アイスホッケー・横浜GRITSが東京辰巳アイスアリーナで公式戦開催「日本アイスホッケーの未来のために」
アイスホッケー(IH)・アジアリーグ(AL)では初となる、東京都区内(23区内)での公式戦が開催された。横浜GRITSのホーム試合(vsレッドイーグルス北海道)が行われたのは、『東京辰巳アイスアリーナ(江東区)』。かつての東京辰巳国際水泳場が生まれ変わった場所で、氷上の熱い戦いが繰り広げられた。

~新横浜と辰巳では使用目的が異なる
2月14-15日の2日間、AL・横浜GRITS(GRITS)が『東京辰巳アイスアリーナ(辰巳 IA)』で公式戦を行った。「この2日間は大きな経験になりました」と同クラブ代表・臼井亮人氏は熱く語ってくれた。
「東京都内のアクセスに優れた場所なので、『いつか使用できれれば良いなぁ…』くらいの感覚でした。さまざまな条件やタイミングが合い、東京都IH連盟様の尽力もあって、開催できることになりました。ALにおける初開催ということも、我々にとって大きなモチベーションになりました」
2025年9月、辰巳 IAが誕生した。1993年の開館から水泳で多くの名勝負が繰り広げられた、『東京辰巳国際水泳場』が改修されて出来上がった箱。2021年の東京五輪では水球会場になった同所だが、日本スポーツ界のレガシーを有効利用する形で生まれ変わった。
「実際に使うとポジティブな意見ばかりが出ました。観客席には角度があって氷上の試合が見やすい。また場内照明も明るく、演出用のビジョンが2つあるのも興行に適しています。改修により細部まで綺麗になっているのはもちろん、車椅子用エレベーター等のバリアフリーに対応しているのも素晴らしいです」
観客席は固定の約3,600席に加え、仮設形式で約1,400席の追加も可能。普段、使用するKOSE新横浜スケートセンター(新横浜)の収容人数が約2,500人であり、かなり大きな箱だということがわかる。

「ゴール裏には広いスペースがあり、キッチンカー等を入れることができます。観客の方は試合観戦のみならず、飲食も含めた全てがアリーナ内で完結できる。試合前後のイベント開催もできると思うので、今後はいろいろと試してみたいです」
人気回復に取り組むIH界だけに、快適な観戦環境を提供するのは何よりも重要。そして、「新規ファン獲得に繋がる立地だとも感じました」と続ける。
「辰巳 IAから少し行った場所には、大規模な住宅街(マンション等)があります。今回、試合前に“スケート体験”を開催しましたが、興味を持って参加してくださる方々が想像以上の数でした。新規ファンを開拓することにも繋がりますので、今後の開催も考えたいとは思います」
辰巳 IAは立地を含め素晴らしい箱なのは間違いない。しかし、「ホームは横浜です」と付け加えることも忘れない。
「地元ファンの方々からも、『横浜からは少し遠く感じる』という意見もいただきました。辰巳 IAを今後も使用するとなれば、“イベント”や“お祭り”的用途になるのではないでしょうか。チームやIH界を盛り上げるための有効活用をしたいです」

~辰巳 IAでは普段以上にアグレッシブな戦いを目指す
「アイスホッケーに関わっている立場からすると、辰巳 IAができたことは本当に喜ばしいです」と、GRITS岩本裕司ヘッドコーチ(HC)は嬉しそうに話し始めた。
「『東京五輪が終わったらスケートリンクになる』とは聞いていました。『フィギュアスケート中心では』と思っていたので、IHも使用できることになって嬉しかった。特に氷の質は本当に素晴らしいものです。もちろん更衣室等も綺麗で、使い勝手が良いです」
「実際のプレーに関して言うと、新横浜と感覚が異なるので慣れる必要がありました。辰巳 IAの観客席はベンチの後ろにしかないので、声援の聞こえ方が異なります。観客席もかなり高い場所まであるので、氷上に立つ選手はプレー感のアジャストが必要でした」
HCの立場では、「試合に勝つことはもちろん、新規ファン獲得のために工夫する部分もある」という。「普段以上にアグレッシブな試合を目指す」と断言してくれた。
「GRITS戦を初めて観る人もいると聞きます。勝敗は時の運もありますが、アグレッシブな姿勢だけは感じてもらいたい。選手にもそういう試合をやってもらいたいので、メッセージを込めた選手起用を考えました。『GRITSって攻撃的で面白い』と思ってもらえれば、また会場へ来てくれると思いますから」

