岩手で「国公立大」の野球大会初開催 “盛岡三コンビ”躍動した岩手大が初代王者に
7月13~15日、岩手県内の3会場で東北地区国公立大学野球強化交流大会が初開催された。北東北大学野球連盟から弘前大、青森公立大、岩手大、秋田大、仙台六大学野球連盟から東北大、宮城教育大、南東北大学野球連盟から福島大の計7大学が参加。トーナメント方式で優勝校を決めたほか、敗退したチームによる「交流戦」も実施した。
大会周知を促進した”ユニーク”かつ”的確”なSNS発信
今大会は、「国公立大の選手が集まって切磋琢磨(せっさたくま)する取り組みができれば」と考えた岩手大の菅龍太朗監督兼投手(3年=盛岡一)が発案。菅を中心に、学生が主体となって運営を行った。
大会の約1か月前からは、Xとインスタグラムで積極的に情報を発信した。詳細を伝えるだけでなく、参加大学のチーム紹介、意気込み、所在地のPRなどを画像や動画とともに掲載。大会期間中も先攻、後攻を決めるジャンケンの動画を載せるなどさまざまな工夫を凝らした。
SNSの運用を担当したのは、秋田大で主務を務める若狭ひなたさん(3年=大館鳳鳴)。日頃から秋田大硬式野球部のSNSアカウントを運用しており、その経験を生かして「いろんな人に大会のことを知ってもらおう」と、閲覧、拡散されやすい時間帯に投稿するよう心掛けた。
若狭さんはパンフレットの表紙やチーム紹介ページの作成も担当した。選手一覧には選手の氏名、出身校などの基本情報に加え、「実家の好きな料理」、「好きな曲」の項目が設けられている。これもSNSを活用したもので、インスタグラムで「選手のどういうことを知りたいか」募った中から選んだ項目だという。学生ならではのユニークなアイデアが要所要所に散りばめられていた。
決勝は手に汗握る接戦、岩手ゆかりの1年生が活躍
15日にベスト×G-SHOCKスタジアム(西和賀町)で行われた決勝では、岩手大が福島大に2-1で勝利し初代王者に輝いた。
初回に1点ずつを取り合うも、2回以降は岩手大・杉澤直輝投手(1年=盛岡三)と福島大・藤澤朔投手(1年=水沢)の両先発が好投し、こう着状態に。9回、岩手大が2死一、二塁の好機を作ると、1番・駒井優樹内野手(1年=盛岡三)が中前に落ちる適時打を放ち勝ち越し。その裏を0で抑え、接戦を制した。
決勝打の駒井は最優秀選手賞、6回1失点と好投した杉澤は優秀選手賞を獲得。二人は盛岡三時代からの同期だ。駒井は主軸を打つ正遊撃手、杉澤は最速142キロの速球を武器に持つリリーフ右腕として活躍した。
駒井が杉澤について「いいピッチャーなんですけど、大会になるとメンタルが崩れてしまいがちなので、(三塁の守備位置から)しっかり声をかけた。今日はいいピッチングをしていて頼もしかったです」、杉澤が駒井について「高校の時から勝負強い場面でいつも打ってくれていたので、今日も打ってくれると思って見ていました」と語るように、互いを熟知している。
昨夏は花巻東に大敗、大学で「打倒・私立」の続きを
発起人の菅は大会前、「高校生の頃から『私立に勝ちたい』という思いで野球をやってきた」と話していたが、駒井と杉澤も県立校で「『打倒・私立』で甲子園出場」を掲げてプレーしていた。
高校3年だった昨年は、春の東北大会で八戸工大一(青森)、日大山形(山形)の両私立校を破り、公立勢で唯一の4強入り。夏の岩手県大会も白星を積み重ね、甲子園出場こそかなわなかったものの準優勝を果たした。
ただ、夏の決勝は佐々木麟太郎内野手(現・スタンフォード大)擁する花巻東に0-10で大敗を喫したことから、喜びよりも悔しさが勝った。駒井が「走攻守すべての面で差を感じた。すべてが公立校よりも一段階上だった」と振り返れば、杉澤も「最後にハナトウに負けて甲子園に行けなかったので、今でも私立に負けたくない気持ちは強いです」と力を込める。
岩手大硬式野球部には、盛岡三から二人のほか、この日の決勝で先制打を放った阿部蒼流外野手(1年)、ベンチ入りした古舘翼内野手(1年)も入部した。四人で高め合いながら、再びの「打倒・私立」に向け汗を流している。
「なんとしても勝って、自分たちが国公立大では絶対一番上にならないといけない」(駒井)、「優勝という目標ができていつも以上に練習に熱が入った」(杉澤)
今春のリーグ戦はドラフト候補を多数擁する富士大に土をつけるも最下位に沈み、入れ替え戦も負け越して2部降格が決まった。チーム全体で落ち込む時期もあったが、今大会がモチベーションを立て直すきっかけになった。優勝をはずみに、秋は「即1部昇格」を目指す。
「さらにいい大会にしたい」発起人が感じた課題と収穫
岩手大を率いた菅は試合後、「記念すべき第1回大会で優勝できてうれしい」と胸をなでおろした。また集客の面でも「同時期に一関市で社会人の大会(JABA一関市長旗争奪クラブ野球大会)が開催されたこともあって、想定以上にお客さんに入ってもらえた」と手応えを口にした。
一方、「身近に大学野球という環境があることを知ってほしい」と来場を期待していた小学生、中学生、高校生の観客は少なかったといい、「そこは第2回以降の課題。野球教室を開くなどほかのカテゴリーも巻き込んで、さらにいい大会にしたい」と意欲をのぞかせた。
「大会が終わって終了ではなく、今回の課題や成果を各大学に持ち帰って、秋リーグや今後につなげてもらうのがメインの目的。各大学が『打倒・私立』で勝利をつかめたらいいなと思います」。限られた練習時間の中で研鑽(けんさん)を積む国公立大戦士たちの挑戦は続く。
(取材・文・写真 川浪康太郎)