びわこ成蹊スポーツ大学で「日本野球学会第1回研究大会」開催される
広尾晃のBASEBALL DIVERCITY
2023年12月2日、3日、滋賀県大津市のびわこ成蹊スポーツ大学で「日本野球学会第1回研究大会」が開かれた。
野球科学研究会から野球学会に
日本野球学会は、野球競技の普及・発展に寄与するために、
(1)野球競技に関する科学的研究を促進すること
(2)会員相互および内外の関連機関との交流を図り親睦を深めること
(3)指導現場と研究者間での情報の流動性を高めること
を目的とした団体だ。会員相互の交流を図り、実践レベル、研究レベル、運営レベルなど、さまざまなレベルで討論を交わすことにより、上記の目的達成を目指している。
前身の「日本野球科学研究会」は、2022年まで、各地の大学で「研究大会」を9回開催してきたが、今回から日本野球学会と改称した。
「学会」はその分野の研究者、専門家などが集って研究成果を発表したり意見交換をしたりする場だ。「学会」と「研究会」には、大きな差異はないが「学会」の方が、より研究色が強く、専門性が高いとされている。
大学研究者、プロ、アマ関係者も
研究大会は2日間の日程で行われた。
今回のテーマは、温故知新の野球学 ~日本野球学会発足を迎えて~
会場には、大学の研究者、野球部の指導者などのほか、プロ野球関係者、スポーツメーカーの担当者、さらには高校の指導者や選手などが集った。早稲田大学、東京大学の大学院で野球に関する研究を行った桑田真澄氏、筑波大学大学院の修士課程を修了した千葉ロッテマリーンズの吉井理人監督、同じく筑波大学大学院で学んだ前DeNA二軍監督の仁志敏久氏など、著名なプロ野球選手も参加した。
12月2日のプログラムでは
キーノートレクチャー:「最新の気づきから野球の動きを考える」が行われた。
講師は古武術研究家の甲野善紀氏。この研究大会の実行委員長で、びわこ成蹊スポーツ大学の高橋佳三教授が座長、聞き手となって、「スポーツバイオメカニクス」と「古武術」の共通点、そこから導き出せる「よりよいパフォーマンス」についてユニークな研究成果が発表された。
地域創生と野球振興~これからの野球×ひと・まちづくり~
12月3日は、 本部企画シンポジウム:地域創生と野球振興~これからの野球×ひと・まちづくり~が開かれた。
シンポジストは、荒木重雄氏(ノッティングヒル社長、球都桐生プロジェクト)と沼座遼太氏( 廿日市市地域振興部スポーツ推進課 スポーツ推進係)。座長は勝亦陽一氏(東京農業大学教授)。
荒木氏は、元千葉ロッテマリーンズの執行役員事業本部長として、様々なマーケティング施策を展開した。さらに、侍ジャパン事業やパ・リーグマーケティング(PLM)の立ち上げにも参画した。その後は、「スポーツマーケティングラボラトリー」を発足させ、スポーツ情報アプリの運営を行う「スポカレ」を設立。2022年には故郷の桐生にスポーツマーケティング会社「ノッティングヒル」を創設した。
桐生市は「球都」を掲げる4都市の一つ。荒木氏は野球を中心とした街づくりを桐生市に提案し『球都桐生プロジェクト』を立ち上げた。2023年8月26日には桐生市の小倉クラッチ・スタジア厶で「東京六大学野球オールスターゲーム2023 in 桐生」を開催した。
荒木氏は、行政へのアプローチの仕方、市民を巻き込んだ「球都」の盛り上げ方など、プロモーションについて、何が大事なのかを説明した。
沼座氏は、広島の修道高校から早稲田大学野球部に進み、内野手として活躍。卒業後は広島東洋カープに職員として就職し、2019年に故郷廿日市市役所に転職し、スポーツ推進課でスポーツ振興の仕事に従事。「廿日市市女子野球タウン構想-全国の女子野球憧れの地に」事業を推進している。
「女子野球タウン」は、全国の13市町が認定されているが、廿日市市は2番目に指定された。廿日市市には3つの女子野球チームがあったが、これらのチームを核に「女子野球のすそ野拡大」「女子野球選手の競技継続できる環境」「すべての分野で女性が活躍できる社会」の3つのステップで事業を推進する。
また昨年には広島県、三次市、中四国女子野球連盟、広島東洋カープ、廿日市市の5者協議会を設立し、地域、プロスポーツ球団を巻き込んだ広範な取り組みを開始している。
