【SEAdLINNNG(シードリング) 海樹リコ】練習についていけず毎日泣いていました
高校卒業後、SEAdLINNNGに入団しデビューを目指すも、2020年3月以降はコロナ禍で大会中止・外出自粛などままならない日々が続いた。それでもリコは諦めることなく、一人道場で汗を流す。そして2020年7月13日後楽園大会、藤本つかさ戦でデビュー。リングネーム『海樹リコ』、「SEAdLINNNGのテーマでもある海を超えて活躍するような選手になって欲しい、そして苗が大きな樹になるように」という想いが込められている。2023年6月BEYOND THE SEA Tag王座を初戴冠。(取材・文/大楽聡詞 写真提供/SEAdLINNNG)
高橋奈七永vs中島安里紗戦に衝撃。入団後、力不足を痛感
リコは2001年12月17日生まれの21歳。山口県下関市出身。両親、長女のリコ、妹、弟の5人家族。子供のころは、これといった趣味やなにかに夢中だった記憶もなく、ごくごく普通の女の子。そんなリコが、なぜプロレスに目覚めたのだろうか?
「高校1年生の冬に動画配信サイトでたまたま観た女子プロレスが高橋奈七永vs中島安里紗戦でした。その試合を観て女子プロレスに興味が湧きました。
その頃、サッカーやバスケットボールをしていたけど辞めて、レスラーを目指し自己流で筋トレを開始しましたね」
中島安里紗が所属しているSEAdLINNNGの存在を知り、両親に「高校辞めてSEAdLINNNGに入りたい」と訴えるも、「学校を途中で辞めるやつがプロレスラーになっても長続きしない」と反対された。
2019年3月リコは高校を卒業した2日後、はやる心を抑え上京。1日でも早くプロレスラーとしてデビューするため、練習生としてプロレスに没頭。
「東京の街は華やかだけど、何かを楽しむために来たわけじゃない。ただただプロレスをやりたくて来ただけなので、特に変わったことはなく毎日練習に励みました」
だが入団してすぐに壁にぶち当たる。レスラーを目指して自分なりに体力作りをおこなってきたが、SEAdLINNNGのトレーニングは比べものにならないほど過酷だった。
「自分でやっていたこととSEAdLINNNGの練習が全く違っていました。ついていけなくて、悔しくて毎日泣いていました。先輩たちと自分が全く違うのはわかっているんですけど、自分なりにやってきたと思っていたので」
コロナ禍で、なかなか決まらないデビュー戦
リコがSEAdLINNNG入団した翌年2020年はコロナ禍で興行が次々と中止になり、対人での練習もできなくなった。道場で孤独と戦いながら、一人で練習していたリコ。
高校を卒業したばかりの少女は何度も何度も挫けそうになった。だが久々の合同練習で、腕立て伏せができるようになり「あ、できた!できるんだ!」と、日々積み重ねてきた自主トレーニングの成果を実感した。
しかしトレーニングを重ねてもコロナは収束せず、デビュー戦が決まらない。デビューに漕ぎつけたのは2020年7月13日後楽園大会。対戦相手は2018年女子プロレス大賞の藤本つかさ(アイスリボン所属)。
待ち望んでいたデビュー戦だったが、その時の映像をリコは恥ずかしくて観ていないそうだ。
「試合中はとっさに思いついたことをやるので、鮮明に覚えているわけではない。走って入場してリングに『よっしゃ!』って駆け上がって。ゴングが鳴ってドロップキックして、みたいな感じで断片的に覚えています」
2023年7月でデビュー3周年。ライバルの存在
今年7月でデビュー3周年。「『3年が勝負』ってよく言われていました。2022年12月18日後楽園大会で、キャリア4年以内のジュニア選手対象のプリンセス・オブ・プロレスリング王座(POP王座)のベルトを獲ることができた。結果を残せて嬉しかったです。でも、今年4月の後楽園大会、3度目の防衛戦で大空ちえ(PURE-J女子プロレス所属)に負けて、タイトルを落としました。ちょっと…やばいなって思っています」と心境を語った。
リコはプロレス歴3年とは思えないレベルの高い動きと強い気持ちでリングに上がる。それが顕著に表れた試合が、5月16日の新宿FACE「Sareee-ISM」で戦った岡優里佳(センダイガールズ)との10分1本勝負シングルマッチ。結果は時間切れ引き分けだったが、10分があっという間に感じる展開の試合だった。
岡優里佳は、2021年デビュー3年未満の8名がエントリーしたセンダイガールズプロレスリング主催の「じゃじゃ馬トーナメント2021」の2回戦の相手。その時、リコは岡に敗れ予選敗退を喫した。
