2016年日本一の中京学院大、再建なるか 新体制発足を機に現れた「変わろうとしている」選手たち
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菊池涼介(広島東洋カープ)、吉川尚輝(読売ジャイアンツ)らをNPBに輩出し、2016年の全日本大学野球選手権では日本一に輝いた中京学院大学硬式野球部。昨年、監督・コーチ陣を一新し、小野昌彦監督のもとイチからチーム作りを進めている。
当初はチーム内に「緩さ」が蔓延しており、全体練習への参加率も低かったというが、小野監督いわく新体制発足を機に「変わろうとしている選手」も少なくない。中でも指揮官が個別に名前を挙げたのが、いずれも新4年の中村春翔(れいめい)、木下元佑(赤穂)、玉田優斗(南筑)の3人だ。
野球に向き合い主将就任、胸に刻む「神宮に連れていけ」
中村は昨秋から主将を務める内野手。「周りに良い影響を与えられるような行動をして、信頼された上で指示のできる人間」を理想の主将像に掲げる。
生まれ育った鹿児島を離れ岐阜の中京学院大に進んだものの、大学2年時までは「気持ちに緩みが出て怠けてしまっていた」。心境の変化が現れ始めたのは、新体制になってチームの雰囲気が変わった3年時。「しっかりやらないと」と自覚が芽生えたと同時に、大学卒業後も社会人などで野球を続けたいとの思いも抱くようになった。
野球に向き合う姿勢を評価され、主将の大役を担うことに。怪我をして練習のサポートを行っていたある日、小野監督から直接任命された。「お前が神宮に連れていけ」。その言葉に奮い立ち、日々、胸に刻んで過ごしている。
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小野監督は中村を「最初は『練習どうしますか』と聞いてきたので、『どうしますか、ではなくどうしたいかじゃないか』と答えました。最近はその意味を理解して、チームメイトに自分の考えを伝える姿を見せてくれています」と評価する。「指示待ち」をしていては課題は克服できない。また自ら指示を出すためには「信頼」を得なければならない。それらを理解したからこそ、中村は理想の主将像をはっきりと口にできるようになった。
新チームでは考えを伝える場として選手間のミーティングを増やし、一方通行にならないよう学年関係なく意見を出し合う機会も設けている。「一人ひとりの意識が変わって、上を目指そうと一つになってきた」と中村。主将を中心に、失いかけていた一体感を取り戻しつつある。結果につなげ、神宮への切符を手に入れたい。
元プロコーチの助言に耳傾け、「エース」定着狙う右腕
木下は昨秋5試合に登板し投手陣の柱を担った右腕。直球の最速は140キロに満たないものの、スプリットやツーシームなどの変化球を武器に試合を作る。大学では体作りに励んで体重を10キロ以上増やし、着実に力を伸ばしてきた。
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新体制になっても「自分の意思を貫いてやるのが大事」と大きな意識の変化はなかった。ただ、小野監督と同時に就任した元広島で中京学院大OBの池ノ内亮介コーチに指導を受けるようになってから、練習の質が向上したのは確かだ。「元プロ野球選手なので、球を投げるとめちゃくちゃ速いんです。投球を見るだけでも勉強になります」。池ノ内コーチにはキャッチボールをしながら投球フォームなどに関するアドバイスをもらい、それを成長につなげている。
長野出身で、中学生の頃までは夏は野球、冬はスキーと2競技を掛け持ち。高校から野球に専念し、より高みを目指して大学でも継続した。ラストイヤーは「自分がエースという気持ちでやらないと」と覚悟を持って臨む。
先発転向で復活、怪我乗り越え「節目」のラストイヤーへ
玉田は木下同様、先発の一角として期待がかかる左腕。福岡出身で、幼少期から水泳、フットサル、空手とあらゆるスポーツに親しみ、中学から野球を始めた。元々は「野球は高校まで」のつもりで公務員志望だったが、高校時代の外部コーチに勧められて大学進学を選んだ。
大学では1年秋からメンバー入りし、大きく曲がるカーブなどの変化球を武器に中継ぎで台頭。しかし2年時に得意なはずの変化球の精度が落ち、スランプに陥った。復調のきっかけは配置転換。昨年から先発を任されるようになると再び感覚をつかみ、春は4試合に先発して防御率2点台をマークするなど飛躍を遂げた。
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昨秋は肩の故障により離脱し、トレーナーとしてベンチに入った。「チームのために何ができるか考えた時にその方法しかない」と思い立ち、首脳陣に直談判したという。一歩引いて野球を見て仲間を支えた経験を今年に生かしたい。
現時点では今春を野球人生の「節目」と考えている。「開幕の頭を狙って頑張ります」。スタートダッシュを切り、集大成のシーズンを駆け抜ける。
「変えるのにはパワーがいる」…それでも求める変化
新体制1年目は春秋ともにリーグ戦で7チーム中6位と結果を残せず。それでも、中村、木下、玉田の3人をはじめ、高い意識を持つ選手が増えてきた。
真価を問われる2年目に向け、小野監督は「不安もあるけど楽しみ」と声を弾ませる。そして期待を込める。「昨年の春と秋をどう感じて、何をどう変えるか。変えるのにはパワーがいりますが、彼らは変えようとしている。そういう子が一人でも二人でも増えていけば、おのずと結果もついてくるはずです」
(取材・文・写真 川浪康太郎)