元ヤクルト館山昌平監督が初陣に勝利 マルハンGIVERSは科学で強くなる

仙台で生まれた社会人チームが、初陣で躍動した。マルハン北日本カンパニー公式野球部「GIVERS」(以下マルハンGIVERS)を率いるのは元ヤクルトの館山昌平監督だ。ラプソード社とプロスタッフ契約を結ぶ館山監督は、科学を駆使して指導に当たる。
新潟で迎えた初の公式戦では、予選リーグ3試合を2勝1敗と、大きな第一歩をしるした。
東北で人材育成し社会に貢献する野球部を
株式会社マルハンは、アミューズメント分野でよく知られている。4月24日に行われたマルハンGIVERS発足会見では、野球部創部のきっかけについて、本間正浩GMが「大学生の数が少ない東北で、新卒の雇用を促進したい」と説明した。
野球熱、野球愛は高い土地柄である。地域に貢献する人材を育成し、野球で東北を盛り上げることを目的に、マルハンGIVERSは創設された。
目標は都市対抗野球及び日本選手権での優勝に置く。それも2027年度にはいずれかの大会でベスト4、2029年度にはいずれかの大会で優勝と具体的な目標を掲げている。
元ヤクルト館山昌平氏が初代監督に
そこで招聘したのは、元ヤクルトスワローズの館山昌平監督だ。この人選にマルハンの本気度が窺える。
元プロ野球選手としての知名度はもちろん、館山監督は豊富な知識と話術で解説者としての人気も高い。弾道測定機器ラプソードを用いて投球・打球のデータを分析し、個々人に合わせて生かす指導には定評がある。

館山監督は、けがの多い選手だったことでも知られる。
東京ヤクルトスワローズで投手として17年間の現役生活を送った後、東北楽天ゴールデンイーグルスに二軍投手コーチとして入団。最新機器を使うアナリストとともに投球を分析しながら2年間指導を行った。
楽天での契約を終えると、自ら望んで独立リーグの世界へ飛び込んだ。BC福島ではチーフコーチとして投手と野手の指導に当たり、NPBとは全く違う環境で経験を積んだ。
「けがを予防する使命がある」とアマチュア球界へ
プロの世界に長く身を置いた後、「アマチュア界に行くことが自分の使命ではないかと考えた」と館山監督は決断を振り返る。
「自分が一番求められているのは、けがの予防や野球少年少女たちの育成というところ。何かできないかと考えていたときにマルハンからオファーをいただいた。ゼロイチ案件で自分の力が必要だとお声をいただき、快くこの世界に飛び込みました」
セレクションからラプソードを使用
東京・仙台でのセレクションを経て、今年23名が入社し、野球部の活動がスタートした。セレクションでは館山監督自らラプソードを用いて選手のデータを解析し、データをもとに選手を選考している。
「見た選手だけでも400名を超えたと思います」と館山監督は振り返る。中には東北出身の選手も多い。

大学ではレギュラーでなかったような経歴の選手も多いが、実際にデータを取り、能力を分析して伸びると考えられる選手、けがのリスクの少ない選手、意欲のある選手を選考した。
チームで使用するトレーニング機器は野球に適したものを館山監督が厳選し、効果的なトレーニングやけがの予防にも注力した練習を行えるようになっている。室内練習場、クラブハウスなど本格的な設備が9月頃には完成する予定だ。
「選手が自分自身のアナリストに」
解析機器を生かすには、アナリストの存在が必須だが、館山監督は「目標は選手全員がアナリストになること」と言う。
「もう投手に関しては、自分で自分の投球に対するデータ解析ができます」
現在練習でも投球時は常にラプソードを立ち上げている。投手自身が自分の特徴を知り、どの球種が相手に嫌がられるか、何を伸ばしていくのか、自分自身で語れるようになってきたという。
「それでストライクが入るかは別ですよ」というのが今の段階だ。自分を知り、自分に必要なものを理解して積み上げ、自分をコントロールする。ピッチングデザインを自分自身で行えるようになれば、大きな成長を遂げる選手も出てくるだろう。
「いずれアナリストとしての能力の高さでプロ野球の世界にも呼ばれるような、そういう集団でありたいと思っています」
練習試合では社会人チームに未勝利
マルハンGIVERSは2月1日から徳島県でキャンプを行い、2月16日からは宮崎県に場所を移してキャンプとオープン戦を行った。
2月から4月までに練習試合を11試合行ったが、大学が相手の2勝を除き、社会人・独立リーグ相手には一度も勝利がなかった。一つひとつの試合で課題を見つけ、フィードバックしながら次の試合に臨んできた。
「良かった点としては、まず野手では、完封された試合がなかったこと。必ず1イニング、2イニングは点数まで結びつける成功体験があった。リードした場面や、追いつく1点の重みを感じながら、次にどうすべきか考えて攻撃に繋げたり、声かけであったり、連係があるチームになっていった。
投手陣に関しては、実はエラーが出るように登板をさせていました。一回壁に当たってみないと、何が武器か、何に取り組むべきかというのは分からない。打たれようがどうしようがまずたくさん経験してもらおうと。それで意見交換して、準備をしていきます」
初陣のJABA大会で理想的な勝利
そして5月。マルハンGIVERSの初陣となったのは、5月2日JABA新潟選抜大会だった。チームでは初の3連戦となる短期決戦だ。