「(岡優里佳と)5、6回シングルマッチで戦って、自分が勝ったのは1回だけなんですよ。岡選手が持っていたセンダイガールズワールドジュニア王座を賭けて戦ったこともあったし、岡選手の復帰戦もやらせていただきました。ただその復帰戦しか勝ってない。しかしPOP王座やBEYOND THE SEA Tag王座も獲得し力をつけました。シードリングを背負っている自負もある。5月16日の新宿FACEでは時間切れでしたが、次は勝つ自信があります。岡選手は、キャリアが私より一つ上ですが、本当にライバルだと思っています」
双子?笹村あやめ(2AW)とのタッグ「リトルツインベリーズ(リトベリ)」
現在、リコのタッグパートナーは笹村あやめ(2AW所属)。タッグチーム名「リトルツインベリーズ(リトベリ)」。
「デビューした時から『笹村選手に似てるね』と言われるけど、私自身もそう感じています。笹村さんには本当に申し訳ないけど(苦笑)。でも、試合会場で会うときも、たまたま髪色が一緒だったりとか、インナーカラーが偶然2人とも同じ色だったり。真似したわけじゃないのに。シンクロニシティがよく起きるんです」
その海樹&笹村は2023年4月30日後楽園大会、BEYOND THE SEA Tag王座次期挑戦者チーム決定戦で、中島安里紗(SEAdLINNNG)&彩羽匠(マーベラス)に勝利し、次期タッグ王座挑戦者チームとなった。
「安里紗さんと彩羽選手が強いのはわかっています。安里紗さんとは毎日一緒に練習しています。でもスパーリングで勝ったことがなかった。彩羽選手は初対戦だったけど、蹴りを主体に攻めてくるのはわかっていた。実は初めて会場で観たプロレスの試合が王者・彩羽匠vs挑戦者・中島安里紗のタイトルマッチ。『この2人と試合できるんだ』っていう嬉しさもありました。でも今回はタイトルマッチに繋げるための戦いです。ずっとタッグ王座を獲りたくて、どうやって自分たち2人で勝てるかを考えました。タッグ王座の挑戦権がかかっている。ここで負けたら、また這い上がっていかなきゃいけないと思って、この一戦にかけました。だから勝てて本当に良かったです」
リコは死ぬほど痛かったという彩羽の強烈な蹴りを跳ね返し、挑戦権を手にした。その6.28新宿FACE大会のBEYOND THE SEA Tag王座前哨戦として、5月25日新木場1stRINGで朱崇花vsリコとのシングルマッチが行われた。
「前哨戦も大事ですが、個人的には朱崇花さんとのシングルマッチがすごく大切だなって思っています。簡単にSEAdLINNNGで組まれなかったし、他団体でも組まれることがない。去年の7月に自分の2周年興行があった時に『朱崇花選手と戦いたい』って言って、初めて組んでいただいたんです。その時の試合は第1試合とメインの2試合に出場。緊張して『何をしたらいいんだ?』って考えすぎて、結局なにもできなくて不甲斐ない試合になってしまいました」
リコ&笹村(リトベリ)がBEYOND THE SEA Tag王座を初戴冠!
そして迎えた6月28日新宿FACE。リトベリは王者・朱崇花&真琴組(ラスエゴ)の持つBEYOND THE SEA Tag王座に挑戦。
キャリアで勝る王者組の攻撃の前になす術もなかったリトベリだが、リコが一瞬の隙を突いて真琴からフォール勝ち。リトベリが第12代BEYOND THE SEA Tag王者に輝いた。
試合後、マイクを握ったリコは「真琴&朱崇花からタッグベルトを取ったぞぉ。去年の9月、初めてこのベルトに挑戦しました。結果はボロボロ。今年、再戦のチャンスが来て、この間の前哨戦は2人とも惨敗。でも今日この2人だったからこそ、このベルトを2人で巻けたと思います」と話した。
そして対戦した朱崇花と真琴に向けて「本当に優しく、そして厳しく沢山の愛をありがとうございました。2人から学んだ事を全部自分達吸収して、自分達がこのSEAdLINNNGタッグ盛り上げていきます。ありがとうございました」と感謝を口にした。
パートナーの笹村も「あの2人(朱崇花と真琴)から取ったからには、このベルト、2人で価値を高めて、もっともっともっともっと2人ででかくなってSEAdLINNNGを守っていきます」と語った。
ベルトを奪取し王者になったリコ。だが他団体からの挑戦者が名乗りを挙げるのも時間の問題。コロナ禍でデビューし、朱崇花と真琴のラスエゴを破りBEYOND THE SEA Tag王者になった姿は「SEAdLINNNG」の旗を守る選手として頼もしく見えた。
今月デビュー3周年を迎える海樹リコ。5年後、10年後、彼女はどんなレスラーに成長するのか。その航海はまだ始まったばかりだ。
(おわり)