• HOME
  • コラム
  • 野球
  • 「五輪の名前は特別なもの」長野オリンピックスタジアムはレガシーを目指す!!

「五輪の名前は特別なもの」長野オリンピックスタジアムはレガシーを目指す!!

長野オリンピックスタジアム(以下五輪スタジアム)。

98年長野冬季五輪後に多目的球場に変身して00年に正式開場、歴史と伝統を着々と積み重ねている。大規模イベント後の箱物活用は常に問題となるが長野は成功への道を進んでいるようだ。

スタジアムマネージャー・高橋京一氏が五輪スタジアムの現在を率直に語ってくれた。

独特なデザインの球場正面には五輪マークが掲げられている。

「五輪後の箱利用としてはうまくいっていると思います」と高橋氏は明るい表情で話を切り出した。

長野冬季五輪に向け整備された郊外の南長野運動公園内に五輪スタジアムはある。サッカーJ3・AC長野パルセイロの本拠地・長野Uスタジアムや体育館、室内プール、テニスコートなどを備えた一大スポーツコンプレックスだ。建設済みの内野席と外野部分に仮説スタンドを設置した状態で五輪の開閉会式が行われ、常設の外野席が建設された00年に現在形として正式開場した。

両翼99.1m中堅122m、外野は芝生席ながら3万人収容。地方球場としては十二分な大きさがありNPB公式戦だけでなく04年にはNPBオールスターゲームが開催されている。球場全体でサクラの花をモチーフとし内野スタンドが花びら、6基の照明塔が花弁をイメージ。細部のデザインにまでこだわった国内屈指の美しい球場である。ちなみに正式名称は南長野運動公園総合運動場多目的競技場であり指定管理者は16年から南長野スポーツマネージメント共同事業体が務める

「指定管理者の仕事は大きくいえば管理運営と興行時などの公金(入場料等)徴収です。公園施設内の木、芝生などの植栽管理は専門業者がやりますが、それ以外のすべてです。公園内の道、トイレなどが破損した場合などの修理、ゴミ撤去なども含まれます。ゴミに関しては難しい部分もあり、例えば植木が折れていた場合なども利用者からの連絡が指定管理者にきたりしますが、これらは厳密には違います」

開場から05年までは市の直営で管理運営が行われていたが、06年から長野市内の多くの施設に指定管理制度が本格導入された。南長野運動公園も含まれており高橋氏は指定管理者公募への立候補時点から関わっていたが、市街地寄りにある長野市運動公園より南長野運動公園に重要性を感じたという。指定管理者となった初年度06年からから同公園に常駐しており五輪スタジアムを知り尽くした人物といえる。

内野スタンドが花びら、照明塔が花弁でサクラをモチーフにした造り。

~五輪の名前が付くスタジアムを大事にしないといけない

「指定管理者に立候補した時から使命感がありました。五輪スタジアムを大事にしないといけない、と必死にやりました。オリンピックと付いているスタジアム、球場は日本には1つしかない。長野県の誇り、レガシーにして後世に伝える責任がある。子供達の中にはここで五輪の開閉会式があったのを知らない人もいるくらいです」

指定管理者になってからは小さなことからコツコツと変えていった。公園内施設の安全性や快適性を確保するのは当然、公園に設置してある自動販売機の商品銘柄までこだわった。常設看板等はもちろん興行開催時にスポットでお願いする広告に関しても、ノウハウと人脈をフル活用して効果的に出稿を取り付けていった。環境を良くするには経済面も潤う必要があるのは当然だ

「公園自体の利益がかなり上がるようになりました。例えば自動販売機の手数料収入は倍くらいになった。設置業者さんから『手数料を出すので公園内に置いてください』と言ってくれる。以前はスポーツ施設なのにお茶や水だけしか売っていない自動販売機もあった。スポーツドリンクなどを入れて売り上げが一気に伸びた。そういう部分から少しずつ見直して行きました」

