秋の仙台六大学野球を制した仙台大、全勝優勝までの道のりと際立った3年生の奮闘
仙台六大学野球秋季リーグ戦は、仙台大の2季ぶり8度目の優勝、そして9季ぶり3度目の全勝優勝で幕を閉じた。かつては1989年春から2005年秋まで34季連続優勝するなどした東北福祉大の「一強」時代も長かったリーグだが、近年は仙台大がライバル校として実力をつけてきている。再び頂点に返り咲いた今秋の戦いぶりを振り返る。
光った投手力と森本吉謙監督の「采配力」
今秋はチーム防御率0点台を記録した投手陣の奮闘が光った。中でも、昨春から「二枚看板」を張る左腕・長久保滉成投手(4年=弘前学院聖愛)と右腕・川和田悠太投手(3年=八千代松陰)は抜群の安定感を誇った。長久保は捻挫で出遅れるも第2節から復帰すると、先発、中継ぎでそれぞれ3試合ずつ登板し、25回3分の1を投げ防御率0.36。川和田は先発4試合を含む5試合でマウンドに上がり、30回を投げ防御率0.90、奪三振はリーグトップとなる34を数えた。
中継ぎ陣では、今秋リーグ戦デビューを果たしたジャクソン海投手(3年=エピングボーイズ)が飛躍。オーストラリアから「逆輸入」で日本にやってきた右腕が、140キロを超える速球とキレのあるスライダーなどの変化球を武器に相手打者を圧倒し、3試合を投げ無失点と結果を残した。他にも高い奪三振率を誇る濱崎鉄平投手(3年=土浦三)や、左で150キロ超のストレートを持つ渡邉一生投手(1年=日本航空/BBCスカイホークス)らが起用され、存在感を示した。
一方の野手陣は開幕戦の宮城教育大戦こそ12得点を挙げたが、その後は絶好調とは言えない状態が続いた。特に第3節の東北工業大1回戦では6回まで3安打1得点と打線が沈黙。7回に勝ち越し勝利したものの、重苦しい雰囲気が漂った。昨春7本出た本塁打も最終節を迎える前までは2本(うち1本はランニング本塁打)と、爆発力も欠いていた。
それでも、森本吉謙監督は毎試合のように打線のテコ入れを行ったほか、積極的な代打起用も敢行し、各打者の調子や投手との相性を見極めた采配で白星を取りこぼさなかった。
選手もその期待に応え、主に1番に座り盗塁王を獲得した川島優外野手(3年=山村学園)、中軸を担った三原力亞外野手(3年=聖光学院)、坂口雅哉捕手(3年=八王子学園八王子)の三人は3割を超える打率をマークし牽引。4年生の小笠原悠介内野手(4年=北海道栄)、伊井大稀内野手(4年=尽誠学園)は要所で勝負強さを発揮し、代打では石丸未来人捕手(3年=東北)や中筋大介捕手(4年=旭川大高)がチームを盛り立てる打撃を見せた。
全勝同士の対決となった東北福祉大1回戦ではエース長久保が8回1失点と好投し、打線も13安打2本塁打8得点と機能。ようやく投打がかみ合い先手を取った。2回戦は接戦を制し、無傷で頂点へ。苦しみながらも、全員の力で戦い抜いた。
エースの「1.25倍」練習してきた男・川和田悠太の成長
今秋はラストシーズンを迎えた4年生がチームを支えたのはもちろん、戦力的には川和田、坂口、三原がベストナインに選出されるなど3年生の貢献度が高かった。
川和田は2年春から先発として実績を残してきたが、その2年春には大きな悔しさを味わった。今秋と同じく勝てば優勝が決まる東北福祉大2回戦で先発し、無失点投球ながら7回途中で降板。後続が打たれ逆転負け、チームは翌日の優勝決定戦にも敗れた。この時、「福祉大相手に9回まで投げ切る体をつくる」と心に誓った。
