“新保兄弟物語”は一旦完結 「次はプロの世界で…」切磋琢磨した2年間は夢の始まり

大阪出身の兄弟が、東北の地でしのぎを削った。東北福祉大の新保茉良(しんぽ・まお、4年=瀬戸内)と仙台大の新保玖和(しんぽ・くお、2年=霞ヶ浦)だ。すでに引退した長男・利於(りお)を含めて3兄弟全員遊撃手。尊敬する兄の背中を追い続けた弟二人が、大学の同一リーグで「兄弟対決」を実現させた。次はプロ野球の舞台で――。それは決して夢物語ではない。
東北福祉大がリーグ連覇…流れ呼び込んだ茉良の雄叫び
東北福祉大、仙台大、東北学院大による三つ巴の優勝争いが繰り広げられた仙台六大学野球秋季リーグ戦。近年稀に見る混戦を制したのは、今春の全日本大学野球選手権で日本一に輝いた東北福祉大だった。
仙台大に2勝して勝ち点を奪えばリーグ連覇が決まる最終節。1勝1敗で迎えた第3戦は両チーム計5本塁打が飛び交う乱打戦に。結果的に東北福祉大が11対8で勝利したが、どちらに転んでもおかしくない展開だった。

そんな中、存在感を光らせたのが茉良。0対0の2回、2死二塁の場面で四球を選ぶと、大きな雄叫びを上げた。続く小山凌暉(3年=東海大菅生)、伊藤和也(3年=明秀日立)に連続適時打が飛び出し、この回3点を先制した。
「本当は意識したくなかったんですけど、どうしても弟のことを意識してしまいました」。打席に入ると、目線の先には遊撃を守る弟がいる。その弟は前日、来秋ドラフト候補の猪俣駿太(3年=明秀日立)からダメ押しの2点本塁打を放っていた。兄として、ライバルとして、燃えないわけがない。
「こんなに打つとは…」玖和は好投手から2試合連発
4点リードの4回には、玖和が1点差に迫る2試合連続の3点本塁打を放った。今秋ドラフト候補の櫻井頼之介(4年=聖カタリナ学園)をマウンドから引きずり下ろす、完璧な一発だった。
「昨日は猪俣、今日はヨリ(櫻井)。良いピッチャーからこんなに打つとは…正直びっくりですね」。ダイヤモンドを一周する弟を遊撃の守備位置から見つめ、呆気に取られながらも、闘争心は消えない。追いつかれて迎えた6回は先頭打者として打席に立ち、三塁打を飛ばして塁上で吠えた。その後、小山の適時打で生還。これが決勝点となった。8回には玖和の強烈な当たりの遊ゴロをさばき、またしても吠えた。

レギュラーの座を奪った今春は遊撃手のベストナインに輝き、大学選手権でも持ち味である堅実な守備と勝負強い打撃をアピールした。ただ、「プレッシャーを感じて、(NPBの)スカウトの目も気にしてしまった」という今秋はスイングが大振りになり、打率1割台と不振にあえいだ。
玖和と「お互い、良いところで打てたらいいな」と健闘をたたえ合って臨んだ最終節は、コンパクトなスイングを意識した。そして二人揃って文字通り、「良いところ」で打った。
「お兄ちゃんありき、仲間ありきで経験させてもらえた」
リーグ戦で先に台頭したのは後から入学した玖和だった。1年春から遊撃のレギュラーに定着し、昨年の大学選手権では計7打数4安打と躍動。一方の茉良は3年時の昨年までリーグ戦出場わずか1試合で、「なんで(弟だけ)出てんねやろ?」とスタンドでもどかしい思いをしていた。
一時は退部も考えるほど苦しんだ茉良だが、「最後は弟に負けられへん」と再起した大学ラストイヤーの今春、ブレイクを果たした。春の直接対決はともにフル出場。玖和は「小学生の時ぶりにお兄ちゃんのプレーを生で見て、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだなと。まだまだかなわないところだらけなので、大学の4年をかけて追い越せるように頑張りたいです」と嬉しそうに話す。

玖和も2年時は春の打率が1割を切るなど苦しんだ。模索を続ける中、打撃面で悩んだ時は兄に助言を請うた。リーグ戦期間中、自身の試合がない日に玖和の打席をバックネット裏から動画で撮影する茉良の姿もあった。二人はライバルである前に兄弟。互いの成長に寄与することはいとわなかった。
最終節の試合後、玖和は優勝を逃した悔しさをにじませながらも、「めちゃくちゃ楽しかったです」と笑った。「普通の兄弟であれば経験できないことを、お兄ちゃんありき、仲間ありきで経験させてもらえた。家族にもチームメイトにも感謝しています」。東北福祉大も仙台大も部内競争が激しい強豪校。対戦相手として同じグラウンドに立てたのは当たり前のことではない。
ドラフトで「新保家第一号のプロ野球選手」誕生なるか
茉良はプロ志望届を提出している。「全員ショートでプロ野球選手になってもらいたい」。3兄弟の幼少期に遊撃の守備を鍛えてくれた父・勝也さんの夢を背負い、「新保家第一号のプロ野球選手になる」と意気込む。
玖和も「プロに行ける可能性のある人が身近にいるのは大きい。叶えてくれたら自分のことのように嬉しいです」と期待を込める。運命の日は刻一刻と近づいている。

優勝が決まった後の整列を終えると、茉良は真っ先に玖和のもとへ駆け寄り、「来年、頑張れよ」と声をかけた。「今年は春秋どちらもやられたので、来年、再来年は絶対に負けたくない。今回初めてああいう打球を飛ばせたので、もっと体を大きくして、上を目指します」と玖和。兄が去る残りの2年も成長を止めるつもりはない。
「次はプロ野球の世界で弟と戦いたいです」とは茉良。新保兄弟の物語はこれからも続いていく。
(取材・文・写真 川浪康太郎)