野球の国際化~これからの野球×国際開発~
午後からは「十周年記念講演:野球の国際化~これからの野球×国際開発~」と題して、履正社高校女子野球部監督/侍ジャパン女子代表前監督の橘田恵氏、中京大学/中京大学女子ソフトボール部監督二瓶雄樹氏、アビームコンサルティング株式会社の横田直道氏が講演、座長を筑波大学准教授の川村卓氏が務めた。
橘田恵氏は、日本が女子野球で世界No.1であり、自分たちの勝利だけでなく、女子野球振興のために海外チームを受け入れたり、国際大会中に野球指導を行うなどの活動を紹介。競技の将来を担うためには競技レベルの向上、雇用の創出を行い、女子野球を「当たり前の文化」にすべきだと訴えた。
二瓶雄樹氏は、JICA大学連携事業で、アフリカに中京大学女子ソフトボール部員を伴ってソフトボールを通じた青少年育成活動を行った。場を清める(ゴミ拾い、グランド整備)、指導・実践、親善試合、交流という活動内容を紹介。そのうえで「強いニワトリがいなければ卵は生まれない」として、競技の強化と普及の両立を訴えた。
横田直道氏は、JICA野球指導者を経て読売ジャイアンツに入社、マーケティング業務を担当し、ニューヨークヤンキースにも出向。2022年からアビームコンサルティング株式会社に入社。1.野球はすでに国際化している2.野球は多様であり変化している3.全ては想い(ビジョン)から始まるとし、野球による国際化推進の重要性を説いた。
ポスター発表の充実ぶり
こうしたメイン会場での発表に加えて、日本野球学会では「一般研究発表」も行われた。通称「ポスター発表」。模造紙1枚のサイズに、1テーマでの研究発表を行う。
大学、一般企業の研究者、指導者などが研究発表をしている。今回は88ものテーマでの発表が行われた。
近年、目立つのが高校野球部による研究発表だ。今回は以下の18の発表が行われた。
・倉敷翠松高校「変化球の球速と被打率の関係について」
・広島県立祇園北高校「野村式ID野球を現代MLBデータ解析で再構築する」
・広島県立祇園北高校、武田高校、加治佐平(東洋大学)「メンタルを科学する:試合に臨むための本当の準備」
・岐阜県立大垣北高校「バスターの用いられ方の検討:一般的な打法と比較して」
・岐阜県立大垣北高校「理想とするマネージャーの在り方について考える:北高野球部が甲子園に行くために」
・岐阜県立大垣北高校「小学生の心身の発達と大垣北Jrベースボールラボ~活動のあるべき姿を考える」
・山形県立山形東高校「高校野球におけるデータ収集とその活用事例」
・鳥取県立米子東高校「高校野球における高めのストレートの有効性について」
・鳥取県立米子東高校「球速帯の変化と打球方向のちらばりについて」
・鳥取県立米子東高校「野球人口増加への取り組み:スポーツ少年団に着目して」
・鳥取県立米子東高校「サウナには心理的競技能力を向上させる効果があるのか」
・神奈川県立多摩高校「野球人口拡大に向けて、高校球児ができることは何か」
・神奈川県立多摩高校「中学校部活動の地域移行が、高校野球人口に与える影響についての一考察」
・神奈川県立多摩高校「二塁から本塁までの走路における二塁走者の最適なリードの位置はどこか:昨年度からの継続研究」
・立花学園高校「交代した選手の所に打球は飛ぶのか」
・立花学園高校「高校野球のマネージャーの仕事の現状とこれからの課題」
・東邦高校「高校野球3年生における夏の県大会後の体型変化の年度別比較」
・山梨県立甲府西高校「野球人口の減少と普及・発展に向けた取り組み」
88本の発表から、
・北海道大学大学院「学童野球人口のチームマネジメントの成果と課題:札幌白石リトルリーグを事例として」
・立命館大学大学院「野球のピッチングにおける様々な球種の回転効率と手部の姿勢との関係」
の2本が優秀賞に選ばれ
・筑波大学「国内一流野球選手の投球動作に関するキネマティクスの研究」
が最優秀賞に選ばれた。
また、
・立花学園高校の「高校野球のマネージャーの仕事の現状とこれからの課題」
が奨励賞に選ばれた。
特に高校部門のポスター発表は近年増加し「野球研究の甲子園」のような活況ぶりだ。野球を学問研究としてとらえる動きがさらに盛んになってほしいと思う。