アメフト・品川CCブルザイズ「動き続けることで、グレーター品川のヒーローに近付けるはず」

アメフト・X1AREA・品川CCブルザイズ(以下ブルザイズ)が掲げるのは「グレーター品川のヒーロー」になること。地域に深く根付くことがチームのプレー環境強化に直結、チーム力アップと結果に繋がると信じている。

「目標達成の道は簡単ではない、というのは十分理解している。」とブルザイズGM・岸原直人氏は、チームの現在地や今後の方向性について語り始めた。

「Xリーグには大学1部・上位校からリクルートをしたメンバー中心に構成しているチームもあります。しかし、ブルザイズは全国各地47を数える大学から、さまざまな選手が集まっています。ここでしか出会えなかったメンバーで、勝ち上がっていくことに面白みや価値を感じています」

苦戦は予想されるが諦めず、敢えて高い目標を設定して戦う。

~5年後のブルザイズに何人が残っているのか?

ブルザイズは創部31年目の昨季2023年を、「0→1の新1年目」と位置付けて戦った。しかし、秋季リーグ(X1AREA)では苦戦が続き1勝6敗の成績に終わった。

「『3年以内でX1SUPER(1部相当)昇格を目指す』と公言しました。チーム内でも様々な意見が出ましたし、実現可能なのか、という声が出るのもよくわかっています。しかし、人間は明確な目標設定をしないと流されやすくなります。選手はもちろん、サポートしてくださる方へのメッセージも込めました」

「ブルザイズは大卒4年目以内の選手が90%を占めます。仮に『5年以内でSUPER昇格』とした場合、その時に残っている選手が何人いるのか。それが現在所属している選手が掲げる目標として正しいのか。だから敢えて3年先というゴール設定をしました。そこから逆算してやれることをやる、ということです」

無理は承知の上で明確な目標を設定して恐れずに挑んでいく。ファイティングスピリットには尊敬の念を覚えるが、現実がタフなことも確かだ。

決して長くない選手生活の中、やれることに全力を尽くす。

~「グレーター品川エリア」で欠かせない存在になることが生命線

国内アメフト人気は年々、下降線を辿っている。Xリーグ内ではスポンサー企業の撤退で十分な活動ができなくなったチームもある。しかし、一方では強化や環境改善に関し企業の積極的サポートを受けているチームもある。

「X1SUPERには日本有数の大企業がサポートするチームも多い。そうしたチームと戦うことは、知名度アップ等の大きな効果が見込めます。よってX1AREA内でも企業が予算をかけ強固なサポートを受けているチームもあります」

「ブルザイズは選手から部費を徴収、その他は複数のパートナー企業様と、個人の会員の皆様のご支援で成り立っています。運営規模やプレー環境で言えば、大企業が支援しているチームに劣るのは理解しています」

ブルザイズはNFLグリーンベイ・パッカーズを参考に後援会員、個人オーナー、そして複数企業による「市民オーナー制度」を採用している。

「昨年のチーム運営費は約1,700万円でしたが、今年は約1,800万円と増額しています。X1SUPER参入のための目標額3,000万円には遠いですが、敗戦が続きながら、運営費を増額できているということは前向きに捉えて良いはずです」

「Xリーグではスポンサー企業が変わるチームもあります。皆さんが努力して支援を取り付けたことへは尊敬しかありません。しかし、ブルザイズは方法論が異なります。時間はかかりますが軌道に乗れば安定すると信じています」

プレー環境等は決して恵まれていないが、アメフトに対する思いは誰にも負けない。

2022年からはサッカー、3×3 バスケ、チア、アメフトの活動をしている地域総合スポーツクラブ『株式会社品川カルチャークラブ(品川CC)』に加わった。「品川駅港南口を中心としたグレーター品川のチーム」の一員として活動している。

「地元との関係を大切にすることが何より重要。地域活動に積極的に参加するなど、アメフト以外の部分でも交流を深める。グレーター品川エリアで欠かせない存在になることが生命線だと考えます」

グレーター品川とは1953年に発足した港区港南の企業が一同に所属する港南振興会が提唱する表現だ。品川区に加えて港区も含む行政区を超えた一つの生活経済文化圏であり、ブルザイズはその一員としてフットボールと地域貢献活動を続けている。

