ドライフルーツを作っていた高校生が、大学の全国大会で猛打賞?36年ぶり全国出場・宮城教育大軟式野球部の個性溢れる選手たち(前編)
昨年11月、宮城教育大軟式野球部が東北地区大学軟式野球連盟代表として1986年以来、36年ぶりに全日本大学軟式野球選手権大会出場を果たした。大東文化大を5-2で下し全国初白星を挙げると、駒澤大との準々決勝は4-5でサヨナラ負けを喫したものの、計3度追いつく粘りの野球を披露。ベスト8に入り、東北地区のレベルの高さを見せつけた。
全国大会後に3、4年生が引退し、新チームは現時点で1、2年生の12人(マネージャーを除く)。畠山和也監督が「別のチームになったような感じ」と話すように主力メンバーの大半が抜け、ゼロからのスタートを切った。再びの全国大会出場を目指す宮城教育大ナインを、前後編に分けて取材した。
36年ぶり快挙…群雄割拠の東北地区を制した国立大・宮城教育大で光る個性
東北地区大学軟式野球連盟には宮城、福島、山形3県の10校が加盟しており、現在は休部中の石巻専修大、東日本国際大を除く8校(東北大、東北学院大、東北福祉大、宮城教育大、山形大、尚絅学院大、日本大工学部、仙台大)で春秋のリーグ戦を戦っている。
硬式、軟式問わず強豪高校出身者が集まりやすい東北福祉大、仙台大、東北学院大による優勝争いとなることが多いが、近年は全体的にレベルが上がってきており、一昨年秋のリーグ戦はコールド試合が一度も成立しなかった。
昨秋、ハイレベルなリーグ戦を制した宮城教育大は、東北で唯一となる国立の教員養成大学。選手たちの多くは教員を志し、学業と両立しながら競技に励んでいる。最大の特徴は、多種多様な経歴を持つ選手が揃っていること。高校で硬式野球部、軟式野球部だった選手はもちろん、高校の3年間は全く野球をしていなかった選手もいる。
軟式野球は硬式野球に比べてボールの安全性が高く、一方で技術面のハードルは低い。「取り組み方次第で下馬評を覆せるのが野球の面白さ。軟式野球はそれがより如実に現れる」(畠山監督)。野球経験の少ない選手が複数いる国立大でも強豪校に勝てるのが、軟式野球の醍醐味の一つと言えるだろう。
小学生以来の野球に熱中…文化部出身でも全国の舞台で大活躍
「高校時代は『商業クラブ』という文化部で、さくらんぼのドライフルーツを作ったり、タイピングの早打ちをしたりしていました」。
大学入学前の経歴を尋ねると、意外な答えが返ってきた。宮城教育大の中でも特に異色の経歴を持つ、日野博文内野手(2年=湯沢翔北)だ。野球をしていたのは小学4〜6年の期間のみ。中学はバスケ部に入り、高校では完全にスポーツを離れた。その時々の興味を持った分野に触れてきたため、中高の間は野球を観る機会さえほとんどなかったという。
大学に入学したばかりの頃は部活やサークルには所属しておらず、「スポーツをやる気はなくて、運動系の道具は何も揃えていなかった」。ところが体育の授業中に吉田悠人投手(2年=石巻好文館)から熱烈な勧誘を受け、「根気負け」で軟式野球部への入部を決めた。
当初は練習についていくのに精一杯で、一塁の守備にも苦労した。それでも先輩たちに積極的に質問し、練習を積み重ねることで、徐々に軟式野球の感覚をつかんでいった。三塁手に転向した2年次は代打などで出場機会を増やし、全国大会は2試合とも「8番・三塁」でスタメン出場。大東文化大との初戦で長打2本を含む4打数3安打、駒澤大との準々決勝で2打数1安打2四球と十分過ぎる結果を残した。
「これまでいろんなことを中途半端にやってきたけど、熱中して一つのことに全てを注ぐことがどれだけ楽しいか、全国大会に出て、結果で知ることができた」。終始笑顔で、マイペースで練習に取り組む日野の表情は、充実感に満ち溢れていた。
「下手でも声は出せる」…女子野球の未来を変えうる紅一点の元気印
宮城教育大のグラウンドでは、松谷明華(さやか)内野手(2年=日大東北)の発する威勢のいい声が、チームの明るい雰囲気を作っている。シートノックが始まれば二塁で軽快な守備を見せる、東北地区唯一の女子選手だ。
兄の影響で、小学1年の頃から野球を始めた。中学の3年間も部活で競技を続けたが、特進コースで学業に専念する必要があった高校時代は部活に入ることを断念した。しかし、地元のスポーツ少年団でコーチをしたり、高校の硬式野球部の写真を撮ったりする中で、「もう一度野球がしたい」との思いが再燃。大学では再び、選手としてユニホームに袖を通すこととなった。
身長は152センチ。中学の頃からは男子との体格差も感じ始め、気持ちが落ちる時期もあった。そんな時、小学生時代の恩師に言われた「下手でも声は出せる」という言葉を思い出し、どんな時でも声出しを怠らない姿勢は貫いてきた。だからこそ、小中、大学とどこにいても、紅一点の存在感が光る。
松谷が現役選手の目線で強く望むのが、女子野球の環境整備だ。近年広まってきたとはいえ、女子野球部のある中学、高校は多いとは言えない。進学のタイミングで野球を辞めるか、男子に混じって競技を続けるも体格差やハードな練習に悩んで辞めてしまう友人の姿を、何度も目にしてきた。「みんな野球は好きなのに…」と唇を噛む。
「軟式球は当たっても怪我しづらく、硬式より怖さは少ない。自分のように、パワーヒッターでなくても小技で点が取れるのも軟式野球」。松谷のような存在が大学軟式野球の舞台で輝くことが、女子選手の選択肢を増やすことにつながるはずだ。そしてその先にある、「高校野球の監督になって、甲子園に行く」という大きな夢に向かって突き進む。
(取材・文・写真 川浪康太郎/一部写真提供 宮城教育大軟式野球部)