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新「侍ジャパン」が世界に挑む シンプルでスピーディな新競技「Baseball5」が面白い

DJブースからはクラブミュージックが流れ、実況が試合を盛り上げる。野球から生まれ、野球よりも簡単に、誰もが楽しめるシンプルなスポーツがある。

男女混合が特色で、スピーディかつスリリングなストリート競技。使う道具はボール一つだけ。その手軽さから急速に世界に広がりつつある5人制手打ち野球「Baseball5」は、単純にして奥が深い魅力的な競技だ。

2024年アジアカップからは、正式に日本代表チームが「侍ジャパン」の名称を名乗ることとなった。2026年ユースオリンピックの正式種目ともなっている。野球振興の一環として生まれたBaseball5は、草の根活動で裾野を広げる地道な面もあるが、世界へ羽ばたく夢のある競技でもある。

2017年に生まれた新競技「Baseball5」

Baseball5は野球・ソフトボール競技の普及のため2017年に作られた新競技だ。男女混合の5人制。用具はゴムボール一つだけで専用の球場を必要としない。外野はなく限られたスペースでプレーでき、屋外・屋内を問わない。

投手も捕手もなく自らトスを上げて打つ

その特色から世界で急速に広がっており、現在は70ヶ国以上でプレーされている。2026年ダカールユースオリンピックの正式種目に採用された。

日本では全日本野球協会と日本ソフトボール協会により立ち上げられた「Baseball5 Japan」により活動が行われている。

門戸は広く奥は深い

5人制のBaseball5には、投手も捕手もいない。バッターが自分でトスして手で打つ。空振りはアウト。ファールもアウト。フェンスオーバーやフェンスダイレクトもアウトだ。前へゴロを飛ばす。それを素手で捕球し、送球する。老若男女問わずできるスポーツとして、子供を中心に普及活動が行われている。

一方で、素手での捕球、野手の間を抜く打球、ベースカバーのフォーメーションなど、Baseball5ならではの技術が必要となり、奥が深い競技でもある。

第1回チャンピオンは「ジャンク5」と「横浜隼人高等学校A」

2024年2月4日には、初のBaseball5日本選手権が開催された。

参加選手の中には甲子園の優勝投手や元NPBの選手、タレント、NPBレディースの現役選手なども名を連ね、そのプレーには見ごたえがあった。

第1回Baseball5日本選手権は横浜武道館で開催された

「オープンの部」で優勝を争うと目されたのは、日本代表経験のある六角彩子・宮之原健率いる「5STARs」と島拓也・三上駿を擁する「ジャンク5」。だが、両チームは初戦で対決し、激闘の末にジャンク5が勝利。そのまま勝ち上がって第1回優勝チームとなった。

敗れた5STARsだったが、日本のBaseball5先駆者である六角彩子は、この競技の普及に国内外問わず尽力しており、「この大会はとても大きな一歩」と語った。

5STARsの六角彩子は2022年に代表監督兼選手も務めた国内第一人者

「男女関係なく一つのチームとして戦える素晴らしいスポーツです。子供でも大人でも野球経験のない人も始められる。あとは続けられる環境を作りたいです。(この日本選手権も)今はオフシーズンに一度だけある大会で、終わると練習をやめてしまうチームもあると思うんですね。ないものは、作っていかないとならない」

ユースの部決勝で激闘を繰り広げた横浜隼人高と市立船橋高のメンバー

「ユースの部」で優勝した「横浜隼人高等学校A」は、硬式野球部に所属する男女だった。

決勝に近づくにつれて白熱し、タイブレークの連続で接戦が繰り広げられたユースの部。オフシーズンで結成したチームは一旦解散し、今後は未定だという。だが、彼らは口を揃えて「楽しかった。またやりたい」と顔を輝かせていたのが印象的だった。

第1回日本チャンピオン「ジャンク5」はBaseball5の環境に自信

この日本選手権に先駆けて、2022年アジアカップの際には、日本代表チームを選ぶ大会が行われ、8チームが参加して戦った。今大会は予選参加が32チーム。裾野が広がっていることは間違いない。

