「デッドラインは今年いっぱい、安定収入を捨ててまで追うNPB入り」福島レッドホープス・亀山宣夫
「夢のため全てを捧げる」と言っても、実行に移すのは難しい。
ルートインBCリーグ・福島レッドホープス(以下レッドホープス)所属の亀山宣夫は、安定収入を捨ててNPB入りを目指す。大学卒業と共に結婚した妻の全面協力のもと、野球界最高峰の場所を目指している。
レッドホープス2年目を迎えた亀山は4番打者として開幕戦を迎えた。
4月8日の群馬ダイヤモンドペガサス戦、同試合での安打は出なかったもののライナー性の打球を連発。調子の良さを感じさせ翌日の第1打席では今季初安打も放ってみせた。
「正直、ホッとした部分もありました。僕は打撃で勝負する選手です。4番起用されたのだから結果を出すことが必要。開幕戦も良い感じで打てていたけど、アウトはアウトでした。打線の中心として1点でも多く得点に絡むのが仕事です」
~死に物狂いで勝負を挑んでくる
責任感を持って打席に立ち続けたが、結果が出ない日々が続いた。下位打線での起用やスタメンを外れる試合も増え始める。その間のチームは昨年までと全く異なるような戦いを続け、勝ち星を着実に増やしていた。
「コンディションが悪い訳ではなく、自分の打撃を全くさせてもらえない状態。昨年7月に入団した時点でチームは下位に低迷していたので、相手投手の攻め方も少し甘かったのだと思います。今年はチーム状態が良いので、文字通りの真剣勝負で来る感じです」
「相手投手の球質が全く違う。球威や球種はもちろん、遊びはなく全球を真剣に投げてくる感じ。死に物狂いというか必死さがすごい。打ち取ることへの執着心、気迫が違う。アマチュア時代も大事な試合や局面では同じでしたが、そういうギアが入った状況が永遠に続く」
~僧帽筋がアピールポイント
群馬・桐生市立商から共栄大を経て、クラブチーム・ハナマウイ入団。2020年に創部2年目で都市対抗野球本戦出場を果たした注目チームでスキルアップして、将来のNPB入りを目指すことにした。
「本西厚博監督の下で上手くなりたかった。学生時代から打撃には多少の自信はありましたが、NPBを目指すには全く足りない。もちろん、守備、走塁も根本的に鍛え直す必要があると思っていました」
身長170cmと小柄だが「僧帽筋がアピールポイント」と語る筋力を活かした打撃がウリ。長所を最大限に伸ばすと共に、その他でもNPB入りを目指せるレベルにする。現役時代に名手と呼ばれた本西監督から貪欲に野球を学んだ。
「本西監督と野球をやれたことが財産です。めちゃくちゃ大きかった。ハナマウイ時代からも感じていましたが、福島に来てより強く思う。野球の細かさというか、上手くなるために必要なことを教えていただいた。1つずつ思い起こしながらプレーしています」
~野球選手としての時間が限られている
本西監督はNPB通算15年間のプレーで700安打を放ち、イチロー、田口壮と「最強の外野陣」と評された。教えを乞うにはこれ以上の人物はいなかった。しかしハナマウイでは社員という立場で、野球のみに専念できない事情もあった。
「仕事内容や給料に文句はなかった。ただ、グラウンド練習が週3日しかなかったのが厳しかったです。ガンガンやって上手くなろうと思っていたのに、練習時間が取れない。社業は疎かにできないのでジレンマがありました」
「ハナマウイ1年目の都市対抗予選が終わった頃から、『このままではダメだ』と感じていました。もっと野球をして上手くなりたかった。年齢的にも先が短く、時間が限られているのは僕自身がわかっています」
23歳(当時)は多少の時間が残されているように感じる。しかし大学卒業と同時に結婚、ハナマウイ入りした経緯もあった。保育系の仕事に就いた妻の支えがあるからこそ、野球に打ち込めているのも理解していた。
「学生時代に知り合ったのですが、変わらずサポートしてくれる。試合は全部観にきてくれます。チーム練習以外にバッティングセンターへ打ち込みに行く時も、同行して動画撮影をしてくれる。全ての時間を僕の野球に捧げてくれます」
