岡山から、新たな野球の可能性を追い求めるショウワコーポレーション
広尾晃のBaseball Diversity
ショウワコーポレーションは、岡山県美作市を本拠とする社会人クラブチームだ。近年、クラブの大会だけでなく、社会人野球としても名前を聞くようになった注目のチームだ。
亀澤恭平氏が監督に
今から30年前、岡山県久米郡柵原(やなはら)町にできた「柵原クラブ」がその始まりだが、イベント関連の人材派遣会社ショウワコーポレーションがスポンサーとなり、クラブチームとして活躍。
2021年からはソフトバンク、中日で活躍した亀澤恭平氏を監督に迎え、2023年には愛知県の矢場とんブースターズを下して全日本クラブ野球選手権大会で初優勝を飾った。
プロ野球入りを断念したチームプロデューサー
このチームをマネジメントする長友悠司硬式野球部プロデューサーは、高校時代にはプロも注目する有名選手だった。
「岡山理大附属高校時代、2000年の夏の甲子園に出場して1回戦で東海大菅生を破って2回戦まで進みました。このときは一塁を守って4番でした。プロのスカウトの方にも注目されて、4球団くらいから声をかけていただきました」
このとき、長友氏はまだ1年生だったが、打者として注目された。以後、甲子園出場の機会はなかったが、3年生になった2002年秋のドラフト会議ではプロ注目の選手になった。しかしこの年のドラフトで長友氏の名前が呼ばれることはなかった。
「怪我をしてしまったんです。2年生秋に右肩を怪我してしまった。僕は右投げの野手でしたから、これは致命的でした.。実は、右肩に異状を感じてから10か所くらい病院を回ったのですが、高校時代はどこを怪我したのかわからなかった。でも、試合で満足にプレーできない日が続いて、スカウトの方にプレーできないので、と話して指名を辞退したんです」
東海大学に進み硬式野球部に入る。ここで初めて「右肩脱臼」が分かった。
「東海大学に行って、横浜ベイスターズ専門病院の藤が丘病院にいって『脱臼してるよ』って言われて手術したんです。病院を紹介してくれたのはベイスターズのスカウトさんで、以後もずっと追いかけてくれたんですが、手術を受けても打撃はともかく、守備は厳しい。DHならできるけど、ということだったのですが、それではプロは難しいと言うことで、野球をあきらめたんです」
「野球への思い」消えず
長友氏は実家の仕事を手伝いながら、芸能プロダクションの仕事も手掛けるようになったが、その一環でスポーツ選手のマネジメントをするようになった。
「野球選手は12月1日から翌年の1月31日まで、球団の管理下から離れます。その期間にテレビやイベントに出るために、球団とは別のプロダクションと契約するんですが、そういう形でプロ野球選手やプロゴルファーとのつながりができたんです」
長友氏の「野球への思い」は、まだ消えていなかった。
地元県美作市の人材派遣会社ショウワコーポレーションが、柵原クラブのスポンサーになり、チームの運営をしていたが、長友氏はそのプロデュースを担当することになったのだ。長友氏はショウワコーポレーションに、元プロ野球選手を派遣することになった。
「ショウワコーポレーションの有元稔社長が、野球がめちゃくちゃ好きな方で、チームを強くしたい、いい選手を作りたいと言う情熱を持っておられるので、2022年、中日を引退した亀澤恭平を指導者として紹介しました。
さらに、元プロ選手も派遣して、彼らを核にチーム作りをすることにしたんです」
変わりつつある社会人野球
日本野球連盟の「登録規定」には
日本プロフェッショナル野球組織構成球団の選手経験者を競技者(選手)として登録する場合は、1 チーム 3 名以内とする。
というルールがある。元プロ野球選手は3人しか登録できない。
長友氏は、元楽天投手の髙田萌生、引地秀一郎、福森耀真の3人を「プロ枠」で獲得した。
亀澤監督と「元プロ」の3選手は、長友氏の会社と契約し、ショウワコーポレーションに派遣される形をとっている。
それ以外の選手は、ショウワコーポレーションの社員として、会社の仕事に従事する傍ら野球を続けている。
以前の社会人野球は「従業員が仕事をしながら野球をする」形だったが、最近は、様々な形態のチームがある。ショウワコーポレーションのスタイルも、新しい形のチーム編成になっていると言えよう。また元プロ野球選手からすれば、こういう形で野球を続けながらの「セカンドキャリア」が開けているともいえよう。
「トラックマン」を導入
今年、ショウワコーポレーションは、弾道計測器「トラックマン」を購入した。「トラックマン」は、「パトリオット」などミサイルの追尾システムを応用し、投球、打球の軌道や回転数などをオンタイムで計測し、データ化することができる。
同様の機器に「ラプソード」がある。「ラプソード」も同様にボールの軌道や回転数などを計測してデータ化できるが「ラプソード」は基本的に「投手と捕手の間」に設置するため、ブルペンなどでの練習用で、試合では原則として使用されていない。
しかし「トラックマン」は、バックネット裏から計測できるので、試合や試合形式の練習でも使うことができる。
ただし「ラプソード」は数十万円程度から購入できるが、「トラックマン」は数百万円以上と非常に高価だ。
しかし、長友氏はチームの将来を考え、ショウワコーポレーションとして「トラックマン」の購入を決めた。
そして、この先進の機器を「トラックマン」野球部門の責任者である星川太輔氏から購入。また打者でのデータの測定用にバットのグリップに装着する「ブラスト」も購入した。
ただ、こうした先進の機器は「ただ持っている」だけでは、意味がない。使いこなしてデータを解析してプレーに役立てる必要がある。
そこでこの機器を使いこなすために、星川氏から立命館大学大学院生で、学生アナリストとして活躍する田原鷹優氏を紹介された。
田原氏は、3か月間、定期的にショウワコーポレーションに出向いて、機器の使い方、データの見方などを亀澤監督をはじめ、コーチ、選手にレクチャーした。
「すごく理解が早くて、データを有効に活用してくれる。亀澤監督も『こうすればいいんじゃないか』と一緒に考えてくれる。すごくいい環境だと思います」田原氏は語る。
大企業を越えたデータ化
社会人野球では大企業傘下であっても、先進機器を全く使っていないチームがある。そうした知識も持たず、昔ながらの練習を続けているチームもある。
データ野球を導入しているチームでも「ラプソード」が大部分で、「トラックマン」を使用しているのは、ごく少数の大企業チームだ。
そんな中でショウワコーポレーションは、革新的だと言える。
長友氏は語る。
「僕は、チームを支援してくださるスポンサー集めもしますし、プロへの選手の輩出へ向けて優秀な選手もスカウトします。地元美作市も室内練習場を使わせていただくなどのご支援をいただいています。企業と、チームと、地元のご支援があって成り立っています。
チームは社会人野球のクラブチームですが、僕の認識としては独立リーグのチームみたいな感覚もあります。自分たちの力で勝って、いい選手を送り出して、アピールしていきたい」
長友氏は少年野球の岡山中央ポニーリーグ、ライオンズ岡山ポニーも運営している。
「野球好き」のマインドで
社会人野球は、企業チームが減少する傾向にあり、ドラフトでの選手指名で独立リーグに負けるなど厳しい環境が続いている。
こうした状況に風穴を開けるのは、前例にとらわれず積極果敢に活動するショウワコーポレーションのような、新興チームだ。彼らは何より「野球好き」でもある。
今後の活躍に注目したい。