ジャンク5の島拓也は日本代表のキャプテンも務めた中心選手

初代日本一となったジャンク5は、三上駿、島拓也、大嶋美帆と2022ワールドカップを経験したメンバーが在籍し、世界を知る選手がチームをレベルアップしてきた。

「優勝したのは、Baseball5ができる全国でも抜群の環境があるから」と述べた若松監督自身も、日本代表チームのコーチ・監督を務めてきた人材だ。ジャンク5は「ジャンク野球団」の一部門。社団法人化され、組織として軟式野球、野球教室活動とともに、Baseball5に早くから取り組んできた草分け的存在だ。

「チーム力には絶対の自信があります」

スピーディな攻撃と美技連発の守備力

実際に競技を見ると、このスポーツの魅力が分かるだろう。打撃や守備など野球の面白さがありつつ、得点や攻守交替がスピーディで飽きる暇がない。

また、投手がいない代わりに「ミッドフィールダー」というポジションが、守備で大きな役割を占める。打者に一番近いミッドフィールダーは、素早い反応で打球を処理し、時にライナーキャッチの超美技を披露する。

守備は固定ではないが、三上のミッドフィールダーは必見

野球では外野手だが、ジャンク5でミッドフィールダーを務めた三上駿の守備は秀逸だった。数々のライナーキャッチを見せた守備力は世界レベル。また、狭い塁間をあっという間にホームへ駆ける三上の俊足は、ジャンク5の大きな武器だった。

2022ワールドカップで世界を体験した三上は、敗れたキューバとの差は「特に打球の速さ」と言い、そのレベルで戦うために努力してきた。日本選手権では大会MVPを獲得し、侍ジャパンにも続けて選出。今や日本を代表する選手になっている。

「侍ジャパン」がアジアカップで優勝 アジアチャンピオンとしてW杯へ

2024年4月、第2回アジアカップに向けて選ばれた全日本代表は、正式に「侍ジャパン」の名称を冠し、世界で戦うチームとなった。

4月にソウルで行われたアジアカップでは準決勝で主催国の韓国、決勝ではチャイニーズ・タイペイに逆転勝利。前回アジアカップで敗れたリベンジを果たし、アジア初優勝を成し遂げた。攻守に活躍した六角彩子(5STARS)が最優秀女子選手として表彰された。

三位以内に入賞した国は、2024年10月に行われる第2回ワールドカップへの出場権を獲得している。

8月9日付世界ランキングで、日本は5位。上位にはチャイニーズ・タイペイ、キューバ、チュニジア、フランスと、野球やソフトボールとは違った国々が名を連ねる。諸外国の中では、装備も設備も野球ほど必要ないだけに、国際的な進出を狙える競技として積極的に取り組んでいる国もある。勢力図はどんどん書き換わるだろう。

その中でも「日本がBaseball5で一番強い国になる」と選手たちは強い決意で世界に挑む。

世界に広がるBaseball5

世界的に広まってきているBaseball5。主力選手たちは、それぞれが指導者でもあり、国内外で普及活動を行う。公式に依頼が来る場合もあり、またネットを通じて個々に直接依頼が来る場合もあるという。

「外国に比べれば、日本での普及はまだまだです」というジャンク5の若松監督。

「全国規模でもユースでももっと広げていける。ジェンダー的にもSDGs的にもいいスポーツなので、そういう点でも力を入れていきたいですね」。

一人ひとりが伝道者として「優勝」「日本一」の価値を高めていく

リーグ戦を自分たちで作り、世界へ備える

2024年6月からは、Baseball5初のリーグ戦が始まった。「ないなら自分たちで作るしかない」と六角が言った通りに、選手たち自らがリーグ戦を立ち上げ、運営や審判、配信に至るまで自分たちの手で行っている。10月のW杯に向けて、国内最高峰のチーム同士がしのぎを削って試合を行い、それぞれがチームの底上げと自身のレベルアップを図っている。

来年1月13日に「第2回日本選手権」も決定した。ワールドカップを終えた11月ごろには全国で予選が始まる。参加チームはさらに増えていくだろう。その中から次の「侍ジャパン」も生まれる。

裾野は広く、頂は高く。
誰でも始められるスポーツ。そしてすぐそばに世界があるスポーツ。

Baseball5を取り巻く世界は常に変化していく。常に新しい道を切り開きながら、彼らは「世界一」を目指す。

(取材・写真・文/井上尚子)

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