「広告も積極的に導入した。企業の選択や営業戦略に関してもノウハウを蓄積できて業績も伸びている。人脈等もフル活用させてもらっています。例えば長野の場合は野球、特にアマチュア野球に興味のある会社や経営者の方がとても多い。『ここの社長さんは昔、高校野球をやっていて今でも興味がある』というところにピンポイントでお願いします。野球に情熱ある人が多いので喜んで広告を出してくれる。マーケティング、ターゲットがしっかりしてきました」

~指定管理制度によってチームが球場、スタジアムと直結した関係性を持つ

指定管理者も現在の形に落ち着くまでに紆余曲折があった。当初の指定管理者が15年限りで撤退することになり立ち上がったのが南長野スポーツマネージメント共同体。ここには南長野運動公園を本拠地使用する独立BCリーグ・信濃グランセローズとサッカーのパルセイロも加わり、チームが球場、スタジアムの運営管理に直接携われることになった。

「五輪スタジアムとUスタジアムはチームと直結したスタジアムになりました。その他もプールやスポーツクラブに強いシンコースポーツ、そしてビル建物管理に強いNTTファシリティーズが加わり様々な部分にノウハウを落とし込んでくれるので組織として非常に強固になりました。4社で立ち上げた南長野スポーツマネージメント共同事業体で6年が経ち方向性も定まってきています。規模は違いますが千葉ロッテとZOZOマリンスタジアムの関係に近いと思います」

外野後方には雄大な日本アルプスを見渡せる。

~大学軟式野球選手権の聖地化と近い将来のイベント開催

正式名称は多目的競技場だが実際は野球専用球場。プロアマ問わず野球での稼働率を上げなければならない。開場以来40試合行われているNPB興行もコロナ禍などが重なり開催メドが立たない。またグランセローズは長野県民球団ということもあり全試合ホーム開催はできない。現実的にはアマチュア野球界とうまくバランスを取りながら運営している。

「NPB興行は売り上げも桁違いでアマチュア1ヶ月分を1日で稼げます。地域密着の意識が強くなり本拠地球場を大事にする球団が多く実現も難しくなっていますが、それでも地方を考えてくれるのはありがたいことです。例えば巨人なんて東京ドームでやればお客さんが入るのですが地方興行をやってくれる。長野県民からすると地元で巨人を見られるなんて感謝しかない。『本当に一軍ですか?』という電話がきたりします」

「現状では高校野球などアマチュア野球が柱です。調整会議で議題に上がりますが独立BCは歴史が浅いから優先順位が低くなる。開幕戦やプレーオフ、NPBとの交流戦など大事な試合を日程の空いているところで調整します。またグランセローズは県民球団であるのに加え、登録上本拠地は中野市営球場なので全試合ここでやることはできない。その中で期待しているのは全日本大学軟式野球大会の聖地にすること。21年8月21日からの大会が盛り上がったので定着して欲しい。普段は草野球の延長のような場所でやっているチームが多いので『ここでやれるんですか』と喜んでくれました」

また人工芝球場の特性を活かしてライブやコンサートなどのイベント開催にも前向きな姿勢だ。01年8月22日にDA PUMPのコンサート開催実績があるがスタジアム周辺住民から騒音などの苦情が相次いでしまった。当時の管理者であった長野市がコンサート会場としての使用は当面禁止する趣旨を発表した過去がある。

「ライブ、コンサートなど様々なイベントをやっていきたい。DA PUMPの時はノウハウがない中でやってしまったことも原因。例えば技術も進歩しているから防音シートを設置したりステージの向き考えれば良い。またガンガンのロック系は無理だとしても人選によっても可能。個人的にはミスチルさん(Mr.Children)なんかだったらできるんじゃないかなと。奥田民生さんもマツダスタジアム(広島)でやっています。野球人はもちろん、いろいろな人に五輪スタジアムへ来て欲しい」

