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「謙虚に驕ることなく、人のために尽くす」 青森大硬式野球部トレーナー・木村征太郎さんが示す“裏方の矜持”

スポーツの現場に「裏方」の存在は欠かせない。彼らはどんな思いで選手を支えているのか。青森大学硬式野球部でトレーナー兼ピッチングコーディネーターを務める木村征太郎さん(28)は、「見返りは求めず、ただひたすら謙虚に驕ることなく、人のために尽くしています」と言い切る。それが裏方のあるべき姿なのかもしれないが、勝利を渇望するのは選手と同じ。木村さんの「僕は勝ちたいんです」という言葉にはより力が込められていた。

きっかけは高校時代「どうにか助けられないか」

木村さんがトレーナーを志したのは高校2年時の終わり頃。地元の群馬県立・伊勢崎商業高校野球部で投手としてプレーする中で、怪我に苦しむチームメイトを目にしたのがきっかけだった。怪我の影響で練習に参加できず、思い通りにプレーできないまま高校野球を終える同級生もおり、「こういう人たちをどうにか助けられないか」と考えた時にトレーナーという職業が頭に浮かんだ。

本格的にその道を目指し、体育大学である国際武道大学へ進学。野球部では、選手に専念した1年目を経て2年時から学生トレーナーに転向した。並行して各部活のトレーナーが所属する「トレーナーチーム」でも活動し、休日返上で専門知識や実践的なノウハウを身につけた。勉強すればするほど、現場で知識を使いたくなる。それでも「知識だけでは通用しない」と肝に銘じ、チームの方針に沿って動くことを徹底した。

国際武道大学野球部では体力測定の実施を提案した

そんな中、2年時には野球部での体力測定の実施を提案。当時野球部では、定期的な体力測定などは実施されておらず、企画立案から測定後のプランニングなど指導者陣へのプレゼンテーションを重ねた。指導者陣からは当初、ネガティブな反応を示されたが、「選手それぞれの長所と短所を見つけて、それぞれに合ったトレーニングをしてもらいたい。勝つためにやりたいんです」と説得した。

実施にこぎつけ、結果的に体が大きくなったり、パフォーマンスが上がったりする選手も現れて一定の手応えを得た。また、トレーナーチームで行ってきた大学内・外でのスポーツ医科学サポートを通じてデータを活用することに興味を持ち出し、その必要性を実感していった。

「数値だけではなく選手を見る」ために必要な人対人の対話

国際武道大学大学院でも学んだのち、トレーニング指導などを提供する株式会社ベストパフォーマンスに入社して2023年から青森大へ。以降はチームに常駐して選手を支えている。

青森大ではやはり、体力測定とそこから導き出されるデータを活用している。野球界にありがちな「みんな揃って同じことをする」トレーニングから脱却し、個別練習を最適化するのが目的。ピッチングコーディネーターとしても弾道計測器「ラプソード」の数値をもとに投手に助言を送る。一方、データ以上に大切にしているのが選手や監督、コーチとの「対話」だ。

ラプソードのデータを見ながら指導する

「科学が進歩して簡単に、比較的安価でもデータを取れる時代だからこそ、正しく使える人が使わないと危ない。本来データは野球が上手くなるためや、勝つため、現場の課題解決のために活用されるべきだと考えています。ですが、測定すること自体が目的になっていたり、数値を上げることが目的になっているケースが多いように感じています。いわゆる手段の目的化になってはいけません。また、ハイパフォーマンス発揮や傷害予防に向けてデータを実装していくために、欠かせないのが人対人の『対話』です。(指導の)現場のことを理解して、数値だけではなく選手を見る必要がある。データを現場に落とし込めるかどうかはそこが重要だと思います」

互いが互いのためを思い、単なる「会話」ではなく「対話」を交わす。その中で選手や監督、コーチの意向を尊重し、選手が自発的に継続して取り組めるようなトレーニングを提案する。データと現場の双方の視点を持つことを心がけるのは国際武道大時代から貫くスタンスで、青森大の三浦忠吉監督の指導方針とも合致すると感じているという。

東京ドームで見た選手の顔「次は全国で勝ってほしい」

練習中は選手に付きっきりで、練習後は鮮度の高いデータを処理してなるべく早くフィードバックする。恩師である昨年度で国際武道大学を退官した山本利春先生の教えでもある「想いだけでは人は救えない」「学ぶことを辞めたら人に教えるのを辞めないといけない」との考えで知識や技術のアップデートも怠らない。時間をかけて信頼関係を築き、ようやくチームに根付いてきた。

練習中は選手に付きっきりだ

昨年は17年ぶりとなる全日本大学野球選手権出場を果たした。大学時代に2度、大学選手権準優勝を経験している木村さんにとっては久々に立つ大舞台だった。東京ドームでグラウンドや応援席にいる選手たちの顔を見ると喜びが湧き上がり、初戦敗退が決まると「次は全国で勝ってほしい」と心から思った。

仕事のやりがいを感じるのは「選手ができなかったことができるようになった瞬間や、選手が明るい表情になった瞬間」。だからこそ、自身が大学時代に見た勝ち進む光景を青森大の選手たちにも見てほしいと強く願う。

青森大のために「できることは全部やって、尽くしたい」

将来的にはNPBや社会人野球のチームに所属したい思いも胸に秘める。自身のキャリア形成を第一に考えて悩んだ時期もある。だが、三浦監督がたびたび「青森で選手を花咲かせたい」と口にするのを聞いて、ハッとさせられた。木村さんは「トレーナーを志したきっかけというか、忘れかけていたものを思い出しました」と話す。

将来を考えながらも今と向き合う

「キャリアを捨てるわけではありません。ただ、今は青森大の選手と三浦監督のためにできることは全部やって、尽くしたいんです。チームが優勝したり、選手がドラフトで指名されたりしたとしても、それは選手と監督、コーチの努力の賜物であって、『僕がやってやった』というのはない。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、見返りを求めず、ただひたすら謙虚に驕ることなく、人のために尽くす。その気持ちがなければ現場のトレーナーは務まらないし、その気持ちがなくなった時はトレーナーを引退する時だと思っています」

トレーナーを志したのは、「人のため」になる方法を考えたのがきっかけだった。経験値を積んだ今、自分のためではなく、青森大のために尽くそうと再確認した。その行き着く先は何よりも、チームの勝利だ。「僕は勝ちたいんです」という言葉にこそ、裏方の矜持が滲む。

(取材・文 川浪康太郎/写真 本人提供)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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