品川CCの一員として地域を大事にすることで知名度も少しずつ高まっている。

~アメフトは選手寿命が短い競技だからこそ「やれる」ことがある

フィールド上で実際に戦っている人たちの声も聞いてみた。ブルザイズを指揮する八木卓哉ヘッドコーチは「当たり前だが、やれることをやるだけ」と前向きに捉えている。

「正直、プレー環境は弱いし仕事との両立も大変。その中で結果を求めるのはタフな作業であることは間違いない。でもアメフトは選手寿命が短い競技なので、少しの時間も無駄にすることなく練習、試合に臨むしかない。その積み重ねが結果はもちろん、充実感や説得力に繋がると思います」

「品川CCに加入したことで地域との関係性が近くなっているのを実感します。学生時代の部活では感じることのできなかった部分です。地域活動等に参加することで知り合いも増え、応援の声も聞こえてくる。まだまだ小さい組織ですが地域密着の本質に触れているような気もします」

「地域活動の本質に触れているような気がする」(八木卓哉ヘッドコーチ)。

主将・森下佑哉は大学卒業後に1度は選手を上がった(=引退)が、夢を諦めきれず現役復帰した経歴を持つ。

「(現役復帰は)アメフトが大好きという気持ちが一番。他チームの情報を聞くと環境面ではブルザイズより優れているとは思います。でもアメフトをプレーできるのが嬉しいし、負ける気持ちはない。時間はかかるかもしれないですが、少しでも上達して強くなりたい」

「品川CCの他競技の方々に会う機会もあるので刺激になります。また地域活動を継続することで、ブルザイズの知名度が実に上がっているのを感じる。実際に話をすると優しい声をかけてくれて応援してくれます。皆さんの期待に少しでも応えられるようにしたいです」

「地域の皆さんが応援してくれているのが伝わってくる」(主将・森下佑哉)。

~アメフト人気が下がっているからこそ「地域」が重要

「地域との関係性が何より重要」という思いが岸原GMの中でブレることはない。ブルザイズが飛躍を遂げるためのキーがそこにあると信じている。

「世の中には様々なエンタメが増えていますし、スポーツでも多くの選択肢があります。アメフトは好きな人以外は関心を持たれない競技になっているので、アプローチ方法を考える必要があります」

先日のアメフトU-20世界選手権で日本代表が米国代表に勝利を収めた(6月26日、スコア『41-20』)。大快挙だったが、メディアでもほとんと取り上げられないというのが現実だ。

「身近な繋がりやコミュニティが大事。広告やSNSを通じて情報発信することは大事だが、それだけでは興味を持つ人は少ない。空中戦としてSNSの情報発信は行いつつ、地上戦で自分の周りの人たちに直接接していくことを大事にする。その積み重ねでブルザイズの知名度や組織力も高まるはずです」

岸原GMは新規スポンサー獲得のため、手書きのレターを各方面に送っているという。「昭和時代の営業です」と笑うが覚悟を感じさせる。

「宛先だけではありますが、早朝に数日かけて行いました。スポーツにお金を出すというのは、合理的部分を超えた共感とか、男気が大きいと思います。手書きの方が目にも止まるし思いや気持ちが伝わるかな、と」

「自分の周りの人たちを巻き込むことがアメフト人気に繋がるはず」(岸原直人GM)。

「勝ち負け」というフィールド上の結果に繋がるまでは時間が必要かもしれない。しかしグレーター品川における地道な活動は間違いなく浸透している。

「『グレーター品川のヒーロー』というはチーム創設以来、初めて変更した掲げたスローガンです。自分たちの目指す姿を明確に表現しています。少しでも近付けるよう、まずは秋のシーズンに備えます」(岸原GM)

「ヒーローと感じてもらえるかはわかりませんが、ファミリーにはなれるはず。選手、ファンが一体となって進んでいけば何かが起こるはずです」(森下主将)

品川CCブルザイズは「グレーター品川のヒーロー」となり、満員のスタジアムでプレーする日を目指す。

今の時代に「ヒーロー」という言葉は、かなり青クサくて陳腐にすら感じてしまう。しかし、バーチャル主流の世の中にリアルなヒーローが現れたとしたら、多くの人の共感を得るのではないだろうか。

品川CC ブルザイズの「グレーター品川のヒーロー」を目指す道は始まったばかりだが、今後に何かを期待させてくれる。まずは9月7日に開幕する今秋のXリーグ公式戦に注目してみたい。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・品川CCブルザイズ、港南振興会)

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