スコアボードなどの大規模改修プランも視野に入れている。

~開場以来最大となる改修を計画中、気になる人工芝は…

00年の会場から20年が経ち老巧化部分も目立つようになってきた。毎年雪に見舞われる屋外球場は劣化が早いのも当然だが改修へ向けての動きも出始めている。28年の長野国体開催が決定しており高校野球競技のメイン会場に立候補している。予算などクリアすべき部分もあるが改修のタイミングとしては最適だ。またマツダスタジアムなどで好評の全面天然芝化についての見解なども併せて聞いてみた。

「中期計画でいくつか改修プランを挙げてあります。具体的にはスコアボードを磁気反転式のものから全面LED化。10年に張り替えた人工芝の全面張り替え。劣化が進む観客席の椅子の交換。そして照明等のLED化で全部で10億円近くかかる大事業になります。長野県の野球の聖地、メッカとしてレガシーになるような効果的な改修をしなければいけません。慎重かつ大胆に進めたいところです」

「本音を言えば野球は全面天然芝のグラウンドでやりたい。しかし現実の部分で全面天然芝化は難しい。例えば、隣の天然芝のUスタジアムは稼働率と休養率の比率が逆転してしまいアマチュアに貸すことができなくなっています。全面天然芝化となると人工芝のサブ球場が必要になる。ほっともっとフィールド神戸も稼働率が低くて市民に貸し出す日数が激減したそうです。甲子園の外野の芝も夏場はかなり痛んでいます。阪神園芸さんが相当な時間とお金をかけても厳しい状態の時もあります。コスパなどを考えれば選手ロッカーや観客席など、異なった部分の改修に回したい」

現実もあるがスポーツ界全体の流れも変化している。人工芝自体の品質レベルなどが上がっており米国では屋外でも人工芝にする球場が増えている。限られた状況下でもアイディアや方法次第でより良い環境を作り出すことは可能だ。

「人工芝の利点もあるはず。例えばアメフト、格闘技、Xゲームズなどの他競技やイベントを開催できる。天然芝でやったら数週間使えなくなってしまいます。16年には全国消防ポンプ操法大会を開催、全国から約2万人が来場した実績がある。今でも幼稚園や保育園の遠足が来たらグラウンドにも自由に入ってもらっている。人工芝の上で写真を撮っても遊んでも、何をやっても良い。子供たちより先生たちの方が喜んでくれている時もある。天然芝だと雑草の種が混ざったりしてできないことですから人工芝のアドバンテージです」

98年の五輪開閉会式が行われた歴史的遺産は新たな道を進み始めている。

~04年NPBオールスターゲームだけで終わりにはしない。

「長野という地方球場でNPBオールスターゲームをやったことは自慢できます。でもこれだけで終わりにしてはいけない。今年7月22日には松山坊っちゃんスタジアムで2度目のNPBオールスターが開催される。公式戦を含め今後もそういった興行をして子供たちや地元の人たちに見て欲しい。五輪スタジアムで野球をやりたいと思って欲しい。そういう憧れの球場を作るために地味なことから1つずつやって行きたい」

04年NPBオールスターゲーム、日本ハム・新庄剛志監督が現役時代にホームスチールを決めたことで有名になった。監督就任の盛り上がりに合わせ当時の映像を目にする機会も増えた。また21年4月19日のBCリーグ公式戦・グランセローズvs新潟アルビレックスBC戦で始球式をしたことも話題になった。今後はそれら以上のインパクトを残すことを目指している。

「こういう仕事をやっていて褒められることはない。苦情も圧倒的に多い。でも誰が来ても受け入れる体制は整えています。試合がなくても遊びに来てこの素晴らしい球場を記憶に焼きつけて欲しい」

外野後方に日本アルプスを見渡せ大自然を五感で感じられる立地は日本でも屈指。オリンピックの名前が付いた球場を素晴らしき遺産として後世に受け継ぎ、日本スポーツ界を代表する名所になって欲しい。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・南長野スポーツマネージメント共同事業体)

関連記事