新潟コンマーシャル倶楽部との初戦、先発したのは藤澤大翔(ふじさわひろと)投手だった。初回をテンポ良く三者凡退で切って取ると、その後も危なげなく散発の4安打に抑え、無失点。四死球もなく7回を89球で投げ切った。
打線も活発で、2回には安保勇咲(あんぼゆうさく)主将のタイムリーで2点先制。5回に3点、7回にも3点と追加点を挙げると、10安打8得点の猛攻を見せ、8-0(7回コールド)の快勝で初陣を飾った。

先発が7回完封、打線は8得点という理想的な勝利だったが、館山監督は「嬉しい!というのはないですね。もう次のことを考えています」と感想を述べた。
「しっかりいい準備ができていたと思います。オープン戦で色々なことをやってきたのが良かったのかな」
安保勇咲主将はこの日4打数2安打4打点と大活躍だった。「セレクションで一番輝いていた」と館山監督が一番に獲得を決めた中心選手だ。
「何としてもこの試合に勝とう、ということは試合前にみんなで共有していました。先制できたことが一番大きかった。自分としてはチャンスで打てたし守備もいいプレーはあったんですが、最後にエラーしてしまって、主将としてもう一段締めるところは締められたかなと思います」
初勝利に喜びを見せたが、浮足立つことなく反省も忘れなかった。
「館山監督は常に冷静というか、一喜一憂しない。常に先を見ていて、自分たちもすごくやりたい野球ができていると思います」
強豪を相手に2勝目
「野手がとにかく頑張って、投手がどんなに点を取られてもその分取り返して勝ち上がっていけるのが今のチームだと思います」
そう安保主将が言ったように、翌5月3日、マルハンGIVERSは強豪日立製作所を相手に勝利を挙げる。日立製作所も13安打で攻めたが、GIVERSは12安打と5投手の継投で6-4と競り勝った。
5月4日の読売ジャイアンツ三軍戦では8-11で敗れ、決勝トーナメント進出はならなかったが、チームの第一歩として十分な結果を残したと言っていいだろう。
元独立リーガーがチームのアクセントに
在籍選手23名のうち、21名が今年23歳と、全体が若いチームだ。実戦経験の少ない選手も多い中、大きな存在感を示しているのが独立リーグ出身選手だ。
26歳の落合恭平(おちあいきょうへい BC信濃→BC群馬)、同じく26歳の布施大聖(ふせたいせい BC群馬)、高卒後4年間を独立リーグで過ごした石川慧亮(いしかわけいすけ BC栃木)。
野球に集中し多くの実戦を経てきた彼らに、安保主将も「経験や考え方は、大学で4年間やってきた自分たちよりもっと深いものを持っている。学ぶことも多く、いいお手本になっています」という。

捕手として高い守備力を見せる落合。布施、石川の打撃は独立時代から高く評価されていた。新卒の選手たちも大いに刺激されており、「いい相乗効果がある」と館山監督も頷く。
5月24日からは、都市対抗野球の宮城県予選が始まる。その時にはまた一回り成長したチームが見られるだろう。一次予選、二次予選、本選と勝ち抜くのは容易ではないが、館山監督とマルハンGIVERSはどんなアプローチをしていくのか。今後に注目したい。
(取材・文・写真/井上尚子)