「移籍についても真っ先に相談しました。『自分の野球をやり切って欲しい』と言ってくれたので、移籍も決断できました。福島でも仕事を見つけて、今まで以上に応援してくれます」
妻と共に背中を押してくれたのが本西監督だった。貴重な戦力がいなくなり大変なはずだが、亀山の将来を常に考えてくれた。
「『俺も独立に行った方が良いと思っていた。お前ならできる』と言われました。出場機会も多くなかったので、そこも気にかけていてくれたみたいです。(楽天時代にコーチと選手の関係だった)岩村明憲監督にも連絡してくれたようです」
~体力の低下に愕然とさせられる
2022年7月27日、球団SNSを通じて入団が発表された。「プレーオフ目指して新入団選手ともにチーム一丸となって戦います!」とコメントした。
「移籍を決めたのは発表直前、7月に入ってからです。将来に関してはずっと考えていましたが、都市対抗予選に完全集中していた。(ハナマウイが)東京ドームへ行くため、チームの戦力になることだけを考えていました」
「チームメートの知人がレッドホープスにいたので連絡してくれた。プレー動画を送ったところ、『うちでやってみないか?』ということで入団が決定しました。本西監督が推薦してくれたのも大きかったと思います」
移籍直後から毎日ボールを追い続ける日々が始まった。目指すはNPB入り、今のままでは届かない場所だ。技術、体力、精神力の全てで進化が必要になる。
「(レッドホープス)入団当初は自分の鈍り方がショックでした。学生時代までは毎日野球をやっていたのに、クラブチームでの1年半で体力がかなり落ちていた。全ては自分自身の責任ですが、現実を突きつけられ衝撃を受けました」
野球に打ち込める環境を求めて移籍した矢先に、自身の現在地を知らされた。ショックは受けつつも立ち止まるわけにはいかない。
「やる気満々で行きましたが出鼻を挫かれたような感じ。でも落ち込んでいる時間はない。毎日必死にやらないといけないレベルなので、オフ日でもグラウンドへ行って練習します」
「チームには元NPB選手が多いので、その部分も良い環境です。例えば、コーチ兼任投手・若松駿太さんは投手目線からアドバイスをくれる。『始動が遅くなっている』とか教えてくれます。岩村監督も聞いたことを何でも答えてくれますから」
他にも投手チーフコーチ・館山昌平、野手コーチ・福留宏紀、主将の佐藤優悟、投手の福井優也、野手の木須フェリペなどNPB経験者が数多く在籍。彼らの言動に触れるだけでも参考になることは多い。
~勝ちまくって優勝することがNPBヘの近道
個人としてNPB入りを目指すものの、まずはチームの勝利を重要視している。今春キャンプでは「岩村監督を日本一の監督にしたい」と宣言した。
「岩村監督から全てを吸収したい。絶対に自分の宝になるはずです。そして勝ちまくって優勝して日本一の監督にしたい。チームに貢献すれば自分自身の評価も上がり、NPBへの道も近くなると思います」
「チームの雰囲気も良いと感じます。昨年は順位も低迷していたので、今みたいな前向きな雰囲気ではなかった。今は1つずつ勝つためにチーム全体が必死。僕も乗り遅れないようにしています」
個々が成績を残すことがチームの勝利に直結する。選手としての評価が高まることでNPB入団の可能性も高まる。
「まずはチームで結果を出し続け、どの球団でも良いのでスカウトの方々に注目してもらう。育成契約でも何でも良いので、ドラフトにかかることしか考えていないです」
「デッドラインは今年いっぱい。やるだけやってダメなら働けば良い、という気持ちで思い切りやります」
野球への情熱は誰よりも持っている一方、冷静に自分自身を評価している。好調チームに各球団スカウトの注目が集まっているのも知っている。大きな決断で福島の地を選んだ2年目シーズン、大きなチャンスが訪れている。今秋、亀山宣夫の名前がドラフト会場で聞かれることを願いたい。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・福島レッドホープス)