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東北大硬式野球部の「キャプテンキャラではない」新主将・小林厳 “ジャイアントキリング”再現の立役者となるか

 東北大硬式野球部は昨年、所属する仙台六大学野球連盟のリーグ戦で大きな存在感を示した。春は、75回のリーグ優勝を誇る名門・東北福祉大相手に32年ぶりに勝利。秋は東北学院大2回戦をタイブレークの末に制すなど奮闘し、強豪私立大を脅かすほどの実力があることを証明した。

 一方、春秋ともに4位で、目標としていたAクラス(3位以上)入りはならず。昨年は投手、野手共に4年生の主力選手が多かったこともあり、現在は4月15日の春リーグ初戦(東北学院大戦)に向け熾烈なレギュラー争いが繰り広げられている。

 新チームの主将には、新4年の小林厳捕手(江戸川学園取手)が就任。大学の3年間でリーグ戦出場は5試合、通算安打は0本と実績こそ乏しいが、持ち前の明るい性格を生かしたチーム作りに奔走している。文武両道を体現する国立大硬式野球部はどう生まれ変わるのか。小林の思い描く理想のチーム像、主将像に迫った。

前主将で戦友・畑古悠人からかけられた言葉

 昨年主将を務めた畑古悠人さんは、江戸川学園取手高の同級生。畑古は1浪、小林は2浪を経て東北大に進学した。高校時代は硬式野球部でともに白球を追いかけ、浪人の1年目は同じ予備校で励まし合いながら受験勉強していたという。2代続けて主将に就任した二人だが、就任までの経緯は大きく異なる。

 畑古は高校で副主将を経験しており、大学でも下級生のうちからリーグ戦に出場していた。大学3年次からはレギュラーに定着。昨年は名実ともにチームを牽引する存在だった。対する小林は実績が少なく、性格の面でも「盛り上げ役ではあるけど、人の上に立つキャプテンキャラではない」と自己分析する。

昨秋の東北福祉大1回戦ではスタメンマスクをかぶった小林(右)

 そんな小林が主将を任されることとなったのは、大学1年次から「学年キャプテン」を務めていたからだ。入学した当初はコロナ禍の真っ只中。部活動が制限され、春リーグは中止となった。チームメイト同士で顔を合わせることもままならない中、小林が新入部員の疑問や意見を集約し、旧知の仲である畑古に伝える役目を担っていた。本人の予想していた大学野球生活とはやや乖離があったものの、学年キャプテン、そして主将になるのは自然の流れだった。

 先に引退した畑古からは「キャプテンとしての姿を想像できない。俺はまだ認めていないぞ」と冗談交じりに言葉をかけられた。小林はその時の会話を笑いながら振り返りつつ、「畑古に『チーム変わったな、すごいな』と言われるようになりたい」と言葉に力を込める。

自己流の「まとめ方」を模索する日々

 小林は「自分と畑古ではチームのまとめ方に少し違いがある」と話す。

 例えば、選手間で自主練習の量に差が出た時。畑古は土日や長期休暇期間に設ける全体練習の時間を本来の4時間から約1時間増やすことで対処していた。小林は全体練習を4時間に戻し、自主練習の有無は個人の判断に任せている。その分全体練習の密度を高めることを心がけ、チームメイトには「4時間だけはやるべきことを全力でやってくれ」と念押ししてきた。

 例えば、雨の日の翌日。グラウンドが水浸しになるため全体練習の前に整備の時間が必要となる。畑古が「言わずとも各々が気づいて、いつもより15分早く集合する」ことを求めていたのに対し、小林は「いつもより15分早く集合しよう」と事前に伝えるようにしている。

 自身のまとめ方が良い方向に転ぶかどうかは分からないし、畑古のまとめ方を否定するわけでもない。ただ小林は、「やるときはやるチーム」を理想のチーム像に掲げ、「チームで一番元気のあるキャプテン」を自負しながらメリハリのある雰囲気作りに励んでいる。「自分が言わないと(他の選手が)動かない状況になっているとも感じるので、言うべきところとそうでないところの塩梅は畑古から見習わなければいけない」と話すように、畑古から吸収することも多いようだ。

「試合に出る」ため、大学4年目の意識改革

 選手としては、「とにかく試合に出たい」と不退転の覚悟で大学ラストイヤーに臨む。東北大では、小林と同じく新4年の大澤亮捕手(秩父)が一昨年春から絶対的な正捕手として投手陣を引っ張ってきた。小林は正捕手の座を狙いつつ、「現実的には、大澤がこのまま正捕手の方が監督もやりやすいのではないか」とも考えている。

バットを手にする小林

 ラストイヤーはポジションにこだわらず、指名打者、外野手、一塁手としての出場も視野に入れている。出場機会を増やすために欠かせないのが、打撃力の向上だ。昨秋は自己最多となる4打席に立ちながら、いずれも三振。特に外へ逃げる変化球には苦戦し、変化球で簡単に追い込まれる打席が続いてしまった。「大澤を抜かして試合に出たいと思っていたけど、打席の内容を見れば使われないのも納得で、不甲斐なさが残った」と唇を噛む。

 飛距離を求めていたこれまでの3年間とは一転、今オフはアウトコースの変化球をセンターから逆方向(右打者のためライト方向)に弾き返す練習を徹底してきた。試合では声と明るさで仲間を鼓舞する姿はもちろん、進化した打撃にも注目だ。

東北大飛躍の鍵握るもう一人の4年生捕手

 小林が同じ捕手として信頼を置く大澤も、最終学年を迎え責任感を強めている。正捕手に定着した2年次は春秋連続でベストナインを受賞。昨年も春秋共にマスクをかぶり続け、春は攻守にわたる活躍で東北福祉大戦の勝利に貢献した。  

 今オフ意識しているのは、「投手との会話を増やすこと」。昨年までは先輩投手とバッテリーを組む機会が多く、先輩から声をかけてもらうことで何でも言い合える関係を築いていた。新チームの投手陣は、新4年は宮家凜太朗投手(春日部共栄)のみで下級生がほとんど。「今度は自分から積極的に話しかけて、後輩がやりやすい環境を作りたい」と気を引き締める。

東北大富沢グラウンドでバットを振る大澤

 打撃面では、昨年は春に打率.273(44打数12安打)、1本塁打と結果を残した一方、秋は打率.115(26打数3安打)と低迷した。開幕にピークを合わせることができず、またシーズン途中に軌道修正することの難しさを味わった。この冬は自身初の打率3割超えを目指し、例年以上にスイング量を増やしている。ラストイヤーは万全な状態で臨めるよう調整し、「打てる捕手」の真骨頂を発揮したい。

 小林と大澤はライバル関係にあるが、それぞれに強みがあり、役割がある。新・東北大は“国立大旋風”を巻き起こすことができるか。チームの中心を担う4年生捕手二人がキーマンとなる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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