具体的な策をあげていきます。

「今まで春と秋のリーグ戦後に1週間紅白戦をやって、1軍2軍を分けていました。リーグ戦後の2回しかチャンスがなかったんです。それを毎週土日にオープン戦を入れて、その結果で入れ替えるようにしました。すると、2軍のモチベーションが上がりました。2軍を集めて、『チャンスがあるからな』と話し、頑張っている人がいたら監督さんに言うようにしています」

 

 

成長を感じている選手を聞いてみると、須永悦司投手(桐蔭学園・3年)をあげました。

「須永は190cm、100kgで150km/h投げるんですよ。実力はあるのに試合で結果が出ていませんでした。でも2017年に入って競争が激しくなって、結果を残すようになりました」

何を聞いても順序立ててしっかりと話す千葉投手、とても説得力があり「千葉の言うことなら反発せず聞く」と齊藤監督が言うのも頷けるなと感じました。野球の話以外でも、オフのアルバイトの話では「いろいろな経験をした方がいいから」と様々な職種を経験、その中でもどの店舗の店員も元気で丁寧な接客をする某アパレルメーカーで働いたと聞き、さすが千葉投手と感心、趣味はスノーボード、シーバス釣り、そしてゴルフ。ゴルフが趣味だなんて大人、さすが千葉投手。

もう最後にはどの話を聞いても、「さすが千葉投手」という感想しか出てこないくらい、視野が広く頼りがいのあるキャプテンだということがわかりました。そんな千葉投手を先頭に、自分たちで考え自分たちでチームを作っていく桐蔭横浜大学硬式野球部が、2018年どんな戦いを見せるのか。春のリーグ戦では、ぜひ球場でその姿を観てください。迫力あるスタンドの応援も要チェックです!

桐蔭横浜大学硬式野球部のみなさん、ありがとうございました。

 

桐蔭横浜大学硬式野球部HP
http://baseball.toin.ac.jp/

 

神奈川大学野球連盟HP
http://www.kubl.jp/index.php

 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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