~激しい試合を続け、辰巳 IAを超満員にしたい
岩本HCのメッセージは選手にも伝わっている。「ガツガツ行くのが僕の持ち味。IHの魅力である激しいプレーを体現して、面白いスポーツだと感じて欲しい」と、鈴木ロイは即答してくれた。
「辰巳 IAの存在はチャンスだと思います。IHは国内でマイナー競技なので、話題があれば何でも活用したい。僕達が熱い試合を続ければ、興味も持ってくれると思います。ミラノ・コルティナ冬季五輪では女子代表・スマイルジャパンが大きく取り上げられました。『ALは面白い』と感じてもらえるようにしたいです」
「東京都内にできた素晴らしい箱を、GRITSが使用する機会に恵まれました。今回は多少の空席もありましたが、僕達が熱狂を生み出して、スタンドを満員にできるようにしていきたい。『辰巳 IAは良い箱だけど、IHでは埋まらない』と思われないように、面白いプレーをしないといけません」
GRITSは、新横浜では常に満員近い観客を動員している。しかし辰巳 IAを埋めるまでに至っていないことは、氷に立つ選手が1番理解している。鈴木は、「プレーを通じてIHの魅力を伝えたい」と力説する。
「東京出身なので、都内にアイスアリーナができたことは素直に嬉しい。だからこそ、辰巳 IAを超満員にしたい気持ちが強くなりました。チーム全体で激しいプレーをして勝利を目指す。個人的にはFWとして身体を張り、全力プレーを続ける。1人ひとりが強い思いを持ってプレーすれば、観ている人にも伝わるはずです」

~強くなることで、クラブは次のフェーズに進める
「観客数はコンスタントに増えています。しかし勝たないことには、もう1つ上のフェーズには行けないと思います」と、臼井氏は今後についても語ってくれた。
「新横浜での試合は、ありがたいことに満員に近い状態が続いています。コンパクトな箱でリンクとの距離が近いこともあり、IH観戦には最高の環境が作れつつあると思います。しかし辰巳 IAのような、大きなサイズを埋めるまでには至っていません」
「辰巳 IAは本拠地・横浜から距離があることもm埋まらなかった理由の1つだと思います。しかしGRITSが文字通りの“強豪”で、魅力ある試合を継続していれば埋めることは可能だと思います。プロとして、『強くなって、勝たないといけない』と痛感しています」
「観戦環境が良くても、(観客は)負ける試合は観たくないはずです」と、ファンの本音を把握しているのが心強く感じる。
「チーム力も上がっていますが、AL優勝するまでには至っていません。でも決して諦めずに最後まで戦い抜くことだけは、選手・スタッフで徹底しています。GRITSというチーム名を背負っている、我々の宿命でもありますから」
辰巳 IAでの公式戦開催は、GRITSの現在地を改めて教えてくれたように思える。これまで同様、リンク内外において地道に前進を続けるしかない。

「いつの日か、横浜に自前のアイスアリーナを持つのが夢。辰巳 IAより大きな箱を埋められるような、地力のあるクラブになりたい」
GRITSが描く大きな夢は、日本IH界の明るい未来にも直結する。スピード、テクニック、激しさを備えた素晴らしい競技が、日本で再び燃え上がる日を待ち望みたい。
(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・横浜GRITS)