それ以降、重い錘(おもり)を使ったスクワットに継続的に取り組むなどし、体力を強化してきた。この秋は開幕投手を務めると、東北学院大2回戦では9回3安打12奪三振1失点と快投。終盤に入ってもストレートの球速が落ちず、奪三振を量産できたことで手応えをつかんだ。その勢いのまま、翌週の東北福祉大2回戦では6回まで無安打投球を続け、9回、138球を投げ切り1失点。優勝をたぐり寄せる力投を見せた。
川和田の成長を加速させたのは、絶対的エース・長久保の存在だ。川和田は長久保について、「刺激をもらいまくっています。長久保さんが練習している姿を見たら、自分ももっとやらなきゃと思う」と話す。「長久保さんの1.25倍練習する」とのテーマを設定し、体力に限界を感じた日も無理矢理体を動かした。次は、自らがエースの座を狙う。
強力投手陣を支える坂口雅哉に芽生えた正捕手の自覚
豊富な投手陣をリードしたのは、今春から正捕手を務める坂口。春、秋ともに全試合で先発マスクをかぶった。
秋に向けては正捕手としての意識がより高まり、「『受ける相手が4年生だから何も言えない』というのはなくし、お互いに話しやすい環境をつくりたい」との思いで、長久保や佐藤亜蓮投手(4年=由利工)とは日頃から積極的に会話することを心がけた。ブルペンで球を受け投球についての話をするのはもちろん、食事に行ったり、寮の風呂場で日常会話を交わしたりする機会を増やすことで、「何でも言えるし、何でも言ってもらえる」関係性を築いてきた。
技術面でも攻守ともに成長が垣間見えた。キャッチャーメニューに改良を加えたことで守備力が向上。ピンチの場面でもストライクからボールになる変化球を要求できるようになるなど、配球の幅が広がった。打っては5番や6番を任され、勝負強い打撃で投手陣を助けた。「ピッチャーがずっと頑張ってくれていたので、なんとか優勝できてホッとしている」。その表情は充実感に満ち溢れていた。
不振でも「チームの顔」で居続けた辻本倫太郎が、東北福祉大戦で見せた意地
3年生の活躍が目立つ中、大学日本代表にも選ばれた逸材・辻本倫太郎内野手(3年=北海)は打撃不振にあえいだ。序盤は「ゴロでアウトになるより、打球角度を上げて長打を狙う」ことを意識してバットを振ったが、タイミングが合わず外野フライに倒れる打席が続いた。
森本監督が「小さくならず、どっしりと構えてホームランを打ってもらおう」との考えで初の4番に抜擢した東北学院大1回戦も、5打数無安打。この試合を終えた時点で打率0割8分(25打数2安打)、0本塁打、0打点と結果は出ないままだったものの、「(調子が上向くのは)タイミング次第」と捉え、大きく変えることはせず自分のスイングを貫いた。
不振の期間も「自分はチームの顔。打てなくて落ち込んだり、他のことを疎かにしたりすることは絶対にしてはいけない」と自らを律し、モットーである全力疾走は怠らず、道具の片付けなどにも率先して取り組んだ。また元々は「背負い込むタイプ」だというが、3年生のチームメイトから掛けられた「福祉大戦では倫太郎が助けてくれるから、今は俺らが助けよう」との言葉に救われた。
東北学院大2回戦で左右に二塁打を飛ばし復調のきっかけをつかむと、東北福祉大戦では1回戦の初回にチームを勢いづける先制3ラン。2回戦では8回に好走塁で同点のホームを踏み、10回には決勝点につながる犠打を決めた。遊撃の守備でも好守を連発し、まさに仲間の期待に応える活躍ぶりで勝利に貢献した。
仙台大は2年連続の明治神宮大会出場を目指し、10月29、30日には東北福祉大、東日本国際大、青森大と代表1枠を争う東北地区代表決定戦に臨む。昨秋は国学院大に敗れ初戦敗退。雪辱を果たす準備は整った。
(取材・文・写真 川浪康太郎)