5年でNPB選手9人輩出 BCリーグ・茨城アストロプラネッツに集う強烈な「個性」
ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツ(以下、BC茨城)は、2019年加盟と歴史こそ浅いものの、輝かしい実績を誇る。2020年ドラフトで小沼健太投手(現・読売ジャイアンツ)が千葉ロッテマリーンズから育成2位指名を受けたのを皮切りに、加盟から5年間でNPB9選手を含む計17人の選手、スタッフをNPB、MLBへ輩出。昨秋のドラフトでは土生翔太投手が中日ドラゴンズから5位指名、日渡騰輝捕手が同じく中日から育成1位指名を受けた。土生は球団初の支配下指名となった。
独立リーグの球団としては異例とも言える取り組みもたびたび話題を呼んでいる。元メジャーリーガーなど海外でプレーしていた外国人選手を続々と入団させているのは大きな特徴の一つだ。これまでに、昨年途中から北海道日本ハムファイターズでプレーしたアレン・ハンソン内野手ら3人の外国人選手がBC茨城経由でNPB入りしている。また昨季は野球指導経験のない元NHKディレクターの伊藤悠一氏が監督に就任。他にも廃校を利活用して充実した練習環境を整えるなど、常識にとらわれない球団経営を行っている。
一方、昨季は初の地区優勝を果たした前年から一転、22勝1分43敗の成績で地区最下位に沈んだ。今季は2度目の地区優勝、そして初の日本一を狙う。チーム浮上のキーマンとなりそうな山田大河投手(19)、長尾光投手(21)、陽柏翔内野手(18)の3選手を取材した。
「この道を選んでよかった」元相棒の言葉で再起した19歳左腕
BC茨城は昨年9月から12月にかけて、有望な若手選手を集中的に鍛える「プロスペクト育成プログラム」を実施した。メンバーの一人に選ばれ、球団の期待を背負うのが左腕の山田だ。山田はプログラム期間中に取り組んだハードなトレーニングを振り返り、「おそらく10代では日本一、ウエイトトレーニングをやった。この練習をしてきたからには、今年のドラフトで指名を受けて絶対にNPBにいきたい」と力を込める。
山田は一昨年まで茨城の強豪校・霞ヶ浦でプレーしていた。同期に赤羽蓮投手(現・福岡ソフトバンクホークス)ら好投手が複数いた中で、大型の変則左腕として存在感を示していた。高校卒業後は大学で野球を続けるつもりだったが、入学直前で考えが変わり、野球を辞めて就職することを決意。昨年3月下旬からは正社員を目指してアルバイトに勤しむ日々を送っていた。
そんな矢先、高校の同期でBC茨城に入団した日渡から「アストロプラネッツに来ないか。このタイミングで就職するのはもったいない。お前だったら1年か2年でNPBにいける」と声をかけられた。高校3年間バッテリーを組み、信頼を置く日渡の言葉を受け、野球に対する情熱が再燃。アルバイトを初めて約1か月後の4月下旬、BC茨城入団が決まりリスタートを切った。
昨季は公式戦3試合の登板にとどまり、本領を発揮することはできなかった。山田は「独立リーグになって対戦する打者のレベルが上がって、それに対応できなかった。力不足を痛感しました」と唇を噛む。一方、目に見える成長もあった。入団時は130キロ前後だった球速が最速142キロまで伸び、意識的に強化したという変化球の精度も向上。「変化球でカウントやファールを取ったり、三振を奪ったりすることができるようになったのはよかった」と手応えを口にした。
BC茨城の練習環境も成長を後押ししている。設備が整う体育館や事務所内に設けられたジムで自主練習に励んでいるほか、高校生の頃までは接する機会のなかった外国人投手にボールの持ち方や腕の振り方を教わって自身のレベルアップにつなげることもある。「今は本当にこの道を選んでよかったと思っています」と語る表情が、充実ぶりを物語っていた。
「自分を拾ってくれたアストロプラネッツにはものすごく感謝している。自分のピッチングで感謝を表して、チームを日本一に導きたい」。2年目の大飛躍、そしてきっかけを与えてくれた日渡と同じ道へ進む未来を実現すべく、鍛錬の冬を過ごす。
新戦力にも注目…「個」の結集がチーム力向上につながる
豊富な新戦力にも注目だ。最速150キロ右腕の長尾は、BC茨城と同地区の埼玉武蔵ヒートベアーズから移籍した。BC埼玉では3年間プレーしアピールを続けてきたが、ドラフトで名前は呼ばれず。「『2年でNPBにいく』という目標があった中で2年が過ぎて、3年目も終わった。今年は次の大学4年生と同じ年齢。独立リーグで野球をやるのはラスト1年だと思っているので、この1年に懸けます」。決死の覚悟で環境を変え、自ら背水の陣を敷いた。
ノースアジア大明桜(秋田)では1年次から活躍。高校時代の最速は145キロで、当時からカットボール、カーブ、2種類のスライダー、スプリット、パームと多彩な変化球を操った。3年次にはプロ志望届を提出するも指名はなし。「明日にでもNPBにいきたい。4年間は待てない」との思いで独立リーグの門をたたいた。BC埼玉では最速と平均球速がアップし、直球でも変化球でも、また先発でも中継ぎでも勝負できる投手へと進化した。
BC茨城には「球の速い投手が多く、球団が(NPBの)スカウトに選手をアピールしてくれる」印象を抱いて入団した。「詰めが甘かった。もう少し頑張れた」と回顧するBC埼玉での3年間以上の努力と実績を積み重ねれば、道は開けると信じている。「目標は高く持っていた方が近づきやすい。155キロ以上を投げて、支配下でNPBにいきたい」。経験豊富な右腕の、新天地でのさらなる進化に期待がかかる。
昨年のBCリーグドラフトで特別合格した陽は内外野守れる左の好打者。台湾出身で、親戚である陽岱鋼外野手(元日本ハム、巨人)にあこがれて海を渡った。高校は明秀日立(茨城)でプレーし、高卒でのNPB入りはならなかったが、来年ドラフトでの指名を目指し独立リーグの道を選んだ。「日本の野球は元気があって明るい。大好きです」と声を弾ませる若武者は、“ジャパニーズスタイル”を貫き1年目からレギュラーの座をつかみにいく。
一度野球をあきらめた選手、退路を断って移籍を決めた選手、異国の地を離れて夢を追う選手…。茨城アストロプラネッツには、様々な境遇の選手が本気で野球と向き合える場所がある。それぞれの「個」の力が噛み合えば、自ずとチームは強くなるはずだ。球団と選手たちの挑戦は続く。
(取材・文 川浪康太郎/写真 茨城アストロプラネッツ提供)