第1回ジャパンウィンターリーグ、どんな成果があったのか、課題は? 鷲崎一誠代表に聞く
広尾晃のBaseball Diversity:12
2022年11月26日、沖縄県で始まった日本初の本格的なウィンターリーグ(トライアウトリーグ)である、ジャパンウィンターリーグは1か月間リーグ戦を展開して12月25日、無事閉幕した。第1回のことでもあり、いろいろと問題点はあったが、それでも大過なく終了したのは大きな収穫ではあった。
大会を主催した鷲崎一誠代表(株式会社ジャパンリーグ代表取締役)に、この1ヶ月を振り返ってもらった。
目標より参加人数が少なかった(120人の予定が69人)ために、チーム数も6のはずが4になって、試合数も少し減らさざるを得なくなりました。また雨で流れた日もありましたが、一人一人の出場試合数は減っていません。
試合はコーディネーター(チームの監督に相当)の皆さんの工夫によって、合同チームにしたり、野手をマウンドに上げるなどもして、うまく回せたと言う印象です。
内容的には、僕がやりたかったことが期待以上のレベルでできたと思います。
僕は慶應義塾大学4年のときにアメリカのカリフォルニアでウィンターリーグに参加して、トライアウトリーグのチャレンジングな楽しさに目覚めたのですが、僕がやりたかったウィンターリーグができたな、と思ったのは、11月26日のことでした。
24日に選手が集まって体力測定などのテストをして26日からチーム分けをして、リーグ戦を開始したのですが、そこで一気に変わったのが選手同士の雰囲気です。
2日目の夜までは、選手たちはみんな黙って一人で食事をしていました。
でも、3日目になって試合が始まると、チームメイトは一気にみんな仲間になりました。僕はこれでこそウィンターリーグだと思いました。
そして、リーグ戦が中盤くらいになってくると、今回MVPを取った岩本久徳選手(Honda)を中心にキャッチャー同士が交流して技術を教え合っているんですね。ジャパンウィンターリーグには社会人のトップチームや独立リーグの選手も来ています。彼らがみんなで技術の教え合いをしていたんです。捕手にはウガンダから来たムサという16歳の選手もいたのですが、ムサにも親切に指導をしていた、もちろん、リーグ戦だから違うチームの選手はライバルではあるけど、同時にウィンターリーグはともに切磋琢磨する仲間でもある。いい光景を見たと思いました。
野球という競技を通じて、みんなが仲間になっていくのは素晴らしいと思いました。
マネジメントについて
鷲崎代表自身の仕事、マネジメントはどうだったのか?
基本的にこの1年は僕自身で動いていて、全部自分のジャッジでやってきました。誰かに共有できなかったせいで、期間中、僕が判断しないと回らないようになってしまいました。
仕事を誰かほかの方に任せることができていなかった。
これでは、来季以降、体制を充実させたときに回っていかないなと痛感しました。権限を委譲して判断ができる人を創っていかないとだめですね。
リーグの立ち上げまでは、全体の運営を僕が見ましたが、2回目以降、僕自身はお客様対応であるとか、選手とのコミュニケーションのようなことをしっかりやっていきたい。全体の運営は現場に任せられるようにしたいですね。
日本のアマチュア野球は高校から社会人まで、週末や大会期間中だけ試合をする。これに対し、ウィンターリーグは毎日試合がある。この違いはどうだったのか?
社会人野球から来た選手と独立リーグやその他のところから来た選手は、体つきがずいぶん違うなと思ったのですが、いずれにしても連戦はしたことがない選手がほとんどですから、疲労度は大きかったと思います。
毎日仕事があって体を動かすこともままならないような選手が、やはり怪我をしてしまうことが多いです。肩肘を痛めた選手もいました。
それを見越して、優秀なトレーナーに来てもらっていました。
リーグ戦開始早々にトヨタの穴井喜一外野手が、フェンスに激突して動けなくなる事故がありました。でもトレーナーがロッカールームで患部の状態を見てすぐさまテーピングをするなど適切な処置ができました。
そういう部分がしっかりできていないと、選手たちも安心して参加できないと思います。
とにかく1ヶ月間野球をするのは、めちゃめちゃきついと言うことを改めて実感しましたね。
球場では苦労も
今回は、アトムホームスタジアム宜野湾(宜野湾市)、コザしんきんスタジアム(沖縄市)、ANA BALL PARK浦添(浦添市)、オキハム平和の森球場(読谷村)と4つの球場で試合を行ったが、球場によって運営の違いなどはあったのか?
球場ごとにオペレーションは全然違いましたから。本当に大変でした。それが一番のストレスだったかもしれません。施設が老朽化した球場もありましたし、受付からロッカールームまで球場が違えば全部違いましたから、その都度大変でした。それは実際にやってみないとわからないことではありました。
今回使った4つの球場は、いずれも2月にNPB球団が春季キャンプで使用します。当初、使用申し込みをした時は、現地からは「プロ野球が使うのでちょっと」と言われましたが、NPB球団側にも辛抱強く説得をして使用を認めてもらいました。業者によれば芝の養生も間に合いそうですし、問題ないのかなと思っています。
2023年度の体制は?
ジャパンウィンターリーグには、当初NPB球団も興味を示していた。また台湾プロ野球(CPBL)ともコンタクトを取っている。2023年度はどういう体制になりそうか?
プロからもアマからも選手が来ることになりそうです。プロアマ規定もあることですから、2023年はリーグを2つにきっぱり分けます。リーグ名も別にします。
1つはアマチュア選手がトライアウトに挑むリーグであり、もう1つはオフに若手の選手が試合で切磋琢磨するリーグになります。
それに今季は試合観戦は無料でしたが、来季はチケッティングをしようと思います。お客様に来ていただいて球場としての盛り上がりを創っていきたいと思います。
選手数が予定通り集まらなかったが、運営面はどうだったのか?
沖縄の地元の方に本当にご協力をいただいて、ウィンターリーグは運営できたのですが、おかげさまで想定を大幅に上回るスポンサーも集まりました。地元企業さんに加えて、沖縄県の広島県人会の方をご紹介いただき、ここから多くのご支援をいただきました。
そういうご支援に支えられて、資金面では大きな問題なく運営できました。
アピール面では、ジャパンウィンターリーグの知名度を拡げることはまだ不十分だったとは思いますが、2023年以降、さらに大きなイベントにしていってスポンサーの方にも還元していきたいですね。
ジャパンウィンターリーグでは、本格的なリモートスカウティングも実施した。MLB、NPB、独立リーグ、社会人野球など17以上のチームからスカウトが直接、間接でコンタクトした。すでに独立リーグなどに内定した選手もいる。
また選手を派遣した社会人野球チームからは「選手が非常に充実した表情で帰ってきた。得るものが大きかったようなので、来年も派遣したい」という声が聞こえた。
いろいろな問題はあるにせよ、ジャパンウィンターリーグは野球選手の「雇用の流動性」を高め、「選手の選択肢」を拡げると言う意味で、大きな一歩を刻んだと言えるだろう。
31歳と若い鷲崎一誠リーダーを先頭に、今後の展開に大いに期待したい。